第8話 滞在の条件
中条に誘導され校舎へと向かう。
山崎のおっさんは医務室に運ばれていったので中条を含めて四人だけだ。
途中、俺はとんでもない物を見つける。
高機動車と呼ばれる乗り物だ。ジープをまんま大型化したような外見をしていて、無骨で機能面のみを重視した自衛隊が使用する車両である。実は中条の持つ20式小銃に内心で興奮していたのだが、こちらも男子の心をくすぐるなんとも素晴らしい装備。
乗り手に媚びない頑強な見た目に涎が出そうだ。
「さ、触ってもいいか?」
「外側だけよ」
うひょう、中条さん好き!
かっけえぇぇえ。こいつで隊員を乗せて運ぶのか。
エンジンかけて貰いたいなぁ。ちらっ。
中条は首を横に振る。
残念。無念。
そりゃあそうか。ガソリンは節約しなきゃだもんな。
「こう言っては何ですが、車なんて役に立つのでしょうか。外は魔物がいますし道も放置された車で大部分が塞がれています」
「そうね。実際歩きの方が早そうだし、いちいちエンジンかけて乗ってたらやられちゃうわ。大量の荷物を運ぶのには役立ちそうだけど」
「貴女達の指摘は正しいわ。あくまでこれは運搬用であって移動手段としてはほとんど機能しない。外にいるあれらにとってこんなのは藁でできた箱よ」
車両の至る所に深く刻まれた爪痕があった。
もったいないな。かっこいいのにまともに使えないなんて。魔法で強度を高めたらもうちょい使用場面は増えそうだけど・・・・・・。
「悪い。で、これからどこに行くんだっけ?」
「ここのリーダーに会って貰うわ。いくつか質問させてもらうからそのつもりで。じゃあ行きましょうか。そういえば二人とも学生さんなのかしら。柳坂高校の制服よね?」
中条の先導で校舎の中へ。
校舎内には段ボールを抱えた中年や青年が世話しなく作業をしていた。
「会長、姫川会長じゃないですか!」
「あら鈴木君じゃない。貴方も無事だったのね」
段ボールを放り出して駆け寄ってきたのは整った容姿の美男子だった。
日向は普段からは想像もできないような落ち着いた声で彼に微笑む。
彼の声を皮切りに、同じ歳ほどの男女が彼女へ駆け寄った。
「会長の元気なお姿をまた拝見できるなんて!」
「その格好どうしたんですか。今までどこに避難を」
「はぁはぁ会長。好きです付き合ってください」
「学校の外は!? 救援はいつ来るんですか!?」
かい、ちょう・・・・・・?
幻覚に幻聴かな。残念な日向が生徒に大人気なのだが。
説明を求めて夕花へ顔を向ける。
「姉さんは柳坂高校の生徒会長なんです。ああみえて学年トップの成績ですし運動神経も抜群。たまに歯に衣着せぬ発言もありますけど、逆にそこが良いという方が多く人気なんです。私と違って人の上に立つタイプですから」
「世の中間違ってる。あいつはだらしなくてただ飯くらいで家事のできない女だぞ」
「そこは隠してるみたいですよ。たぶんそろそろ口止めに来るかな」
きらきらオーラを放ちながら凜々しく対応していた日向が、俺の視線に気がつきだらだら汗を流し始める。
「貴方達、仕事が残っているのでしょう。話はあとで存分に聞いてあげるから済ませてきなさい。それから皆が無事で安心したわ」
見惚れそうなほどの微笑みに生徒達はわぁぁと胸をときめかせる。
中条が「これから勝元さんに会いに行くの。積もる話は後にしてちょうだい」と生徒達を散らした。
「浩平、あんた分かってるわよね? 私がこういう性格だってことはくれぐれも口外しないように。夕花を見習って対応を勉強なさい」
「何で俺が。面倒だな」
「ここは私のテリトリーなの。私の顔を立てなさい」
はぁぁあああ、本当面倒な場所に来ちゃったなぁ。
しかし、こうして見渡してみると生徒らしき人間ががかなりの数を占めている。それから近隣住民ってところか。自衛隊員は不自然なくらい見かけないな。
「日向さんって生徒会長だったのね。僥倖だわ」
「意味深ね。生徒が問題でも起こしたの?」
「遠からず近からずってところね。その辺りも追々話すわ」
俺達は屋上へと上がる。
◇
屋上では男性が煙草を吸っていた。
中条と同じく迷彩服を着ており、短髪にやや強面の渋みのある男前の顔立ち、中背ながら鍛え込まれた肉体は密度が高く一回りほど大きく見えた。
こちらに意識が向くと彼は煙草を足下の空き缶の中へ入れた。
「報告いたします。先ほど行方不明になっていた山崎氏が帰還いたしました。負傷はしているものの今のところ命に別状はなさそうです。現在は私の判断で医務室にて休ませております」
「それで、後ろの三人は?」
「はっ、山崎氏を保護しここまで運んでくださった民間人です。右から佐藤浩平、姫川夕花、姫川日向、すでに身体検査は済ませており異常は見つかりませんでした」
ふと、男性の真横にスナイパーライフルが立てかけられているのに意識が向いた。
ちらちら覗いてたのはこいつか。
向こうも俺を見て眼を細める。
「『
「命令があって動いているんじゃないのか?」
「もちろんあったからこそここにいる」
勝元はポケットから煙草を取り出そうとして即座に止める。
ただでさえ強面なのに、眉間に皺が寄り、より怖さが増した。
「我々が受けた任は、謎の超生物群――通称『モンスター』への攻撃命令と民間人の避難誘導及びその保護だった。しかし、作戦遂行中に電波障害が発生し孤立。その後も所持した装備では対応しきれず一方的に狩られ続けた」
勝元は続ける。
「それでもなんとか生き残った我々は、保護した民間人と共にここ柳坂高校へと退避し、救援あるまで民間人と協力しながら守りを固めることとした。独自とはつまりそういうことだ」
「くっ、連絡手段さえあれば応援を呼べるのに」
冷静な勝元とは対照的に中条は感情を隠そうとしない。
いや、彼も全くの無感情というわけではなさそうだ。俺を見る目に好奇心? 期待? のような色を感じた。
「実は君達がこちらへ向かってくる姿は確認していた。正直驚いたよ。凶暴極まりないモンスターをものともせず堂々と談笑しながら歩いているのだからな。殺されないだけの力があるのか命知らずの大馬鹿共か。間違いなく前者だろうが」
「何が言いたい」
「一人、いや、三人とも覚醒者かな。だからこそ聞きたい。どうやって人外の力を身につけた。その手段と方法を教えてくれないか」
覚醒者と耳にした途端、中条は俺達から距離を取り小銃を向けた。
「これは取引だ。教えてくれるならしばらくの滞在を許可する。場合によっては正式に仲間として迎えよう。だが、そうじゃないなら出て行って貰う」
口調は穏やかだが眼には一切の感情がなかった。
中条が取った行動にも動揺はない。
「ふざけないで! 私達は守られるべき国民よ。攻撃の意思なんてないし人だって助けたじゃない。これじゃあ脅しだわ。許されない」
「多くの仲間を覚醒者とその配下に殺されていてね、すでに優しく扱うだけの余力はないんだ。さぁどっちを選ぶ。協力か出て行くか」
「今すぐその銃口を下げなければ後悔しますよ」
「動かないで。本当に撃つわよ」
四人がにらみ合う。
さて、どうしたものか。
断って強引に出て行っても良いのだが、それだと今夜の宿を今から探す羽目になる。
日向もここに滞在したそうだったし、山崎のおっさんの家族に会うって約束もまだ果たせていない。あとはもうちょい覚醒者について知っておきたいかな。滞在するならいろいろ聞けそうだし。
だいたいレベルアップなんて隠すほどの情報でもない。
なんで戦闘してて知らないのか不思議なくらいだ。
「まぁまぁ皆さん落ち着いて。喧嘩しても良いことないよ」
「あんたね! 見てわかんないの、銃を向けられているのよ!?」
「いくら浩平さんのお願いでもこればかりは」
「交渉などと言わず今すぐ排除すべきです! 許可を!」
中条が興奮している。
鼻息が荒く目が血走っていた。
うーん、美人が台無しだ。怖すぎる。
「取引だっけ? いいよ教えても。その代わりこちらからも条件を出したい」
「中条。下ろせ」
「なぜです! 危険因子ですよ!?」
「中条三曹」
ぴしゃりとした声に中条は身体をビクッとさせ銃口を下ろす。
部下を大人しくさせた勝元は俺の方へ歩み寄った。
「聞こう」
「自由に行動させてほしい。命令も受けるつもりはない。ここを出ていく際も一切の制約なく出て行かせて貰いたい」
「好き勝手させろと?」
「ただし、規律は守るし環境改善にも協力する、ってのはどうかな」
「ふむ・・・・・・まぁいいだろう。君達の能力に期待するとしよう」
交渉成立。
俺と勝元は握手を交わす。
「あ、あの、謝るから、この二人をどうにかしてくれないかしら」
中条が夕花と日向に武器を突きつけられ、涙目で両手を挙げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます