第28話 危ない依頼? その一

 2月初旬、我が家の庭の一画で梅の花が咲いた。

 まだ三分咲きだが、おそらく月半ばには満開になるんじゃないかと思う。


 梅の木は左程年数が経っていない。

 梅の花の霊に聞いたら、この敷地に苗木で植えられたのが八年ほど前のことらしい。


 植えたのは園芸店の職人さん。

 植え替えはキチンとされて居たらしく、その後例の事件があって、庭に人手が入らなくなってからも丈夫に育っていたようだ。


 因みに庭の一部の草花で手入れがされずに枯れてしまったものもあるんだが、この梅は元気なようだ。

 他に桜の木なんぞもあるから、ウチの庭だけでも四季折々の色合いが楽しめるようになっている。


 そのためには剪定等手入れが大事なので、色々と情報を仕入れて腕の良い職人さんに庭の手入れを頼んでいる。

 金もかかるがそれもやむを得ないだろう。


 ところで梅が開花して3日目には、マジもんの危ない依頼がやってきた。

 依頼人はナイチョーさんだ。


 年末から年始にかけて要注意期間だった話が、2月に入って警報レベルになったようだ。

 正直なところ一介の私立探偵に依頼するような話じゃないと思うんだが、無理やり押し込んできたね。


 何が危ないかというと、どうも関わっているのは危ない首領様のいる半島某国のテロ工作員のようだ。

 過去にあった誘拐や拉致かと思ったが内容が違うようだ。


 新たに開発した危険な細菌をどうも我が国に持ち込んで散布しようとしているらしい。

 これは、半島某国と半分敵対する隣国の情報機関から米国を通じて入ってきた情報で、確度は低いのだが、某国の細菌研究所が新たに開発した細菌を我が国に持ち込んで、大都市でテストをするらしいという情報だ。


 そうして驚くべきことに某中華国からも同種の情報が流されて来ているのだ。

 どうも某中華国は半島某国に加担していると見られることを懸念して事前に警告して来たのではないかという解釈がなされている。


 半島某国が国連から制裁を食らっている現状だが、半島某国にはそれなりに国交のある国もある。

 特に武器の輸出関係で中東などとも強く結びついていることから、完全な鎖国状態ではない。


 尤も、我が国とは断交状態が続いており、基本的に半島某国の船や飛行機が我が国に出入りすることは無い。

 然しながら、40年ほど前に日本人に成りすまして隣国の航空機に搭乗し、爆発物を仕掛けた事件があったように、海外から偽装して日本に入国する方法は無いわけではない。


 かつては、特殊工作船や潜水艦を利用して我が国で拉致誘拐を繰り返していた犯罪国家であるから、どんな手法で我が国に入国するかは定かではない。

 おまけに我が国には○△総連などという元半島某国の出身者からなる団体もあり、中には日本国籍を取得している者も多数いることから、実は工作員との区別が容易につかないのが現状である。


 但し、そうした者も半島某国への渡航は制限されているので、現状ではなかなか交流ができてはいないはずであるが、依然として活発な交信は行っているとナイチョーさんはみているようだ。

 俺への依頼は、当該細菌の運び人若しくは密輸物件を見つけてほしいという依頼である。


 4月15日が半島某国の記念日にあたるらしく、その日に決行する恐れが高いと見られているらしい。

 実は年末年始にかけての予令は、もう一つの記念日が2月16日だったことから、2月16日決行の可能性もあったので待機させられたようだが、隣国からの追加情報でその線が無くなったことから解除されたようだ。


 4月15日が本命かどうかは未だ不明なのだが、半島某国の工作員が密かに潜入するならば2か月前ぐらいから要注意ということで俺にも依頼があったようだ。

 某中華国から発生した感染症が世界中で猛威を振るったように、仮に情報が正しければ新たな細菌が感染症を引き起こすことは間違いないであろうし、場合により中世ヨーロッパで猛威を振るった黒死病のような危険な病気である可能性もある。


 大勢の命がかかっている可能性もあることから、俺も流石に依頼を無碍むげには断れなかったが、ひとくさり文句はだけは言っておいたよ。


「止むを得ませんから、一応受けますけれど・・・・。

 これって、私立探偵が受けるような話じゃありませんよね。

 そこのところ分かっていますか?」


 ナイチョーの葛西班長が言った。


「この情報が事前に表沙汰にされたなら国民の間にパニックが生じるだろうし、下手をすると〇△総連あたりが右翼や暴徒に襲撃される恐れもある事案だ。

 従って、普通の私立探偵になんぞは絶対に依頼をしない。

 君だからこそ、お願いするんだ。

 無論、この情報がガセネタであれば、それはそれで構わないんだが、・・・。

 もし本物であるとすれば、国内のどこかで菌がばらまかれて発症してからでは遅いんだ。

 我々政府機関も引き続き精いっぱいの努力はするが、何とか悲惨な未来を未然に防止するために君の力を貸して欲しい。」


 まぁ、そんなわけで押し切られたわけだけれど、手は余り無い。

 仕方が無いから奥の手を出すことにした。


 九尾の狐とダイモーンにお願いだ。

 隣国でも九尾の狐の伝承って残っているんだね。


 九尾の狐は、古来、大陸や我が国、半島部などに伝わる伝説上の霊獣・妖怪とされているので、大昔の某中華国の伝承がそのまま極東域に残っているのだろうと思う。(因みにベトナム(南蛮域?)にもあるようだ。)

 で、九尾の狐の眷属が半島某国にもいるみたいなんだよね。

 

 それで連絡を取ってもらったんだ。

 そう言えば隣国で九尾の狐を扱ったドラマがあったよな。


 たわいもない恋愛ドラマに過ぎないから、放映されていても俺は見ていなかったが情報としては知っている。

 因みに半島にいる眷属は、五尾の狐らしい。


 本家本元の某中華国では三尾、ベトナムでは二尾だそうだ。

 尾の数が多いほど霊力が強いと聞いている。


 どうもアジア東部域の九尾の狐の首領的な位置に俺の守護霊はいるらしい。

 どや顔の守護霊さんがそう説明していたな。


 我が国以外の地域では、一応伝承としては伝わっていても信仰心が薄くって、眷属の力が弱まっているために尾の数が少ないそうだ。

 霊的な存在、特に神獣や霊獣的な存在は、人々の信仰心とかなり強く結びついている。


 我が国で九尾の狐が今もって存在できるのは、稲荷大社への信仰が大きいからだそうだ。

 で、そんな存在が何でおれの守護霊でくっついているのかよくわからないんだが、俺の守護霊さん曰く、俺の特異体質で、霊力を保持する能力が強いようで、俺の傍にいると霊が活性化できるし、権能を維持できるらしい。


 九尾の狐さんのことを、俺は「コンチャン」と呼んでいるけど、彼女(?)も俺のその能力に惹かれてくっついたそうだ。

 俺が生まれた時の話だからな、正直な話、俺は詳しいことは知らん。


 俺がコンチャンを初めて認識したのは幼稚園の頃かな?

 コンチャンと色々お話ししているうちに他の霊とも交信できるようになったという訳だ。


 昔話はともかく、半島にいる眷属の五尾の狐さんに情報収集をお願いした。

 半島北部のSinŭiju近郊にある秘密研究施設が半島某国の細菌研究所と一応確認されたんだが、生憎と五尾の狐さんの権能は半島某国ではかなり削がれるらしい。


 元々地域に根差した霊であるし、信仰心の乏しい半島某国ではなかなかに情報収集もままならないらしい。

 この情報は権能が及ぶ隣国国内と半島某国の国境付近の地域から得られた情報で、これ以上の深入りはできないようだ。


 取り敢えず疑惑の研究所の所在が分かったことから、次にダイモーンさんにお願いして、半島某国の首都の情報を探ってもらう一方で、俺の友でもあるエレック君に某中華国経由で半島某国の政府系ネットに侵入、電子情報を集めてもらい、関連情報を検索した。

 その結果、判明したのは、情報は半分正解、半分不正解だった。


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