第10話 食糧調達班(1)

 

 次の翌朝、正門辺りで十人余りの集まりができていた。


 大半は男子高校生で構成され、残りも体力仕事をしてたらしき成人男性であった。

 その中で迷彩服を着た体格の良い男性を発見する。勝元や中条と同様に自衛隊員であるのは一目瞭然。一方で二人とは違い眉尻の下がった優しそうな顔つきの人物であった。


「全員武器は持ったな。前にも教えた通り防具は最低限にしろ。素人が着込んだところで重くて動けなくなるだけだ。急所のみを守り逃げに徹する。くれぐれも勝とうと思うな」


 勝元の声に全員が揃って応答する。


 魔物はそこらの動物とは違う。疑似魔法を使用し、身体能力もレベルによって圧倒的な差がある。軽く振った爪でも鉄の板を切り裂くのだ。低レベルの間は慎重すぎなくらい慎重でいい。俺も彼の考えに大いに賛同する。


「会長まで同行されなくとも。夕花さんだって。お二人は女性なのですから、ここは我々男子に任せ、無理をなさらず拠点でお待ちください」


 鈴木だっただろうか。

 彼はキラキラした爽やかな微笑みで、日向と夕花に残るべきであると勧めてくる。

 

 日向は露骨に眉間に皺を寄せ不機嫌な表情になった。


「心配無用。こう見えてそれなりに戦えるの。夕花もそう。特にそこの浩平は恐ろしく強いから頼りにして良いわ」

「そんなにもあの冴えない顔をした男を信頼していらっしゃると・・・・・・?」


 鈴木が俺を睨んだ。

 こわっ。なんかした、俺?


「そういえばプニ助がいないわね?」

「スーちゃんは美愛ちゃんと一緒にいるみたいですよ。馬が合うのか昨日からべったりで。この分だと旅立つとき泣かれちゃいますね」

「プニ助はやかましいけど見所のある魔物よ。懐くのもしかたのないことだわ」


 おい、プニ助ってなんだよ。

 勝手に人の従魔に名前付けてんじゃねぇよ。


 スーさんはスーさんなの。そんなダサい名前じゃねぇの。


 勝元が手を叩き注視を促す。


「出発の時間だ。ここの守りは中条に任せる。恐らく帰還は昼頃になるだろう。何かあればお前が指揮を執れ。決して躊躇するな」

「はっ、帰りをお待ちしております」


 中条が敬礼をする。

 門が開放され俺達は列の後方からついて行くことにした。





「うえっ、こんな場所を通るのかよ」

「ひどい臭い」

「お二人とも足下に気をつけて」


 列を作り下水道を進み続ける。

 明かりは各自が持ったLED懐中電灯だけだ。


 魔物を避けるなら地下を通れば良いって考えは大賛成だけど、俺まで通る必要あったかな。どうせ上にいるのは雑魚なんだから蹴散らせばいいだけだし。


「もう少しだけ我慢してくれ。目的地はすぐそこだ」

「どこに向かっているんだっけ?」

「スーパーマーケットだ。今までは近場の店を使っていたんだが、ほとんど取り尽くしまってな。新たな確保場所を見つける必要性が出てきたんだ。今回向かう二つの店はどちらも規模が大きく多くの品が手つかずで残されていると考えられる」

「覚醒者が出入りしている可能性は?」

「事前に行った偵察では奴らの痕跡はなかった。遭遇はかなり低いとみる」


 ふーん、覚醒者ってのはよほど手に負えない輩なんだな。出会った順平も殺しには抵抗がなさそうだったから他も似たような連中なんだろう。


 しかし、ずいぶんとの帰りが遅い。

 順平の始末に向かわせたきり未だに戻ってこない。何してんだよ。


「この辺りだ。上がるぞ」


 先頭を行く勝元がはしごを上る。

 ずずず、とマンホールをずらせば目映い光が差し込んだ。


 地上に出ると目の前には比較的大きなスーパーがあった。

 ここで食糧を調達するみたいだ。


「我々は中でめぼしい食糧を集めてくる。見張りは佐藤君、お願いできるか?」

「別に良いけど。じゃあ炭酸飲料があったら確保しておいてくれないか」

「・・・・・・炭酸? 分かった覚えておく。宮田、彼と行動しろ」

「はっ、了解です」


 てことで外で見張りを任された俺と宮田。

 宮田は勝元と同じ自衛官である。腕には20式小銃を抱え腰には拳銃を装備していた。


「自己紹介が遅れたっすね。僕は『宮田大地みやただいち』っす。佐藤浩平さんっすよね、勝元さんから話は聞いてるっよ」

「それってどんな話?」

「現状を変えてくれるかもしれない冴えない顔の天使だって」

「あの顔で天使とか止めろ。気持ち悪くなってきた」


 宮田は「怖い顔してるっすけどいい人なんすよ」と軽く笑う。

 ふと気になって宮田のステータスを確認すると、彼はレベル1であった。


「あんた達って弱い魔物くらい倒してんだよな」

「何匹かはこの銃でやれたっすね。だけどそれ以上になると弾丸を弾いてまるで効果なし。何のために銃火器を携えてんのかわかんなくなっちゃいますよ」


 変だな。魔物を倒していてレベルが1のままなんておかしい。

 いくらなんでも2、3くらいにはあがっていないと。勝元や中条だってそうだ。二人のステータスを確認したが揃って1だった。


 もしかしてだけど銃火器ではレベルアップできないのか?


 銃なんて異世界にはなかったしよく分からないな。

 断定するだけの材料が少なすぎる。

 詳しく調べるべく検証したいところだけど、彼らが銃を貸してくれるとも思えないし、付き合わせるにしても納得させられるそれらしい理由がないとただの無駄撃ちになると一蹴されておしまいだ。


「ウァアアア」

「佐藤さん敵っすよ!」


 それは歩く死体。ゾンビであった。

 生前の怨念によって蘇ったアンデッドの中でも底辺である。


 宮田は小銃を構え発砲しようとする。


「待った。死体に撃っても意味がない」

「でもモンスターっすよ」

「ゾンビ映画観た経験ない?」

「ある、っすよ。ホラー物大好物っす」

「じゃあ平気だな。これであれをぶった切ってこい」


 彼に背を向けるとマジックボックスを開く。

 中に腕を突っ込み適当な斧を取り出すと宮田に渡した。


 ちなみに斧はそこら辺の武器屋で売ってる安い物だ。あいにく斧に関しては範囲外なので業物とかは入手していない。


「斧!? どこから出したんすか!?」

「いいからいいから、行ってこい」

「ええぇぇぇえええええっ!? 本気っすか!」


 どん、と背中を押された宮田は、立ち止まって戸惑っていたが、覚悟が決まったのかゾンビに向かって斬りかかっていった。


「おりゃああ!」

「ウェアオオオオオ!?」


 斧によって頭をかち割られたゾンビは倒れてしまった。

 ゾンビを倒す方法は三つ。頭をかち割るか、魔法で跡形もなく消し飛ばすか、浄化によって怨念を消し去るか。バラバラにするって手もあるけどお勧めはしない。


 勝利した彼は呆然とする。


「おめでとうLv2にレベルアップだ。力が増したのが感じられるか」

「レベルアップ・・・・・・? 確かになんだか強くなった気が」


 宮田のレベルは2になっていた。

 体内の魔力も増加しうっすらとだがにじみ出るように彼の身体から放出されている。異世界人は放出量から総魔力量を量るので、俺にも彼の魔力量は感覚で伝わっていた。


 魔力多め、魔法使いや付与士向きかな。


「ステータスって唱えてみて」

「うわっ!? もしかしてこれ僕の!?」

「やけに飲み込みが早いな」

「休暇はゲーム三昧でしたからね。へへへ」


 ある意味同類ってわけか。

 話が早くて助かるよ。


 勝元とは鍛えてやる的な約束をしているから、部下である宮田を育てるのはとりあえず問題ないだろう。正直戦いたくないし早く強くなってもらって同行しなくてもいいようにしたい。


 地上はともかく下水道だけはマジ勘弁。日向も夕花も顔が引きつってたしな。


「キシャァアアア――ギャ!?」


 牙の生えた鳥型の魔物が宮田を狙って一気に降下していた。

 だが、風の矢が胴体を貫き地上に落下した。


「お待たせしました。食糧の確保完了です」

「おっさん達は?」

「まだ中で食糧を詰めてます。姉さんはお菓子を選んでいる最中ですね」

「あいつ・・・・・・」


 柔和に微笑む夕花は俺に缶コーヒーを差し出した。

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