6-9
帰りに3人で8居住地区へ寄った。悠斗も健吾も顔は腫れている。
健吾が立ち止まる。入口の周りにテントを用意している人々がいた。全部で15名ほどだ。
顔を見合わせ、駆け寄り、一人の女性に訊ねる。
「なにをしているんですか」
おや、という顔をする。顔も名前も知れ渡っているのですぐにわかったようだ。女性は答える前に真面目な顔で言った。
「誰かにやられたのね、その顔」
救急箱を持ってきて半ば強引に手当てを受ける。額に塗られた消毒が染みて、咲夜はひいっと声をあげてしまった。女性はおかしそうに笑う。
「あなた達は、声をあげてくれた。海外の人がしてくれたように、私たちがとりあえず自主的に8を守ろうと思うの。日本人がこれをやらなくてどうするのかって。傍観しているだけじゃダメだって。呼びかけで医療チームも動いてくれた」
少しの変化を嬉しく思った。
女性は寝泊りの準備をしている人々を振り返る。
「少なくともここにいる人たちは家族や親戚が8になった人」
そうして咲夜達を見つめる。
「あなた達の動画。とてもよかったけれど、ひとつ欠点があるわ」
「なんですか」
悠斗が訊ねる。
「兄弟が8になって親戚に預けられ、両親を失った人たちの声。それがないの」
ああ、と息をついた。秘密にしながら動くのに精一杯だったからそこまで気が回らなかった。
「すみません。じゃあ、今度は第2弾としてそれを……」
「いえ。いいわ。それは私たちの役目。あなたたちの勇気が私たちにはありがたかった」
手当てが終わると、「じゃあ」と言って準備に戻っていく。
今のところ、誰かが憂さ晴らしに攻撃しに来る気配はなさそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます