第21話 祟り? その一
2022年11月に発生した一家皆殺し殺人事件に関連して、松濤にある豪邸の一つが曰く因縁付きの屋敷になった。
所謂「祟(たた)り」と称される怪奇現象が多発し、およそ790平米の家屋付きの土地が全く手の付けられない屋敷と土地になったのである。
一家皆殺しにあった被害者の親族が受け継いだ土地と邸ではあるが、相続したからと言っても家にも土地にも一切手が付けられず、やむを得ずそのまま売りに出したのだが、今度は暫く買い手がつかなかった。
そうして、二年後に某大手不動産会社が安値に目がくらんで購入したのだが、高名な除霊師等に依頼してお祓い・解呪を頼んでも一向に良くならず、返って除霊師が続けて二人も奇病にかかって倒れるに及び、三番手の除霊師以降には敬遠される羽目になった。
止むを得ず、事件当時は比較的新しい建物だったのだがこれを取り壊して更地にしようとしたけれど、取り壊しの工事を請け負った建設会社に事故が相次ぎ、ついには取り壊し工事そのものが放棄されるに至ったのである。
現状は、取り壊し作業に取り掛かった
どこでウチの事務所のことを聞きつけたものか、当該大手不動産会社の渉外部長「長野某」が俺のところに相談に来たのである。
名刺を机の上に置きながら長野が言う。
「お宅様の探偵の業務で少し変わった依頼をお願いできないか、ご相談に参りました。」
「ハイ、人探しをメインに行っておりますが・・・。
法人としてのご依頼でしょうか?
それとも長野様個人のご依頼でしょうか?」
「依頼を受けていただけるならば、法人としての依頼になります。」
「そうですか、法人として・・・・。
で、どのようなご依頼なのでしょうか?」
「実は渋谷の
その噂が業界に知れ渡り、既に除霊師の方でお祓いをしてくれる方もおらず、事後処理に困っている次第です。
そこで人探しの依頼として、この除霊を受けてくださる能力のある除霊者を探していただけないでしょうか?
霊能探偵としても一時期有名になられたこちらの探偵事務所ならば、そちらの方面にも明るいかと存じまして、依頼が可能か否か確認に参った次第です。」
「失礼ながら除霊に失敗された
「はぁ、・・・。
その、非常に心苦しいことながら、お一人目の方は奇病に
一人目の際は普通に病気かとも思いましたが、二人目にも同じ症状が出て、その二人目の方は十日後に非常に苦しみながら亡くなられました。
それ以後、お祓いを受けてくれる方はおりません。」
「なるほど、命がかかった仕事ならば普通は受けないでしょうね。
予め、お断り申し上げておきますが、私は霊能者ではございません。
ただ、とある事件に関連して、たまたま亡くなった方の
その情報も嘘か誠か不明のまま、念のために探してもらったら、そこにご遺体があったというだけでの話ですので、私自身はたまたまのまぐれだと思っております。
ですから当然に除霊ができるような人物に心当たりもございません。」
泣きそうな顔をしながら秦野氏は言った。
「失礼ながら、わが社の物件に宿る悪霊と夢枕でもなんでもお話はできないものでしょうか?」
「え?
あの、霊能者でもない私に屋敷に行って、祟りにあってみろとそういうお話ですか?」
「いえ、いえ、決してそんなつもりはございませんが、・・・。
このままでは固定資産税だけで年間三千万円を超える額がかかり、既に5年で1億5千万円が無駄に損金となっております。
今後ともこの状態が続けば、わが社にとって負の遺産となることは必定なのです。
内情を申し上げれば、概ね120億の評価資産を80億の安値で購入いたしましたので、改築して転売すればかなりの儲けがあると判断したわけですが、改築工事さえもできないうえに、更地にしようとしても取り壊し工事そのものができない状況になっているのです。
土地を保有しているだけで今後とも継続的に損金が生じる上に、一部破損した箇所について公道に接していることから周辺の安全確保の観点で早急な修理をするよう都からも要請されておりますが、それすらできない状況で苦境に立たされております。
無論、現状のままでの転売は不可能でございます。
既に足元を見られて10億円でも買い手がございません。
暴力団ともかかわりのある怪しげな不動産会社ですら敬遠する始末でございます。
霊能者にお知り合いは無いということではございますが、どうか取り敢えずは探してみていただけませんでしょうか。
もし適当な人物を探していただけたなら、必要経費は別として、謝礼金として百万円をお支払いいたします。
除霊ができるか否かは別問題としてお支払いいたしますが・・・。
いかがでしょう?」
「大変、失礼ながら、高々土地や屋敷のお祓いに命を掛ける祈祷師は居ないと思いますよ。
それに、仮に居たとしてその方にどんな報酬を支払うつもりですか?」
「取り敢えず、敷地内でお祓いを試行するだけで、二千万円。
お祓いが成功したならば2億円を考えております。
「フーン、随分とお安いんですね。
人の命がたったの二千万円ですか。
それに成功したならば、あなた方は少なくとも40億円近くの利益を得られるというのに、わずかに2億円の報酬ですか・・・。
先ほどのお話では、現状では、10億円でも売れない土地、屋敷なんですよね。
単純に申し上げて報酬として70億円を約束されても良いぐらいじゃないのですか?」
「いえ、それは無理かと・・・・。
そんな額を提供すればわが社が株主総会で持ちません。」
「そうですか?
むしろ、都庁から要請を受けているにもかかわらず何もできない執行部が総会で叩かれるのではないのですか?
不良債権は多少の損金が出ても早めに処理した方が良いような気がしますけれど・・・。
まぁ、いずれにしろ私にはほとんど関わりの無い話ですね。
もし依頼されるならば一応は受けますけれど、お祓いのできる方を探すのは、一週間を限度とさせていただきます。
無駄なことに時間をかけられませんから・・・。」
「一週間でも結構ですので、取り敢えず探してみてください。
私どもといたししては、
そんなこんなで一応の依頼は受けることにした。
除霊はやったことはないが、俺の調伏で何とか出来る可能性はあるんだけどな。
但し、俺も流石に命を掛けた大博打はしたくない。
ましてや報酬が少なすぎるぜ。
成功報酬で2億円?
駄目だな。
少なくとも屋敷や土地の評価額の半分ほどももらえるのでなければ、仮にできるにしてもやるつもりはないぜ。
その後一週間、一応除霊師と名が付く者や、その能力を持っている者を色々探しては見たが、それらしき人物はいなかったな。
従って、手付金の二万円は既にもらっていたから、1週間分の日当交通費など8万2千円を長野某に請求したんだ。
ところが思いもかけない反応が返ってきた。
幹部会で検討した結果、お祓いが成功した場合の謝礼金として50億円を支払う用意があるということなので、再度一週間この条件で探してもらえまいかという話だった。
仮に、評価額が120億円として、不動産会社は購入費用で既に80億円を支出している上にさらに50億を支出するということは、それだけで最初から損を覚悟ということだ。
フーン、こいつはこの一週間で新たな事態が生じてこれ以上放置できなくなったかな?
まぁ、取り敢えずは人探しを延長することにしたが、今のところ俺に当てはない。
妖精や精霊なんかにもあたった結果だから、少なくとも国内には居ないと思う。
後は海外だが、海外で探すとなれば金がかかるし、時間もかかるよな。
俺は不動産会社を助けるために探偵になったわけじゃないから、少なくともこの件では、余程のことが無ければ海外にまで足を延ばすつもりはないぜ。
で、人探しをせずに、裏事情を探ってみた。
で、驚愕の事実が判明したぜ。
某物件の東隣がマンションで、西隣が戸建住宅、北側がかなりデカいお屋敷になっているんだが、その三方向で怪奇現象が出だしたようだ。
特に、西隣が外人さん宅だったことから騒動が起きて、ついに隣家の祟りが近所に知れることになったらしい。
矢面に立たされたのは現所有者であるW不動産だ。
怪奇現象が発生している隣家の外人さんが弁護士を立てて訴訟を考えているらしく、下手をすると三方向の土地邸まで言い値で購入しなければならない話になるかも知れないのだ。
三方向の土地と邸の評価額だけで、40億円は下らず、実勢価格では最低でも300億円に達するものと見られているのだった。
300億円もの負債が生じる可能性があり、しかも間違いなくそれらも不良物件となる恐れがあるのだから、不動産会社もそれだけは何としても避けねばならなくなったのである。
為に損を覚悟で報償金額を吊り上げたわけである。
尤も、こちらもその額を吊り上げられるチャンスではあるのだけれど・・・。
ウーン、50億円ってのは、大金だよなぁ。
何となく最近は大金に不感症気味になってるけど、普通の会社員が生涯給与でもらえる額ってそれほど大きくは無かったんじゃなかったか?
平均で3億円程度、トップクラスで10億円超じゃなかったっけ?
だから俺の資産約270億円超(某王太子の依頼の一件でいただいた報酬で所得税をがっぽり取られて残った額と元々の俺の資産の合算額ネ。)だけで、もう間違いなく何十人分かの生涯給与になっているんだけど・・・。
金銭的に不感症というのは何となく嫌だねぇ。
俺としては庶民でありたいのだけれどなぁ。
取り敢えず、もう少し様子を見るか。
ン、俺って、ひょっとしてワルなのか?
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