第29話 危ない依頼? その二
工作員は壱岐島北部の
侵入方法は潜水艦で沖合に接近、そこからアクアラングと水中スクーターで潜水しながら島に接近、海浜に上陸して、出迎えた者に品物を渡す計画だ。
因みに出迎えの者は、萩原隆一と名乗る男で、勝本町の旅館万石荘に釣り客と称して宿泊する計画である。
萩原なる男は、本籍を広島に有する日本人ということになっているが、実は半島某国の末端工作員の一人であり、浮浪者から戸籍を買い取って日本人に成りすましている男である。
戸籍を買い取られた日本人の男は、その三日後には薬物の過剰摂取で死亡しており、ドラム缶の中にコンクリートづけされて、人知れず日本海に投棄されている。
ブツの受け渡し予定日は、次の新月である3月15日となっている。
昔から半島某国の連中は新月の夜に暗躍している様だね。
使用される細菌は、変性炭疽菌であり、本来炭疽症は人から人へは感染しないはずのものだが、突然変異により、人から人への飛沫感染を引き起こす悪性菌のようだ。
研究所内での犯罪人に対する人体実験では、感染してから三日で発症し、五日後には呼吸不全で死に至る。
なお、発熱する三日目から五日にかけては咳等により周囲に菌をまき散らすことから空気感染に近い状態になる。
呼気により飛沫を吸い込んだ場合、飛沫のついた物に手で触れた場合にその皮膚から浸透するなどかなり感染力が強いので、防護服なしで患者に接近するのは非常に危険であるようだ。
運搬中は密封容器に入れて運ぶことになるが、容器自体がアンプル的な代物で、すぐに割れて液状の溶液から細菌が散布される仕様になっている。
この液状のものは昇華しやすく、炭疽菌自体が数十秒で周囲に拡散する。
従って、これを持ち運ぶ者にも命の危険が及ぶのだが、受取役の萩原にはそのことが伝えられておらず、壱岐の旅館の部屋でアンプルを割って、速やかに退去せよと指示されるようだ。
この萩原という男は佐賀県在住であり唐津市の食品工場に勤めている。
住まいは唐津市西部の橋本町の中古住宅に一人で住んでいる。
今回の計画でも、軽の自家用車を使い、唐津港から九州※船のフェリーに乗って壱岐の印通寺港へ移動する予定である。
無論、帰路も印通寺からのフェリーで唐津に戻ることになるが、壱岐島は離島だし、唐津も大都市ではない。
但し潜伏期間が三日と長いために、感染者が感染に気付かずに広域を移動した場合、九州一円どころか、全国に広まる可能性が高いのである。
正しくナイチョーさんが懸念する国家存亡の危機である。
とんでもないことを計画する奴が居る者だが、いずれにせよ何とかせにゃならんので、ナイチョーさんにはいちいち通報せずに俺の独断で動いたよ。
一つは、接触役の萩原隆一なる男、末端の工作員であるとか、中身を知らないであろうとか関係なしに、今後とも危険因子になりかねない者は物理的に消えてもらうことにした。
次いで、半島某国北部にある細菌研究所だが、とある事故で所員全員が死亡し、同時に薬品火災が生じて研究所自体が焼け落ちることになる。
またこの計画の主導的立場にあった、人民軍偵察総局の第四部の関係者、更に計画の実行に了承を与えた国家指導部の関係者は死んでもらうことにした。
たまたま半島某国を訪問していた中東某国の代表団との会食にO-157を混入させて、出席者全員の腹具合を悪くし、それとは別口ながら同時期に関係者一同が中毒死してもらうことにした。
O-157では滅多に死人はでないが、チョット特殊なサルモネラ菌なら簡単に死ねるんだぞ。
腹具合が悪くなったのは首領様とそのご家族も含まれるね。
首領様も二日ほどはトイレとお友達になってげっそりしていたようだ。
もう一つ、壱岐島まで潜航して接近する予定だった潜水艦は、半島某国の新造艦だったようだけれど、日本海の深いところ(水深1800m)に沈めて圧壊させることにした。
乗組員の意志とは無関係に、艦が移動し、勝手に沈んだだけの話だよ。
これらの実行についてはダイモーンにお願いしたんだ。
俺は別にそこまで詳細な指示はしていないよ。
ダイモーンが俺の意をくんで動いてくれただけなんだ。
だから、中東某国の代表団と同じ会食なのに、首領様ご一統には特に強いO-157を割り振ったようだよ。
実のところ、俺がダイモーンに言ったのは、関係者に対してきつめにお仕置きしてほしいとお願いしただけなんだ。
ダイモーンのお仕置きとしてはこれでもまだましな方だと思うぜ。
放っておけば半島某国が物理的に地図から消えていたかもしれないんだ。
ダイモーンは、良識があるからまだ抑えているけれど、半島某国と隣国ぐらいなら間違いなく瞬時に海の底に沈めるぐらいのことはできちゃうぜ。
勿論そんなことされた日には我が国にも大きな物理的被害(地震やら津波やら?)が生じるだろうから俺は必死に止めるけれどね。
で、俺の方は、半島某国の組織が企んでいた計画概要を箇条書きでナイチョーさんに伝えるとともに、関係する細菌研究所が火災で消滅し、そこに勤める研究者たちが全員焼死したこと、日本国内で細菌を受け取ってばらまく役目を負っていた偽装日本人が何故か消息不明になったこと、半島某国でこの細菌散布計画に指導的役割を果たしていた組織及び国家指導部の責任者が食中毒で死亡したこと、計画に使われる予定だった半島某国の新造潜水艦が日本海の対馬海盆で沈没したことを情報として伝えた。
その上で、計画に使われる予定だった細菌は、研究所内から搬出される前に火災に遭って消滅したようであること、また、関連データ一切が燃えたほか、サーバーに保管されていた電子ファイルが全て削除されていることから、同じ細菌は簡単には造れないことを付け加えておいた。
ナイチョーの葛西さんは、
「どうして、そんなことが君にわかるのかね?
君が少なくともウチから依頼を出して以降、都内から離れていないのは確認しているし、海外に電話やメールを送った形跡もない。
従って、ただでさえ情報入手が難しい半島某国の様子が分かるはずが無いんだが・・・・。
それが確度の高い情報とすれば、何か伝手があるのかね?」
「ええ、とある確かな伝手からの情報です。
情報元はお教えできません。
俺のところには半島某国の首領様とそのご家族が食中毒でおなかを壊したということまで情報が伝わってきています。
中東某国の代表団が一緒の会席で集団食中毒になったようですから、そちらから確認の情報が取れるかもしれません。」
「ン?
先ほど君が食中毒で死んだ幹部の話をしていたようだがそれと同じかな?」
「いいえ、先ほどの関係者の食中毒とは別物です。
首領様たちはO-157、死んだ者はサルモネラ菌中毒のようですよ。」
「つかぬことを聞くが、まさか君がやったわけではないだろうね?」
「まさか、日本から離れても居ない俺にどうしてそんなことができますか?
飽くまで、これは俺が抱えている確かな筋からの情報に過ぎません。
一応、依頼に関わりのある細菌によるパンデミックの危険そのものが無くなったものと判断していますけれど、確認の方はオタクの方で取ってください。
俺の方はこれで手を引きます。」
半島某国での災厄とでも言うべき一連の事件の発生日時、場所を記載したメモを渡しておいたから後は、ナイチョーさんか別の組織が確認するだろう。
因みに萩原隆一に関しては、住所と氏名のみを記載したメモを渡した。
彼の遺体は絶対に見つからないから、消息不明として扱われるだろう。
公安調査庁とか警察辺りがガサ入れもするだろうし、身辺調査もするだろう。
もしかすると広島県にいるであろう親族とDNAを比較することで、偽装日本人であることも判明するかもしれないな。
いずれにせよ、その辺は俺の関わる話じゃない。
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