第13話 強盗事件と誘拐事件

 あれほど暑かった夏が嘘のように過ぎて11月も終わりを迎え、寒さがそろそろ堪える時期であり、クリスマス音楽が商店街に流れ始めていた。

 そんな折に、またまた警視庁からの依頼が飛び込んできた。


 渋谷の某有名宝石店が強盗に襲われたんだ。

 犯人は複数いて、全員目出し帽を被っている連中で、侵入からわずかに五分で姿をくらましたらしく、逃走車両は前々日に横浜で盗まれた車両と分かった。


 近頃、闇サイトで高い報酬をえさにアルバイトで悪事を働くド素人が多いんだが、指南役しなんやくがついていて色々とリモートで犯罪をやらかしているらしい。

 警視庁では今回の事件もそのたぐいと見ているらしいが、生憎あいにくと手掛かりが非常に少なく、捜査は暗礁に乗り上げているらしい。


 で、俺に何か関連の情報が無いか調べてほしいという依頼だった。

 例によって成功報酬が倍額の依頼だが、成功しなければ報酬はゼロだ。


 時間は結構かかったぜ。

 大山さんから逃走車両の放置されていた場所を聞き出し、そこから犯人と思われる4人組を追跡した。


 こいつら別の逃走車両を用意していたんだが、それも二台だ。

 渋谷から目黒区駒場のパーキングに移動して、あらかじめ停めておいたバンに乗り換え、次いで川崎市内の同じくコインパーキングで別の車両に乗り換えた。


 この間、僅かに1時間だ。

 警察もこれほど短時間で車を乗り換えられると捜査が追いつかない。


 しかも逃走には高速道路を使わずに下道したみちを使っているし、この二台の内一台は千葉県で盗難届の出ている車両であり、もう一台はナンバープレートが別の車両のものだった。

 後で警視庁が確認したところでは、東京の奥多摩に放置してあった車両のナンバープレートであったらしい。


 因みに車両を放置した者や車両の盗難に遭った者は、今回の事件には関わってはいない。

 日本の警察は優秀なんだけれど、広域捜査ではどうしても連携がとりにくいのがネックなんだよね。


 最近はそうした広域捜査にも対応できる組織を造り始めてはいる様だけれど・・・。

 未だ、米国のFBIの様には特化はしていないようだ。


 三日かけて追い詰めたら、全員がバラバラの住所でほとんど接触のない人物だった。

 それでもエレック君にお願いして色々手繰たぐったら、出ましたね。


 韓国済○島に二次的な基地を持ち、本拠はカンボジアのカン〇ットに置いている。

 主犯格は、佐島さじま英二えいじという男で、サブに屋舗やしき直道なおみちという男がいるようだ。


 二人は、「チェソン」という名前で指南役に徹している。

 複数の携帯電話と済○島にある自分の闇サイトを運用して、日本国内での犯罪を続けている様だ。


 奪った品については、既にベトナム向けの貨物船の船員に託されて国外に出ているが、まぁ、警視庁が入港地の警察と協議して何とかするだろう。

 国内に残っている実行犯は4人プラス3名。


 四人は、宝石店に押し入って、逃げた奴らであり、別の二人は千葉、横浜で車両を盗んだ男、もう一人は奥多摩の放置車両からナンバープレートを盗んだ男だ。

 因みに、当該ナンバープレートを付けた車は、レンタカーを借りてナンバープレートを付け替え、犯行終了後に再度元のナンバーに付け替えている。


 但し、ナンバーは封印されているから付け替えるとわかるようになっており、放置していても次の車検では多分付け替えが発覚することになるだろうな。

 然しながら、レンタカーは不特定多数の客が使う訳なので、誰がそんなことをしたかは特定できないという手筈だったのだろう。


 一応、偽装の封印はされているので、レンタカーの変換の際にはチェックを潜り抜けていた。

 何れにしろ、四人と犯行を支援した三人の名前と現在の居所、それに済○島に設置してあるサイトの住所、カンボジアの主犯格の氏名及び滞在先を通報したよ。


 この通報は、俺が依頼を受けてから5日後のことだった。

 通報してから二日後には、国内で七名の者が逮捕されていた。


 その翌日には、警視庁刑事部の柳沢氏がやってきて当座の手付金10万円を置いて行ってくれた。

 前二回のお仕事では、成功報酬はいずれも百万円だったので、あるいはその程度を期待しても良いのかもね。


 前二件の報酬は、半月近く後になってくれたっけ。

 今のところ警察からの依頼でもって、犯罪捜査に協力はしているが、俺自身が危機に陥るようなことはしていないぜ。


 できるだけそういうのは避けているからな。


 ◇◇◇◇


 12月の初め、警察が絡んではいるが、依頼人は一般人という面倒な事件があった。

 12年前に起きた三歳女児の失踪事件について調べてほしいとの依頼だった。


 依頼人は、さいたま市北浦和に住む香川かがわ勇作ゆうさくさんと同夫人の嘉子よしこさんだ。

 13年前に北浦和5丁目の新築マンションを購入して住み始めたが、嘉子さんが近くのスーパーであるイ〇ンまで娘玲奈れなちゃんを連れて買い物に行った際に、ほんのちょっと目を離したすきに、三歳の玲奈ちゃんが居なくなったそうだ。


 すぐに店の総合サービスに連絡して探してもらい、警察にも届け出たが、玲奈ちゃんの行方は分からなかった。

 その後、身代金要求などの連絡もなく、奥さんは今でも外出の都度探しているのだそうだが、これまで12年間見つかってはいないのだそうだ。


 仮に生きているとすれば15歳、もう高校生になるわけなので当然顔立ちも変わっているだろうが、仮に誰かが玲奈ちゃんを保護しているとすれば、義務教育を含めて各種手続きで出生不明の子供がでてくるので本来はごまかしがしにくいはずだ。

 そこで、エレック君に関東一円の養子縁組の関連で調べてもらったが、生憎と玲奈ちゃんに結びつくような子供は見つからなかった。


 ダメもとでさいたま市北浦和のイ〇ンを訪ねて調べたところ、建造物そのものの精霊バーモン座敷童ざしきわらしのデカい奴?)が出てきた。

 何というか、壁一面が顔になる大頭?いや顔?


 まぁ、そんな感じの奴だ

 玲奈ちゃんの写真を念話で送ると反応が返ってきた。


 例によって、時系列ははっきりとしないが、この子を最後に見たのはこの建物を出て行く時だったこと。

 また、それとは別に最初にその子が訪れた際に傍で手を引いていた女性と、出て行った際に手を引いていた女性では、人物が違うことを伝えてきたのである。


 ふむ、この時点で時系列が多少不明ではあるけれど、同じ日の出来事であるならば、玲奈ちゃんはイ〇ンから誰かに連れ去られた可能性がある。

 そこで、依頼主の嘉子さんの当時(13年前)の写真のイメージを送ったところ、建物に来た際に手を引いていた人物は嘉子さんに間違いなく、出て行った際の人物は違う人物だとして、その当時のイメージ画像を送ってきた。


 イメージ像から見る限り、二十代半ばと思われる人物で、ごく普通の主婦のような扮装をしていた。

 これだけでは難しいかもしれないが、再度エレック君に登場してもらい、俺が操作した変身ソフトでイメージ像の12年後の女性を予測して痩せさせたり、太ったりさせた画像を造り上げ、当該人物に似た人物をIDカードの登録情報から調べてもらった。


 その際に今年14歳から16歳になる娘を持っている女性という条件を付けた。

 ヒットしたのは三件のみだった。


 一人は高石たかいし文枝ふみえ42歳の主婦であり、三人の子が居る。

 子供は、18歳の男の子、15歳の女の子、そうして13歳の男の子である。


 多分これは違うのじゃないかと思う。

 何故なら12年前に1歳の子供を抱えており、見ず知らずの子をわざわざスーパーから連れては行かないはずだ。


 まぁ、念のため血液型などを調べたが特段不審な点はない。

 二人目は、奈良岡ならおか幸恵ゆきえ40歳、15歳と12歳の娘さんを持っている。


 こちらは場合によって当時妊産婦だった可能性もあるが、精霊の話ではおなかが膨らんでいたとは聞いていない。

 血液型も問題なさそうである。


 次いで三人目の井頭いがしらのぞみさん39歳、婚姻歴はあるが、旦那さんは15年前に交通事故にあって入院、その一年後に亡くなっている。

 その交通事故に遭った時から1か月後に生まれたのが春奈はるなさんで15歳だ。


 但し、血液型に問題がありそうだ。

 春奈さんの血液型はB型だが、のぞみさんの血液型はA型、亡くなった旦那さんの血液型もA型なので、春奈さんが生まれるにはB型の男性が居なければ生まれては来ないはずだ。


 のぞみさんの浮気の可能性もあるが、春奈さんのDNA検査をすれば一発で親子判定ができるだろう。

 で、困ったのはこれ以上深入りして良いかどうかである。


 周囲から探った限りでは、のぞみさんと春奈さんはある意味で幸せに暮らしているのである。

 仮に、春奈さんが依頼人の香川夫妻の子供であったとして、12年もの間、かりそめにしろ、親子としてとして生活してきた歴史がある。


 『貴女は香川さんとこの子供です。』と言われて、春奈さんがすぐに受け入れられるかどうかは全くの別問題である。

 しかも今まで母親と思っていた人物が、誘拐犯人だと知れば思春期の少女が受けるショックはかなり大きいだろう。


 もう一つ詳細に調べていないことがある。

 それはのぞみさんが女の子を15年前に実際に産んでいることだ。


 その際の血液型は産婦人科のデータではA型となっている。

 従って、どこかの時点で、のぞみさんはA型の我が子を失っているのだ。


 この辺は何らかのきっかけで別途表沙汰になるかも知れない。

 春奈さんに輸血が必要になった時に、念のため調査したらA型じゃなくってB型だなんて分かれば、絶対に混乱を招くことになるだろう。


 血液型が途中で変わることは有り得ないことだからな・・・。

 表沙汰おもてざたにすべきか否か、それが問題だ。


 色々困った末に、俺はウチの事務所員二人に相談してみたよ。

 小室さんが逆に聞いてきた。


「仮にその春奈さんが香川夫妻の子だとして、その場合、のぞみさんという女性は罪に問われますか?」


「あぁ、誘拐の罪、それに自分の子をどこかに始末しているだろうから、殺人にはならなくても、最低限、死体遺棄の罪が間違いなく付くだろうね。」


「そうですか・・・。

 ならば、私は春奈さんを香川家に返す方が望ましいと思います。

 のぞみさんもシングルマザーで子育てに苦労はしたでしょうけれど、それはそれ。

 春奈さんを罪人の子供にしてはいけないと思います。

 それに血液型の違いから、いずれはどこかの時点でウソがばれます。

 今の段階では、親子関係がはっきりしていませんから、のぞみさんの浮気の可能性が無きにしもあらずなのでしょうけれど、それよりもA型の血液を持ったはずの我が子をどうしたかの方が問題です。

 同じ女として、わが子を居なかったことにする方が許せません。

 ですから、事実を確認して表沙汰にすべきです。

 当事者である春奈さんの気持ちを思うと憂鬱ゆううつにはなりますけれど、何時かはばれてしまう事実です。

 少なくとも所長がその嘘に加担する必要はありません。」


「私も小室さんの意見に同感です。

 自分の幸せのために他人の子供をさらってくるなんて、許せません。

 私もいずれ結婚して子供を持つ母親になるでしょうけれど、自分の子が意思に反して何処かへ連れ去られるなんて絶対に嫌です。」


 二人の所員に尻を叩かれて、俺は決意するしかなかった。

 俺は警察沙汰になることを勘案して、警視庁の神山管理官に連絡をした。


 香川夫妻の住所はさいたま市、井頭のぞみは都内北区の赤羽に住んでいる。

 誘拐があった現場はさいたま市なので、警視庁と埼玉県警の被る事件でもあるし、内容は微妙である。


 12年も前の単純な誘拐事件と合わせて、少なくとも未だ姿の見えない死体遺棄事件がありそうだ。

 警視庁に知らせるとともに、香川夫妻に対しては、井頭のぞみ及び春香さんの名前等を隠したまま中間報告をなし、誘拐事件の可能性があるので警察に捜査をお願いしているところだという話をした。


 案の定、香川夫妻は自分の娘を取り返そうと躍起やっきになって俺を責めるが、俺は何も言わずに引き上げた。

 現段階で、香川夫妻に騒がれても混乱を招くだけで何にも得にならないからね。。


 そうして俺が通報して1週間後、事態は動いた。

 井頭のぞみが警察の任意同行に応じ、赤羽警察署で12年前のことを自供したのだった。


 神山さんには、被害者でもある井頭春奈こと香川玲奈のプライバシーを極力守る様、特に報道関係者に対する配慮を注意をしてくれとお願いをしている。

 不安定な思春期に事件の中心被害者としてマスコミに追いかけられれば、精神的に追い詰められるかもしれないからだ。


 神山さんは、『君からのお願いだから、私の及ぶ限りのことをしよう。』と、約束してくれた。

 事件発覚後、この事件は余り報道は為されなかった。


 報道関係者も春奈さんに特段の配慮をしてくれたようだ。

 例えば井頭のぞみの名がばれると必然的にその娘であった春奈の名前も関係者には知れ渡る。


 そのために実名は伏せて、住所も大雑把なものをつけて報道では概要のみを伝えるに留まったのである。

 無論、香川夫妻の名前も出ることは無かった。


 それから一か月ほどして井頭春奈さんは香川玲奈として赤羽北〇高校から〇和第一女子高校に編入したようだ。

 取り敢えず、今回は12年も遅れてしまったけれど、生きたまま親元に返すことができたな。


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