第31話 不思議な失踪 その一

 妙な依頼が来ちゃったよ。

 行方不明者の捜索依頼なので一応受けたんだけれど、詳しい話を聞くと、どうもたくさんの人が参加しているパーティの最中にドロンしちゃったみたい。


 パーティ会場の出入り口、当該会場がある建物の出入り口には、数台の監視カメラが設置してあって、当該行方不明者は会場内に入ったことは確認されているが、出たところは確認されていないんだ。

 パーティというのはいわゆる婚活のための集団お見合いパーティだった。


 失踪したのは、都内でアパレルデザイナーをしている北条理恵さん27歳。

 まぁ、結婚を望む女性としては微妙な年代に差し掛かっているのかもしれないな。


 例外はあるけれど、往々にして女性の場合は18歳前後から25歳前後が一番身体的には輝いている時期だと思う。

 だからこの時期から離れれば離れるほど、輝きというか女性としての外見的な魅力は薄れてくる。


 尤も、女性の内面的な美しさは40代半ばまで続くから、男性の伴侶候補がどちらを優先するかで方向性は変わるかもしれないし、最近の女性は化粧が上手になったから年齢が高くても若々しい方はいるけれどね。

 特に、近年は女性が自立できるようになった所為もあって、結婚する年齢が男女ともにかなり上がっているのは事実だ。


 ただし、結婚願望のある女性にとっては、無為に年齢を重ねて行くことは切実な問題なんだろうと思う。

 生活力があって、高学歴、イケメンで舅や姑が居なければ万々歳という時代もあったが、最近はどうなんだろうね。


 高い収入を得ているはずの芸能人等が結構な頻度で離婚をしているのはよく聞く話だ。

 もう10年ほども前の統計なんだが、全国平均で離婚率は35.5%になるんだそうだ。


 これは単純に結婚したカップルの数で離婚したカップルの数を割った数値でしかないので、結婚した人の35%が必ず離婚するという数値でもないような気もするが、およそ50年ほど前までは離婚率が20%を切っていたのに、1990年ころから2010年にかけての20年間ほどの間に14~15%ほども増えているようだ。

 下手な推測はしないほうがいいのかもしれないが、女性の自立と上昇志向が目立ってきた証拠かもしれないな。


 少なくとも第二次大戦以前の女性は、ごく一部の例外を除いて、「しては夫に従い」という従順・貞淑ていしゅくな人が多かったように思う。

 その原因の多くは社会的な風潮や教育にもあっただろうけれど、女性が一人では生きにくい時代であったのは間違いがない。


 それに比べて、女性が色々な職業に進出し、男に伍してバリバリと仕事をするようになってから、女性自体が必ずしも結婚願望を抱かなくなった所為も多分にあるのだろうと思う。

 もう一つ、出会いが少なくなった可能性もある。


 親父達に聞いた話では、昔は、親戚や知り合いから見合い話がもたらされたそうだ。

 爺さん婆さんを含む数家族が一緒に住む大家族から、核家族に移行してきた時代になって、そうした風習が途絶えつつあることが、そもそも結婚をする男女が減った理由の一つなのだろう。


 むろん、ドンファンのように手当たり次第に女を漁るような男も相変わらずいるのだろうし、反対に女性で男漁りをしている人もいるのかもしれない。

 そんな特殊な事例を除いては、普通に男女が知り合って付き合いはじめ、結婚に至ることが多いのだろうと思うけれど、親戚や知り合いからもたらされるお見合いという機会がなくなったために、企業が婚活のためのお見合い企画を演出して利益を出すようになったんだろうね。


 ただし、知り合い等が紹介する見合いと異なり、相手の人物を必ずしも保証するものではない。

 親戚や知り合いから紹介される娘さんや息子さんは、ある意味で一時的なフィルターにかけられた人なので、意外と信頼性の高い人物なんだ。


 まぁ、紹介する人がいい加減な人だったり、人物評価を見誤っている場合だって無きにしも非ずだが、営業による婚活パーティでは、あくまで自己責任が付きまとうから、己が目で相手を確認しなければならないんだな。

 だから、簡単には決まらない場合も多いし、その逆に特定のデータだけに依存して結婚を急いだ結果として、破綻を迎える場合もある。


 だが、今回の場合は、そうした端緒の段階で女性が失踪するという妙な事案のようだ。

 北条理恵さんが件のパーティに参加した以上は、結婚願望があったのだろうと思う。


 主催者によれば、例えば友達と一緒に参加するというようなケースもあって、その場合、一方の友達は付き添いまたは参謀役の場合もあるそうだ。

 尤も、パーティ自体が有料であるから、そういった事例は少ないと主催者は言っていたけれどね。


 ちなみに北条理恵さんは、一人で参加手続きをしており、受付にも一人で現れたそうだ。

 結構な美人だったので受付のコンシュルジュ的な女性がよく覚えていたよ。


 いずれにせよ、北条理恵さんが午後7時から二時間のパーティに出席したのは間違いなく、監視カメラにより建物及び会場へ入った時間は特定されているし、CM用にパーティ最中の状況を撮影したビデオにも一部彼女の姿が映っている。

 その時間はパーティが開始されてから1時間12分ほど経った頃あいだ。


 だが、パーティが終了した時点では彼女は居なかったようだ。

 少なくともパーティ終了時点で点呼までは行っていないが、会場に残っていた全員が退出したのは主催者側の社員が確認している。


 トイレも含めて確認しており、倉庫等の隠れるような場所もないようだ。

 ケイタリングを準備する作業場所はあるんだが、ここに参加者ははいれないことになっており、実際に立ち入った者は居ない。


 彼女の失踪は、翌朝になっても出勤してこないことから、会社の同僚からパーティ主催者側に照会があったようで、その時点で主催者側も複数の監視カメラの映像を確認したようだが、あいにくと北条理恵さんがパーティ会場を出た姿が映っているものはなかったのだ。

 いや、一度は会場を出てお手洗いに行った様子もうかがわれるが、その際は十分もたたないうちに会場へと戻っている。


 その時間は監視カメラの記録から見る限り、パーティが始まってからおおむね45分ほど経過した時点だった。

 そうして、CM用に会場の中を撮影していた主催者側のビデオに映ったのを最後に彼女の姿は確認されていない。


 参加者は、男女ともに40名の計80名だが、企画側でもパーティ中に謎の失踪などどマスコミにでも騒がれたなら大問題になりそうなので、事案が発覚してから参加者全員に念のため連絡を取ったが、あいにくと北条さんのその後の動静を知る者は居なかったといってもよいだろう。


 一応、パーティ開催中の40分ほどは、とっかえ、ひっかえしつつ、グループ交際的な時間があって、その中で北条理恵さんを覚えている男性もいたし、同じグループにいた女性もいたようだが、いずれも美人だったという印象はあってもその動静を一々把握していなかった。

 大の大人が、パーティ最中に目の前から忽然と消えたりすれば誰でもおかしいと感じるはずなのに、それが無いということはどういうことなのか?


 少なくとも秘密の抜け穴でもない限りはパーティ会場からは抜け出られないはずなのだ。

 パーティ会場の出入り口は二つだけであり、当該会場のある建物自体の出入り口は四か所だけ。


 そのうち一つは作業員用の出入り口であるが、そのいずれもが監視カメラで出入りが確認されているのである。

 窓は施錠されており、建物の外に出ること自体が難しい。


 建物は天井の高い平屋構造で、催し物だけに使用されるレンタル会場である。

 まぁね、建物がどうであろうと、俺がやるのは失踪者の行方を探ることだ。


 やることは普段と変わらない。

 すぐにでも消息が分かるだろうとある意味で高をくくっていたんだ。


 だが、豈図あにはからんや、まったく情報が得られなかったんだ。

 建物にも会場にも複数の霊が存在していたんだぜ。


 しかしながらそのいずれもが北条理恵さんの情報を持ち合わせていなかった。

 彼女が参加したパーティが開催されたのは、3月20日(月)で春分の日の祝日。


 翌日21日が出勤日にもかかわらず出勤してこないので同僚が心配して主催者に問い合わせたのだった。

 その同僚が、婚活パーティを北条理恵さんに紹介したので20日に参加することを知っていたからだ。


 こういった婚活パーティでは、パーティ開催後に気に入った男女同士でデートするのも当たり前であり、主催者側もそこは出席者の自己責任に任せているのだが、行方不明となったのがパーティを端緒とした犯罪などであれば確かに問題なのだ。

 俺の事務所に依頼が来たのが、失踪から四日後の24日だった。


 この短期間であれば霊や精霊たちからの情報は鮮度が高いだけに間違いのないはずなんだが、彼らが誰も北条理恵のことを覚えていないのである。

 監視カメラの情報もビデオの映像もあるにもかかわらず、まるでそんなことがなかったかのように霊や精霊が振舞うのはとても異常なことである。

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