第6話 アルバイトと妹
ところで俺の探偵事務所の名前が、テレビに出てしまったよ。
被害者宅の松岡さんからどうも聞き出したようで、某テレビ局の午後のワイドショーで、明石探偵事務所の名前が大公開。
流石に顔がばれると営業妨害になると思ったか、俺の顔は出なかったが、事務所のビルは画面に出ていたな。
おかげさんでその日の夕刻近くから俺の事務所の電話は鳴りっぱなしだ。
おまけにマスコミが大勢押しかけてきやがった。
インタビューを申し入れてきたが、勿論断った。
その時に念のため警告を与えておく。
万が一、俺の写真や映像が出たら営業妨害で裁判に訴えるとね。
面と向かってそうはっきりと言われるとしり込みするのがマスコミの連中だ。
マスコミ攻勢は何とか三日程度で収まったが、依頼の方はうなぎのぼりだ。
ウチで動けるのは俺一人だから、そんなにたくさん依頼が来ても動けない。
急ぎでないモノについてはお断りするしかなかったし、電話番が結構大変なんだ。
ウーン、これは少なくとも電話番ぐらいの事務方を雇うかなと思ったよ。
何せ依頼で外出中にも事務所の電話が俺のスマホに転送されるからね。
プライベートな連絡にも支障が出だした。
止むを得ず、スマホをもう一台手に入れて、仕事用とプライベート用と分けたんだがそれで根本的な問題が解決したわけじゃない。
おちおち車も運転していられないんだ。
8月16日、そんなわけでネットで急遽従業員募集をかけてみた。
但し、募集をかけたのは、留守番用の事務職員であって調査員じゃないんだぜ。
最初は電話番をしてくれる代行業者も考えたのだけれど、場合により依頼人に迷惑をかけた場合の責任の所在が問題になる。
特に、依頼者の秘密に関する内容を電話で話されることになるかも知れないのでね。
責任感の薄い者を電話番にしておくわけには行かないんだ。
で、やっぱり事務職員を募集することにしたわけだ。
幸い事務所が広いから仮に複数の事務員が居たって問題は無い。
即日応募してきたのが12名ほどいたね。
仕方がないから翌日から面接だ。
一日目の面接をやっている間にも40名以上の応募が増えた。
そうして昨日の今日という話だっていうのに、一日目の面接に7名が事務所に来れるらしい。
よっぽど暇なのか、それとも世の中失業者がそれほど多いのか。
広告に出している予定報酬は左程多くは無いんだよ。
一応時給で1200円以上としているけれど、このまんまだと8時間働いても1万円には届かない。
ウチの事務所の場合、週に休みは1日だけだけど、事務職員には週休二日を与えるつもりでいる。
だから1年52週として、就業日数は年間260日、それから換算すると平均月収は21万円弱程度になっちゃうんだ。
このままだと余り高い給料とは言えないし、アルバイトだから当面給料を上げる見込みもない。
それに、一般的にはアルバイトだと社会保険などの保証もないよね。
俺の事務所ではフルタイムで勤務してくれる場合はそういったものもつけるつもりではいるけれど、その件は募集の広告には詠っていない。
採用しても半年間は仮採用でお試し期間だな。
場合によりいつでも首を切れるようにしておく。
いずれにしろ、一日目の面接でこれはという人物はいなかった。
面白いことに背後霊とか守護霊の類がついている人が半数以上いたよ。
で、その背後霊なんかに色々面接に来た人の情報を教えてもらった。
2日目11人がやってきて、これもダメ。
3日目10人の中に保留しておきたい人物が一人いた。
4日目9人で、全滅。
5日目6人と面接して、保留者が一名いた。
最終的に100名弱の面接を終えて、二人に絞った。
三日目と五日目の保留者二人だ。
正直言って甲乙つけがたい。
で、小金持ちの大判振る舞い。
二人とも採用することにしたんですよ。
一人は、都内の
応募の理由は苦学生(??)なので学資を稼ぎたいのだそうだ。
Toeicで862点を取っているので英会話に関しては自信を持っている様だ。
もう一人は、現在派遣会社に勤めている
大学を卒業して2年になるが、正社員になれなくて派遣会社に勤務している。
但し、派遣先での正社員との格差がひどく、派遣社員を辞めたいのだそうだ。
どちらも背後霊というか守護霊がついていて、それぞれの性格や能力を色々と教えてくれたので人物的には問題ないと思っている。
条件的に藤田さんの方は、学業があってフルタイムの勤務は無理なので、午前とか午後とかのパートタイム勤務を希望している様だ。
逆に小室さんの方はフルタイムを希望している。
結局改めて二人を事務所に呼んで意思を確認、二人ともに雇うことにしました。
時給は1800円、超過勤務若しくは休日出勤の場合は二割増しの2160円。
フルタイムの場合は、社会保障もつけるし、その他の福利厚生も総務省並みの手当てをすると約束した。
飽くまで総務省並みであって同じではないけれどね。
公務員と全部一緒にはできない。
でも間違いなく普通の中小企業よりは良いのじゃないかな。
藤田さんの方は、大学のカリキュラムとか受講予定もあるだろうから、ひと月分の予定を事前に出してもらい、それで様子見をすることにした。
ウチの事務所の場合、朝の9時から夕方6時までが原則だから、それに合わせた勤務体系になるけれど、藤田さんの場合、9時から12時までと13時から18時までの二つの勤務形態のいずれかを選ぶようにしてもらう。
一方の小室さんについては週休二日で、ウチの休養日である木曜日と水曜もしくは金曜のいずれかの休みをこちらから言ったけれど、小室さん週休1日でもいいですと言った。
「ん?そんなにお金に困っているの?」
「いいえ、そうじゃないんですけれど。
でも休日が二日続くとすることが無くなっちゃいそうで・・・。
できれば何か仕事をやっていた方が気が楽なんです。」
背後霊に聞いたところでは、この小室嬢、24歳だけれど1年前に彼氏と別れてちょっとしたトラウマを持っているみたい。
根が真面目なので彼氏に裏切られたことが尾を引いている様だ、
ウーン、ウチは人生相談所じゃないんだけれどなぁ。
「あのね、人間ってのは、仕事ばかりじゃ息が詰まってしまうものだよ。
息抜きで何をしてよいかわからないのであれば、何をすればよいのか仕事以外のモノを探してみなさいよ。
一日目は心身を休める休暇、二日目は仕事以外で何かすることを見つける日になさい。
何もしないというのも一つの方法だけれどね。」
「はぁ、・・・。」
そう言って小室さんは目を伏せた。
小室さんも藤田さんも美人の部類だよ。
藤田さんは笑顔が可愛い少し垂れ目の癒し系、小室さんは清楚なんだけれどちょっと目元がきつい印象を与える知性派系?かな。
いずれにせよ9月から二人に働いてもらうことになりました。
◇◇◇◇
9月某日木曜日、事務所はお休みで家に居る訳なんだが、今、俺の目の前には客が居る。
ウーン、客と言ってよいのかどうか、血を分けた妹の「加奈」がH県から出てきたんだ。
末っ子の妹加奈は21歳、ミッション系の大学の三回生で、9月末までは夏休みなんだそうだ。
もう一人俺の二つ下に弟「英二」がいるが、こっちの方は既に大学を卒業して地元のIT関連企業に勤めている。
加奈の上京の目的は、東京近辺の企業への就職を狙っているけれど、できれば兄である俺のところに居候をしたいということらしい。
但し、兄と住めるかどうか、特に嫁さん候補なんぞが居る場合はすぐに追い出されかねないのでその辺の情報を仕入れるとともに、俺の住む家を見に来たようだ。
加奈が我が家を見て最初に言った言葉がそのことをよく表していた。
「すんごいところに住んでいるんだね。
流石、我が家のにわか財閥。
これなら私一人が転がり込んでも大丈夫だね。
部屋数も多いし・・・。
ところで彼女は居るの?
将来的に義理の姉さんになりそうな人がいるんなら、挨拶しときたいんだけど?」
当然のことながら、我が家の両親と弟妹達は、俺が海外で大金をせしめたことを知っている。
だからと言って、俺は渋いから、弟妹に小遣いをやったりはしなかったけどな。
この加奈は、俺にタカることを考えていそうなんで危ない。
「こらこら、俺にタカることを考えているなら駄目だぞ。
まぁ、加奈だから下宿代は相場より安くしてやるけれど、家事ぐらいは手伝えよ。
俺の家に転がり込むつもりならそれが条件だ。」
「流石兄貴、東京は賃貸も高いから住むところが心配だったけれど、この家ならセキュリティも大丈夫みたいだし、何しろ交通の便が良いのが一番、これならどこにでも務められる。」
「お前、どこの会社を狙ってるんだ?」
「今のところメインはAB商事と甲乙電気の事務職かな。
電話でも言ったように今回は就活もあって、一週間お世話になります。」
「おう、分かったが、お前、英語は大丈夫だよな。
このマンションは、四世帯だけで、日本人は俺だけだ。
日本にいるくらいだから、多少の日本語もわかるはずだけど、会話のメインは英語だからな。
出遭ったら、ちゃんと挨拶ぐらいしておけよ。」
「うん、わかった。
英会話なら大丈夫と思う。
中国語や韓国語は全然ダメだけど。
ところで彼女の話は?」
「うっせーなぁ。
未だに、ぼっちだよ。
女性とはあまり縁が無いんだ。」
「あ、やっぱり、母さんが心配してたよ。
早いところ身を固めて孫の顔を見せてほしいって。」
その三日後、我が家で小パーティを開いた。
参加者は、探偵事務所の所員の二人と妹の加奈、それにご近所さんの三世帯の家族10人だ。
お友達の大山さんにも一応声掛けはしたんだが・・・。
小パーティに参加するご近所さんが外人さん一家と聞いて断ってきたよ。
うん、やっぱり言葉の壁は大きいのかな?
ウチのリビングは46畳もあってかなり広いんだが、普段は俺一人で使っている所為なのか、俺を含めて14人も入ると結構狭く感じるね。
ダイニングも開放して、ある程度自由にさせるのが外人さんのパーティスタイルだ。
食い物は、最寄りのホテルに頼んで寿司やオードブルの出前を頼み、飲み物はジュース類を含めてふんだんに用意してある。
小学生や中学生ぐらいのお子さんもいるので、ボードゲームやテレビゲームなんぞも用意してあるんだ。
その場を借りて妹や俺の事務所の二人も紹介したわけだ。
藤田さんは勿論のこと、小室さんも加奈も英語での会話に不自由していないようので、ご近所の皆さんとは和気あいあいと過ごせたと思う。
小パーティは午後7時から午後9時までの二時間で終えた。
但し、加奈が余計なことを言っていたようだ。
藤田さんと小室さんに向かって、「兄貴は独り身ですから、どうぞよろしくお願いします。」と言っていたのである。
ちょい待て、妹よ、そこで独身を売り込むな。
まるで俺が二人の従業員をそんな目で見ているような勘違いをされるだろう。
二人の女性は加奈に向かってにっこり笑っていたな。
ん?ひょっとして多少は、そんな気配もあるのかな?
生憎と俺には女心はわからねぇ。
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8月15日より、
「仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか」
https://kakuyomu.jp/works/16817330661840643605
を、また、9月2日より
「コンバット」
https://kakuyomu.jp/works/16817330661959774004
を投稿しています。
宜しければ、是非ご一読ください
By @Sakura-shougen
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