第4話 営利誘拐
因みに二件目の依頼者は
旦那さんが殺されて
そうしてこの奥さんが社交的というか、おしゃべりというか、色々と知り合いに評判を拡げてくれたおかげで、俺の事務所に三件目の依頼が転がり込んだ。
依頼は子供の捜索であり、しかも家には営利誘拐の脅迫電話が届いていると言う。
旦那さんの決断で秘密裏に警察にも通報したが、奥さんは独自の情報網で例の友永英子さんから噂を聞きつけ、俺にすがってきた。
但し、奥さんとの面談はできない。
誘拐犯から家を見張られている疑いもあるから
誘拐されたのは小学校二年生の
夏休み中であったので、近くの公園に遊びに行ったのだが、そのまま行方不明になったようだ。
里香ちゃんの消息を知るような目撃者はいなかったが、その日の夕刻に自宅の固定電話にボイスチェンジャーを使った脅迫電話がかかってきた。
電話内容の要点は、
「娘は預かっている。
警察に知らせたら娘の命は無い。
娘が返して欲しければ、明日正午までに5千万円を用意しろ。
金の受け取り場所等は別途指示する。」
であった。
既に警察も密かに動いているらしい。
電話の盗聴なども行っている様子だ。
NTTド○モや携帯各社と連携して、松岡さん宅にかかってくる電話の特定も準備している。
俺の方は電話での依頼だったけれど、事が事だけに例外的にすぐに動いた。
むろん事実確認が先だけれどな。
俺の機動力は今のところ三つ、いや、チャリンコもいれれば四つかな?
*660という軽の二人乗りスポーツカーと、ちょっと大きめの4WDでレンジローバーイヴォーク、そうして渋滞対策用で*R/FというEVバイクを持っている。
バイクに乗るにはヘルメットが必須の上に、場合によりライダースーツも要ることがあるから使用頻度は左程多くは無い。
今のところ、雨降りにも強く、機動性に富んでいて、狭い路地にも対応している*660が一番使用頻度は高いかな?
だから事務所のある地下駐車場には*660とチャリンコのマウンテンバイクが置いてある。
賃貸の我が家にはEVバイクとレンジローバーな。
遠出やワイルドな場所へ行くにはレンジローバーなんだが、燃費はすこぶる悪いな。
いずれにせよ、今回事務所から出張るに際しては*660になる。
現場は杉並区大宮なんで夏の暑い盛りにチャリンコで行くような距離じゃない。
渋谷区内の移動なら大概チャリンコか電車・地下鉄で済ますんだけどね
地図で確認してこいつは車が良いと判断したわけだ。
*660を駆って、俺が最初に向かったのは、里香ちゃんが遊びに行ったという松岡さん宅の最寄りの公園だ。
松岡家からだと徒歩で500m程度の距離にあって、遊具が置かれている公園が里香ちゃんの遊び場らしい。
精霊や怨霊などから情報収集をしていると、少なくとも四人の警察官が周囲に張り込んでいるのが分かったよ。
警察も色々と動いているのだろうけれど、今の段階で犯人が犯行現場に戻るとは到底思えないな。
因みに色々動いて、里香ちゃんを連れ去った男女二人組が居たのが分かった。
こいつを追跡するのに若干時間を要したが、乗り込んだ車のナンバーにより、最寄りの陸運事務所のデータから住所を割り出した。
陸運事務所が簡単に個人データを教えてくれるわけがないって?
勿論、エレックに頼んで教えてもらっただけだ。
俺がデータを盗んだという証拠は全く無い。
単に俺が探偵の力をいかんなく発揮して、その車のナンバーから住所と持ち主を割り出しただけにすぎん。
その手法は、業務上の秘密で誰にも言えないだけだ。
取り敢えず、俺は犯人の
先ず為すべきことは、里香ちゃんの安否確認であり、要すれば救助することだ。
場所は、杉並区下高井戸四丁目の鎌倉橋からほど近い場所にある一戸建ての平屋だ。
かなり古い家で、外見から判断するに、余り補修や整備に金をかけていないということがわかる。
もしかすると、金に困って犯行に及んだのかな?
最寄りで聞き込みを始めるが、俺の聞き込みの相手は、勿論、人じゃない。
見知らぬ男が近所で聞き込みをやっているだけで犯人に気づかれる心配があるからね。
遠巻きに周囲を回って情報を得た。
里香ちゃんの安否も確認したが、余り状況は宜しくないな。
八月の初旬で午前中(正午近く)なのに、外気温は37度以上もある。
で、里香ちゃんの居る部屋は冷房のない部屋だ。
このまま放置すれば熱中症にかかる恐れもある。
これは、即、最後の手段だな。
俺は、渋谷署の大山さんに電話をかけ、誘拐の事実と誘拐犯の名前それに自宅住所を知らせる。
その上で、子供の命が危険に晒されている恐れがあるのでこれから現場に踏み込むと言って。大山さんの返事を待たずに電話を切った。
玄関のチャイムを鳴らすと奥でごそごそと動く気配がする。
この間にも俺は複数の怨霊やら精霊を使って、里香ちゃんの様子を脳内画像で捉えている。
無論、家にいる男女二人の動きもだ。
男は
手掛けていた事業に失敗し、親から受け継いだこの家も抵当に入っていて、来月末には手放さなければならないようだ。
追い詰められた状況は分かるが、幼い子供を攫うのは許せないな。
玄関口に女が出てきた。
何となく所帯やつれした女は美人とは言い難い。
「何でしょう?」
「私は、松岡雄一さんの代理のモノです。
里香ちゃんを直ちにお返し願いたい。」
女が驚愕の表情を見せた。
何の兆候もなくいきなり攫った少女の縁者が家まで押しかけて来たのだ。
絶対に犯行がばれていないと考えていたから、なぜそうなったのか全く理解できていないのだ。
それでも隠そうと焦りながらも少し甲高い声で必死に抗弁する。
「何の話でしょう。
こちらにはそんな方に覚えがありませんが、押し売りや嫌がらせなら帰ってください。
警察を呼びますよ。」
「はい?
警察ならもう呼んでいますので、10分か15分ほども待っていただければここに来るかと思いますよ。
貴方も呼びたいならどうぞ電話してください。」
それを聞いて、女がわなわなと震えている。
すると陰に隠れていた男が包丁を持って飛び出してきた。
「くそがぁ、帰れぇ。
ここから出て行けぇ。」
そう怒鳴って、包丁を突き出してきた。
はい、傷害未遂確定ですね。
仮に殺意があれば、殺人未遂になります。
俺の見た目は、身長178センチ、体重68キロの少し細めの優男(??)だが、これでも合気道を中学時代からやっていたからね。
段位は持っていないけれど、そこらの合気道道場の師範とでも対等に渡り合えるだけの実力はある。
ここの玄関は少し広いのでね、そのまま返り討ちにすることにした。
襲ってきた男の勢いそのままに左足を引きながら小手返しを掛けると見事に男は空中で反転、土間にたたきつけられて、ムギュっと
上がり
背中から叩きつけられて、肺の空気が全部押し出されたはずだ。
女は、その様子を見て、その場で腰砕けになっている。
緊急事態なので俺は家主の了解を得ぬままに、靴を脱いで、その脇を通り、奥の四畳半の部屋に向かう。
四畳半の部屋を開けると、中は締め切っていて熱気でムッとするほどの暑さだ。
座布団二枚の上で、手足を縛られ、ぐったりしている里香ちゃんを確認した。
因みに母親の優香さんから送られてきた里香ちゃんの写真を何枚か見ているので顔は承知している。
すぐに冷房の効いている居間に運んで、水に濡らした手拭いで手足などの露出部分を拭いて冷やし、ハンカチに吸わせた水分を口元に寄せた。
里香ちゃんは意識がもうろうとしているが、無意識にハンカチを舐め、水分を得ようとしている。
少し絞って水分を口に入れてやるとこくんと飲んだ。
意識がはっきりすればコップで水を上げるのだけれど、今の状態では難しいかな。
できるだけ早く医者に見せたいところだが、取り敢えずはパトカーが来るのを待つことにした。
パトカーのサイレンの音が遠くから近づいてきているのが分かったからだ。
一応、犯人二人も従魔たちの監視下には置いているが、男は伸びたまんまだし、女は抵抗する気を失っている様だ。
スマホで大山さんに連絡し、被害者は無事だが救急車が必要なことを一応伝えた。
まぁ、パトカーの方が早く着くだろうけれどな。
それから5分も経たないうちに警察車両が続けて三台も到着したよ。
おかげで狭い路地は車の通行ができないな。
犯人二人は営利誘拐の現行犯とついでに傷害未遂の現行犯で逮捕された。
今度ばかりは俺も表に立たざるを得ないことになるが、正直なところ、できるだけ表には出たくはないんだよな。
警察には協力するが、マスコミには協力しないことにした。
どうして犯人まで辿り着いたかを絶対にしつこく聞かれるからね。
本当のことをしゃべるわけには行かんだろう。
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8月15日より、
「仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか」
https://kakuyomu.jp/works/16817330661840643605
を、さらに、9月2日より
「コンバット」
https://kakuyomu.jp/works/16817330661959774004
を投稿しています。
宜しければ、是非ご一読ください
By @Sakura-shougen
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