1-7


贅沢は言えない。数日おきに近況報告を兼ねて通信をしよう。


授業で出された課題を解こうと机に向かうと、1階から弘子に呼ばれた。


夕飯に添えるブロッコリーを買い忘れたので、マーケットで買って来て欲しいということだ。


地図と袋を手渡される。周囲の散策をするのにちょうどいいと思って引き受けることにした。


日本の路地は細く複雑だ。瀬賀家のある通りを直進し、突き当ったら左に曲がる。するとまだ住宅街。直進して右折。そんなことを何度か繰り返して、大きな丸い屋根の建物を見つける。


チャムのマーケットは道の脇に露店を並べるといった趣だったので、こういった施設に入るのは緊張する。自動ドアを潜ると、横から突如女性が出てきた。頭からつま先まで、全てがピンク色に透き通っている。なんだこれ。呆然と見つめる。

透き通ったピンク色の女性は、笑顔になる。


「マーケット内をご案内いたします。欲しい商品をお伺いします」


声には抑揚がある。周囲を見ると、ピンク色の他の女性が買い物客全てに案内をしている。


「えっとあなたは……」

「申し遅れました。私はホログラム仕様のガイドです」


人間の形をしたホログラム。目もピンクで、まつ毛もピンク色に透きとおっている。これも日本。なにか言えば答えてくれるのだろう。


「ブロッコリーを買いに来ました」

「食品街は地下1階。ブロッコリーの在庫、所在を確認します」


ホログラムはマーケットと回線が繋がっていて、どこになにがあるのかすぐにわかるらしい。


「大変申し訳ございません。現在、品切れです」

「近くに売っているマーケットはありますか」

「お調べいたします。はい、ここから列車で3駅先、歩いて40分ほど。是枝市小崎町12番街の小さなマーケットにございます」


結構かかる。弘子から与えられたミッションを遂行するか、なかったと諦めて帰るか迷い、小崎町まで行くことにした。日はまだ出ている。土地に慣れておきたい。


列車に乗り、小崎町まで行く。すると、在庫があったはずのお店の主人から、ちょうど一足違いで売り切れてしまったと言われ、もうひと駅先まで足を延ばすことになってしまった。


3軒目のお店でやっと買えたのでひと息つく。女性の姿をしたホログラムは商業施設にはどこにでもいるようだ。


マーケットから駅へと続く道を歩くいていると、途中、変な臭いがした。遊具が揃った開けた空間を横切ろうとして、視界に違和を感じる。


青い一筋の光線が地上から空気中に出ているのだ。空間の出入口には、「日ノ本町児童公園」と書かれている。青い光線の他にもなにかがあると視認して、中へ足を踏み入れる。


「うあっ」


心拍数が跳ねあがった。

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