7-1


ホログラムは、強硬手段に出始めている。

国営放送によると、8を攻撃しようとする人間が現れると、その人の持っている機器を勝手にダウンさせるといった現象が起きているらしい。


制度を存続させるかさせないかの選択は、数日の間に全国に不意打ちでデジタルネットからイエスかノーの2択が来たそうだ。咲夜は市民権を得られてないので、2択が来ない。


悠斗や健吾から話を聞いているしかなかった。

現在は、田中がクラスを兼任している。クラスメイトはみんな、咲夜達を避けていた。



8月21日。


運命の日がやってきた。クラスは朝から落ち着かない。午後2時に発表である。全てのチャンネルで、集計結果が出されることになっている。

教室も、道行く人も、一般家庭でも、会社でも、8を除く誰もが息を飲んで待っている。


そんな様子が咲夜にも伝わってくる。授業どころではなくみんなそわそわしている。

2時になると、パネルが音を鳴らす。


「国は公平に調査をしました」

抑揚をかなり落とした女性の声が響き渡る。画面に姿は映らない。


「調査対象は8と5歳未満、留学生を除く全て。全国61030035人。その票は」


画面に『制度存続に賛成か反対か』の文字が現れる。次に、結果が表れた。

 


賛成 30515017

反対 30515018



「結果、制度はなくなります」


1票差。たった1票差だ。多分機器が使えなくなるのが嫌だという人も反対に入れたのだろう。人工知能の応援がなければどうなっていたか。考えるだけでもひやりとする。もう少し投票が早ければさくらも自由になれたはずなのに。鹿江があんなことをしなければさくらは普通の人間として生きていけた。


焼かれた姿を思い出すと今でも胸が締め付けられる。鹿江に同じことをしてやりたい。そして自分が間接的に、さくらを殺してしまったのだ。


見ると前川3人組は面白くなさそうに机を蹴飛ばし、古門は「ふーん」とだけ言う。


女性の声は続いた。


「500年続いた制度はこれで幕を閉じます。8は人間となりますので、今この瞬間から8を攻撃することを国が禁じます。各施設での教職員も、8を罵らないようにしてください。ただし8税はあと数年ほど続くことになります。8の刻印の取り消し、行き場のない人たちのための住宅建設、医療手当、司法への手続き。諸々のことが必要になってきます。あと……」


悠斗と健吾は振り返り、咲夜に親指を立てた。


今後の細かいことはなんでもいい。働くようになったら税金も払う。前科があったままでもいい。とにかくこの不気味な制度は終わった。


「さくら……」 


声が漏れ拳をきつく握りしめる。ごめん、ごめん、ごめん。

 

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