3-2

ナイフを男の子に向かい振りおろそうとしたところを、体当たりして突き飛ばした。


「なんだおまえ」


ひとりがよろめき言った。爽やかな笑顔を作る。


「この子に話があるんです」


「邪魔するなよ。噛みついてきやがったんだ。今、とどめを刺そうと……」


「そうしたら僕、話ができなくなっちゃうんです。今はやめて」


懇願してみる。するとちっ、と舌打ちをして3人は近くの8の家を蹴り、立ち去っていく。


男の子の体は震えているものの、強い眼差しで咲夜を見ている。


「安心して。なにもしないよ。立てる」


スーツ姿の男たちが見えなくなるのを確認してから手を差し出す。

男の子は手を取ろうとはせず黙っている。


「名前は」


なにをしに来たのか。瞳の中にそんな問いが混ざっている。


「君に危害をくわえるつもりはない。僕は惑星ベースから来た。ベースって知っている」


男の子は縦に首を振る。顔も手足もあざだらけだ。手当てをしたくなったけれど、生憎そうした道具は持ってきていない。


「君の家はどこ」


男の子はすぐ前の金属の板を繋ぎ合わせた建物に視線をやる。


「入ってもいいかな」


笑顔を向けると、警戒心を解いたのか、表情が和らいだ。咲夜の笑顔は人を惹きつける、とママナやその仲間に言われて育った。天性だろう、そう言われたこともあった。だが違うのだ。


笑顔でいなければ、苦しさを忘れることができなかった。上手く生きていくことができなかった。小さいなりに本能が体得した、咲夜の処世術なのだ。


男の子は腹のあたりを抱えたまま、中へ入った。咲夜も中へ入る。大人が2人寝られるか、という程度の広さだ。女の子が奥の方で座っていた。女の子の近くには木箱があり、水の入った2リットルほどの容器と、電子ランプが置いてある。あとは布団が畳まれた状態だ。


「いくつ?」


奥の女の子に向かって訊ねる。


「今年13」


細い声が聞こえた。施設から出てきたばかりなのかもしれない。


「君は」


男の子を見る。


「14……」


「兄妹、かな」


「ううん。この子、寝床がなくて9《ナイン》にされそうになっていたから」


男の子は女の子を指差し言った。


「9《ナイン》?」


「8が9《ナイン》を作っちゃう……」


「どういうこと」


「8が勝手に9《ナイン》を作って殺しちゃうんだ。9が一番早く殺されちゃう。気の弱い男の子もそうだけど、特に女の人は年齢問わずにすぐ殺される」


即座に頭の中で男の子が言ったことを整理していた。


「それは法律じゃなくて、8の中での秩序なのか」


「8の中で強いのが適当に弱そうなのを捕まえて、腕や顔に9って無理やり彫って上からペンで塗るんだよ。9は、8からすぐに攻撃されるんだ」


目眩がした。8は助けあっているものだろうと勝手に思っていたが、そうじゃない。


8が常々一般人からの攻撃対象になっているから、8は真似してより弱いものを8の中から選別し、9としてしまう。8は9にはなにをしてもいいのだ。


「どこでもそうなの」


「わからない。でもこの居住地区ではそう」


「じゃあ、君はその子を守っているんだ。偉いね」


「さっきもあの3人がこの子を襲おうとしたから……」


「庇ったんだ」


お腹をずっとさすっている。咲夜が気にする様子を見せると、掌を広げて「なにも言わないで」といったふうに止める。

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