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動画をベースの、誰でも好きに投稿ができる有名なネットワーク上に送ってみた。ベースならどの国の人も見られる大手の媒体だが、地球からの動画は運営の厳しいチェックが入るかもしれない。歴史的な情報が意図的に操作されているとなればなおさらだ。


しかしそれよりも次が問題だ。日本のデジタル機器で、日本のアカウントで、海外の有名なネットワーク上にあげる。デジタルネットを使わないわけにはいかない。日本の通信機器はもうデジタルネットが主流で他の方法がない。ベースのコンピューターから海外のサーバーにあげるとしても、動画を流すためのアカウントは作らなければならない。結局はばれる。


送信ボタンを押す直前、悠斗の指が震えていた。本音は悠斗も怖いのだ。


「俺たちはこれから、全国の敵になる。そしてこれを流したところで、なにも起きないかもしれない。でも宇宙と海外でひとりでもふたりでも共感を示してくれる人がいれば、この制度も少しは見直されるかもしれない」

「おまえが震えてどうするよ。覚悟はとっくにできている」


健吾が悠斗の肩を叩いた。悠斗の目に力が入った。咲夜も頷く。


「じゃあ、行くぞ」


静かな鼓動が咲夜の中から聞こえている。悠斗は送信ボタンを押した。

もう引き返せない。


無事に海外のサーバーに載せられたことを見届けてから、全員で今度は息を漏らす。


「お疲れさまでした」


遥がお辞儀をする。由香利もそれに続く。


妙な沈黙のあとで、悠斗は2人に向き直った。2人は察したようだ。


「私から先で構いません。みなさま。どうもありがとうございました。忘れてしまうのは寂しいですが、いい経験ができたと思います」


由香利は本当に寂しそうな表情をする。本物の早川由香利もこのような顔をしたのだろうか。 


全てがピンクなのに、実際は会ったこともない由香利に見えてくるのだ。


「こちらこそありがとうございました。協力のご恩、忘れません」


言って悠斗は停止ボタンに手をかけ、由香利を見つめる。由香利はゆっくりと頷いた。


「またのご利用をお待ちしています」


笑って機械的な声を出し動作を停止する。それからリセット。次に使う人に読ませた内容がばれるとまずいので、確かめるために呼び出しボタンを押した。


女性のホログラムが現れる。もう、そこにいるのは表情からして由香利ではなかった。なにもかも忘れ、プログラムされた笑顔でバージョン名を言っている人工知能だった。リセットしたのを確かめるためと説明し、悠斗はホログラムを空間上から消す。


遥はそれを見て、少し嫌そうにしていた。


「僕は忘れたくない……でも仕方がないですよね」

「遥君も、今までありがとう」


咲夜は心を込めてそう言った。


「いえ。遥でいられてよかったです」

「君の人工知能としての人生に幸がありますよう」


悠斗は言い、停止ボタンに手をかける。直前「カチリ」という音が鳴った。それがなんの音かよくわからなかった。


悠斗は特に音に気にした様子もなく遥を停止させ、リセットボタンを押す。遥もまた、なにもかも忘れたホログラムに戻ってしまった。


寂しさが残った。だが自分たちの目的は達成されたのだ。


周囲をなんとなく気にしながら、帰路に着くことにした。


川島夫婦にメッセージを送る。



日本は想像とは違う国でした。地球のことも、ベースで教えられていたことと違っているようです。滅ぶというのを知っていて、あなたたちは反対したのですね。

僕は少し、日本でいけないことをしてしまったかもしれません。万が一あなたたちに迷惑をかけてしまったら、僕との縁を切ってください。 川島咲夜

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