第23話 NCISからの依頼
またまた、外人のお客さんが来たよ。
前回は中東のアラブ人だったけれど、今回は米国人で、一応通訳を連れている若い人、と言いながら俺よりも年上だな。
俺が英語で対応すると通訳はそっちのけで英語での話になった。
外人さんは、横須賀米海軍基地にあるNCIS支局の班長さんでレイモン・ファビットさん、通訳は日系人でクリス・アイダという。
NCISと言うのは、米国の海軍犯罪捜査局(Naval Criminal Investigative Service)の略称だ。
陸自にある警務官のように、米海軍内で起きた犯罪又は米海軍に属する者が起こした犯罪、若しくは米海軍に属する者が被害者となった犯罪を捜査する権限を有する。
日本国内の場合、日米地位協定に基づいて一定の優先的捜査権限を有するが、必ずしも日本の司法権を排除するものではない。
で、一体何の話かと聞いてみると、横須賀の通信局で勤務していた若い士官であるデビッドソン・マークス中尉が消息不明になったらしい。
用件はその若い士官を探してほしいという依頼なんだ。
但し、横須賀はどちらかと言うと地理不案内だし、そもそもNCISが関わるような事件には関わりたくないわけなんだが・・・・。
「何故、渋谷に事務所を構えている私のところに依頼しにきたのでしょうか?
そもそも横須賀にも私立探偵はいるでしょうに・・・。
行方不明になったデビッドソン中尉が渋谷に来たという確証でもあるのですか?」
「いや、彼は神奈川県からは出ていないと判断している。
仮に生きているとして可能性が最も高いのは横浜だな。」
「生きている?
死んでいる可能性もあると?」
「NCISでは、彼がいずれかの組織に拉致されたものと考えている。」
「ふむ、拉致した者がどこの誰かは知りませんが、デビッドソン中尉を拉致するだけの価値があるということでしょうか?」
「すまないが、その辺は海軍の秘密に関わることなので口外出来ないんだ。
それと、君の評判についてはFBIの東京支局長から聞いたんだ。
解決困難な事件を人知れずいくつも解明しているそうだね。
特に人探しにかけては、生者であれ、死者であれ、九割程度の確率で探し当てていると聞いている。
そんな君だから、今回のデビッドソン中尉の消息を探してもらいたいのだ。
5日前の休暇で基地を出て以来、ふっつりと消息が途絶えている。
万が一にでも彼が知っている軍の機密を諜報機関などに奪われると取り返しのつかない事態になる恐れもある。
従って、先ほども言ったようにその機密内容を言う訳にはいかないが、早急に彼の身柄を確保しなければならないんだ。
日本の警察には、消息を絶ってから二日目には顔写真付きで捜索依頼を出しているところだが、今のところ何の手掛かりも得られていない。」
ウーン、この手の話は外国の諜報機関が関わると
多くの場合、
そんな奴らとは関わりたくは無いんだが・・・。
「デビッドソン中尉にはご家族は?」
「彼は独身でね。
ミズーリ―州にはご両親と妹さんが確かいるはずだ。
そうか、家族が居るなら生きて会わせてあげたいものだな・・・。
止むを得んな。
俺が探偵を始めた理由は無事を祈っている家族に消息不明者を返してあげることというのが原点なんだ。
面倒ごとには余り関わりたくないのが本音とは言え、多少のリスクは最初から織り込み済みの筈だしな。
結局俺は依頼を受けることにしたよ。
但し、横須賀の米軍基地に入り、彼の宿舎を調査することができるようにしてもらうのが依頼を受けるための最低条件だ。
これが無いとなれば、そもそもどこを探してよいやら見当もつかない。
門前から痕跡を辿ることもできるが、あれは一つ一つ追わなければならないから時間がかかるんだ。
それよりは彼の住まいで何らかの端緒を掴めないかと思っている。
レイモン・ファビットさんとクリス・アイダさんのここまでの足は鉄道らしい。
そこで二人を俺の車に乗せて、横須賀までドライブすることにした。
車内での会話も情報収集が主になる。
渋谷から横須賀米軍基地のゲートまでおよそ1時間強だな。
軽車両ではあるが、俺のマイカー4WDは機動力があるし、車内も意外と広いんで、外人さんを乗せても大丈夫なはず。
事務所の地下車庫から車に乗って横須賀に向かい、午後一には米軍基地内に入っていた。
基地内PXの付設レストランで軽食をおごってもらい、それからデビッドソン中尉の宿舎に直行。
当然のことながらNCISの二人は俺にべったりとくっついている。
余計なところをうろつかさせないための警戒要員を兼ねているようだな。
デビッドソン中尉の宿舎は二戸一の平屋住宅で玄関が並んでいるタイプだな。
此処は家族宿舎ではなく、独身士官用宿舎の模様だ。
因みにお隣さんは、勤務中なのか不在の様だ。
宿舎の中に入って調査の真似事しながら、居付きの霊や精霊に話を聴く。
レイモンさんからは聞いてはいなかったが、どうやらデビッドソン中尉には馴染みの女性がいたらしく、失踪当日もその女性とのデートの約束があった模様だ。
女の名前はケイ・ヤガシラ、少なくともこの宿舎に顔を出したことは無いらしい。
彼女の勤め先は横浜市内のパブスナックのようだ。
残念ながら名刺や店の名前が分かるようなものは室内には無かった。
デビッドソン中尉は日記もつけていないから、その辺の情報は探れないようだ。
因みに彼のノートPCは、通信隊の手で解析されたが、手掛かりは何もなかったとのことだ。
まぁこの家に居付きの精霊から聞く限り、彼女の勤め先のパブスナックは「Black Amber」、スマホで調べたらすぐに住所がわかった。
デビッドソン中尉の顔写真からゲート付近の精霊に聞いたら、当日の服装が分かったよ。
ゲート付きの精霊は、門衛などが年月日や時刻を記入するので、明確に時間の流れを把握していた。
デビッドソン中尉がこのゲートを出たのは午後6時過ぎだったようだ。
服装はスラックスにハイネックのセーターそれに革ジャンと革靴だ。
晩秋に近い今の時期なら目立つ服装と色合いではない。
特徴的なものはカージナルスの赤いキャップを被っていたことぐらいかな。
デビッドソン中尉の身長は俺と同じぐらい。
まぁ、中肉中背の優男と言う感じかな。
で、その日は一応メルキュール横須賀に泊まることにして車を預けた。
夕刻6時に京急の汐入駅に行き、駅で情報収集をしてから、横浜へ向かった。
汐入駅から横浜駅へは快速で27分、その他で40分弱だな。
横浜駅からは、みなとみらい線に乗り換えて馬車道駅へ、そこから歩いて五分のところに目的の「Black Amber」が入っているビルがある。
東横線の桜木町からでも徒歩で十分圏内なんだが、馬車道の方が近いのでそちらにした。
現場に着いたのは午後7時過ぎ、一時間ほど最寄りのカフェで時間を潰したよ。
この際に俺に付いている精霊から尾行者がいることを知らされた。
米軍基地内からずっとつけているらしいから、まぁその筋の関係者だろうが、場合によってはデビッドソン中尉の宿舎を張り込んでいたスパイの線もあるのかな?
情報では俺を尾行しているのはアジア系の顔で日本人かどうかも不明ということだ。
単純にNCISの関係者ならば良いけれど、そうじゃなければ荒事になる可能性もあるから十分注意しなくちゃな。
特にBlack Amberに入る際には、可能な限り精霊・妖精の警戒を増やしておこうと思っている。
いざとなれば、「蔵」に入っている居候達にお願いするしかない。
その場合、下手をすると死人が出ることも想定しておかねばならないかもしれないなぁ。
何だか憂鬱だぜ。
午後八時を過ぎてから某ビルの三階にあるBlack Amberの扉を開けて中に入った。
すぐに日本人風の若い女性が俺の相手をして、テーブル席に案内するが、俺の方は丁重に断ってカウンター席に座ることにする。
多分テーブル席だとチャージ料が取れるし、お仲間の女性も呼べるので割が良いのだろう。
飲むには飲むが、情報収集が主なんでたくさんの女の子の相手は無理だな。
で、俺の隣に座った「ミナ」という娘と適当に話をしながら、俺は器用に精霊さんと話をして情報を漁っている。
ケイ・ヤガシラなる女は確かにこの店で働いていた。
だが、五日目前に出勤して以来、翌日に急に辞めると電話してきて以来、姿を見せていないそうだ。
その日、確かにデビッドソン中尉がこの店に現れ、当のケイ・ヤガシラが相手をしていたのは確かなようだ。
ケイ・ヤガシラの住所は、精霊がママさんのメモを見て知っていた。
横浜市中区山手町にある某マンションの一室だ。
ネット情報で見る限り、賃借地の上に建っているかなり古いマンションだが、それでも3LDKで二千万は超える。
まぁ、パブ嬢だと実入りも良いのかもしれないな。
あるいは別にパトロンが居るかもしれない。
精霊が送ってくれた念話の顔で、そこそこ美人だとわかる。
少しハーフがかっているかもな。
まぁ、しょうがないからマンションに行ってみるか。
マンションには入れないが、道路脇の壁伝いでビルの精霊等には話しかけられるぜ。
で、ケイ・ヤガシラ名義の部屋には今現在は誰も居ない。
そのまま名義は変わってはいないのだが、五日前の夜11時半ころベッドでプロレスごっこをしている最中に男三人が乱入。
デビッドソン君は拉致されて、大きなトランクボックスに入れられて部屋から運び脱された。
その時の様子からしてケイ・ヤガシラは一味である可能性が高い、何せ男たちの居る前で平然と着物を着て部屋を出て行ったからな。
因みに部屋の鍵をかけたのも彼女だ。
美人局なんだろうが、目的は誘拐による金目当てではなさそうだな。
やっぱりデビッドソン中尉が関わっている仕事上の秘密が目当てと言うことなんだろう。
諜報組織なら自白剤も持っているだろうしな。
急ぐからこのまま追跡をすることにする。
秘密がばれたら用済みのデビッドソン中尉はおそらく消されるのだろう。
できればそれを防ぎたい。
運び込まれた車から車両ナンバーを特定、エレック君に無理を言って警察の道路監視システムに潜り込んでもらって当該車の行く先を特定した。
最終的に辿り着いたのは横浜市中区山手の豪邸街のお屋敷だな。
戸番から中華系法人の所有する家と分かった。
日本は外国人に寛容だからね。
外国人であっても土地や家なんかは結構買えちゃうんだ。
為に北海道の羊蹄山の麓には大勢のオーストラリア人が別荘を買っているらしく。
ド田舎に横文字のお店が多数あるということが〇oogle Mapで分かるぜ。
オーストラリアでの夏は、日本での冬に当たる。
何でもパウダースノーと別荘の立地条件が豪州人にとっては合っていたらしく、ネットの口コミで次々に豪州人が別荘を買ったようだぜ。
まぁそれとは関りが無いだろうけれど、元々、この豪邸は華僑の商人が保有していた邸らしく、それを中国系(大陸系)の法人が買い取った者らしい。
大陸系の法人と言いながら、実は某中華大国の諜報組織のアジトだよ。
この辺の情報はエレック君が確認してくれた。
で、困ったのはこの屋敷周囲に監視カメラが多数設置されているんだ。
敷地に近づこうものならすぐに俺の姿が監視カメラに写ってしまうんだ。
仕方がないので、エレック君にお願いして、一部の監視システムの映像をループさせて俺が映らないようにしてもらって、接近、邸の精霊から情報収集した。
デビッドソン中尉は、今現在地下室で拷問を受けている最中だな。
自白剤様なものも傍に用意されているんで一刻を争う可能性がある。
おそらくは自白したらその時点で命はないだろう。
さてどうすべえかだが、・・・。
おれが困っていると、お助けマン(霊?)が現れたよ。
前にちょっとだけ紹介したことのあるギリシャから憑いてきた「ダイモーン」だ。
ダイモーンは英語圏ではデーモンとされて悪魔の代表格だが、ギリシャでは正邪併せ持つ超自然的存在の半神なんだ。
少なくとも俺の蔵に居ついているダイモーンは、俺にとっては悪い奴じゃないし、時折、好意で俺を助けてくれたりもするんだ。
『お困りのようだね?
僕なら色々できるけれど、任せてみないかい?』
『おぅ、ダイモーンさんか・・・。
うん、お願いできるならやってほしい。
でも、死人は出したくない。』
『ハハハっ、相変わらずお人よしだねぇ。
まぁ、そんなところが気に入って君についてきたんだけれどね。
じゃ、任せて。
十分後には邸の中に玄関から入ってきてちょうだい。
玄関のロックは外しておく。』
そうして十分後、俺は玄関のドアの外に居た。
恐る恐るドアを開けると苦も無く開いたよ。
玄関には守衛なんだろうかねぇ。
男が一人椅子の上でおねんねしていた。
ブレザーの脇から自動拳銃が見えてるぜ。
おいおい、ここは日本だからね。
銃刀法違反の現行犯だぜ。
あちらこちらのドアが開いているのがちょっと不気味だけれど、矢印が印刷されたA4紙が床にあるからね、それを
ドアというよりも壁の一部が隠し戸になっている様だが、こいつも開け放たれている。
きっと地下室そのものが秘密になっているんだろうな。
狭い階段を下りて行くと、六つ鉄格子のある房(檻?)が通路の両側にあり、その先に広い部屋があって、手錠と
その周囲には四人の男が床で寝ている。
念のためにデビッドソン中尉の頸動脈に手を当てて、生きているのを確認した。
床でおねんね中の四人も胸が上下に動いているから生きているな。
ダイモーンならば、簡単に人を殺すこともできるんだが、そっちの方は事前の約束を守ってくれたようなので感謝しかないな。
家付きの精霊が手錠と足枷のカギの場所を教えてくれたので、俺はデビッドソン中尉の手錠を外し、足枷を外した。
結構重いんだが、デビッドソン中尉を担いで俺は地下室を出た。
あちらこちらの部屋では男女関わりなくだらしなく寝転がっている様子が窺えたな。
で、玄関口に至ると大きなトランクがあったよ。
ダイモーンから念話が届いた。
『このトランクを警察の外事課に預けると良い。
色々な日本での諜報活動が分かるような資料とノートPCが入っている。
入手元は敢えて言わなくても差し支えないと思うよ。
因みに、あの邸の住人達は、丸々半日は眠っているはずだ。
その中にケイ・ヤガシラもいたからね。』
このまま、タクシーという訳には行かないんで、俺は警視庁の神山さんに連絡した。
その上でNCISのレイモンさんにも連絡。
さてどっちの手配が速いかな。
レイモンさんの方なら、デビッドソン中尉を預け、警察の方なら中尉と証拠も預けることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます