第7話 都立柳坂高等学校
俺は今、五十代男性を背負って学校に向かっている。
しばらくは肩を貸すだけで歩けていたんだが、とうとう体力が尽きてしまい、しかたなく非常に不本意だが、学校に着くまでの間だけ背負ってやることにしたのだ。
夕花は自分がやると言っていたが、若い女の子におっさんを背負わせるなんてできるか。もし学校にいる人間に見られたらなんて言われるか。
これでも一応人の眼は気にするのである。
「重ね重ね迷惑をかけてすまないね」
「いいのいいの。浩平はそこらの魔物より強いから気にしないで。山崎さんも発泡スチロールくらいにしか思ってないから」
なぜか日向が笑顔で返事をしている。運んでいるのは俺なんだが。
あと確かに発泡スチロールくらいにしか感じてないけど、これはこれで面倒だし疲れは溜まる。
しかもこのおっさん汗臭い。
「喉は渇いていませんか。水筒にお茶をいれてきたので飲んでください」
「ありがとう。夕花は気遣いができて優しいな」
「――!!」
顔を逸らした夕花がぶるっと震える。
耳が真っ赤になっていて声にならない声が聞こえた気がした。
変なことでも言ったかな?
先頭をスタスタ進む日向とスーさんが足を止めて振り返った。
「もうじき学校に着くわ。ところでそろそろスキルについて説明してくれないかしら。いまいち要領を得なくて理解が進んでいないのよ」
「それもそうか。夕花、レベルはいくつになった?」
「15です。あ、スキルの欄に今までなかった記載があります」
そろそろだと思ってたよ。
夕花は日向より一足早くレベル上げを始めていた。加えて先ほどの戦闘で多数の敵を倒している。タイミング的にそろそろ15になる頃であった。
背中には山崎のおっさんがいるけど、まぁ聞かれたところで会話の内容は理解できないだろう。
理解されたとしても、そもそも魔物と戦えなきゃ使える知識ではない。
「スキルってのはLv15を境に覚醒する特殊能力みたいなものだ。発現する能力は人によって強さも効果も違うし、メリットもデメリットも存在する。いうなればスキルはそいつの可能性であり切り札だ。だから対策されないよう常に秘匿する必要がある」
「一人一つなんですか?」
「大体の人はそうだけど、稀に二つ有する奴がいる。そういう存在はやばい。スキルとスキルを組み合わせて、レベル差とか関係なく相手を倒す規格外の化け物になりやすい」
何度か戦ったことがあるけどマジで反則級に強い。
もしそういう奴と出会ったら逃げるが一番。何をされるのか予想ができない。
「へぇ、じゃあ私も15になると能力に目覚めるのかしら。ちょっとわくわくするわね。それはそうと、どこでそんな情報を手に入れたのかしら。前々から思ってたけど異様に詳しいのよね。魔物にしても、力にしても」
「た、たまたま読んだ小説が今の状況にそっくりだったからかなぁ。すげぇ詳しく書いてたし、もしかしたら作者は異世界転移したことがあったのかも、なんて」
「・・・・・・ふーん」
日向はジト目で明らかに疑っていた。
反対に夕花は尊敬のまなざしを向けてくる。
日向はともかく夕花に関しては騙しているような罪悪感があった。別に隠すようなことでもないのだが、なんとなく習慣で伏せてしまったのだ。
「で、夕花のスキルは!? 教えてよ!」
「えっと、【認識阻害】ですね。強い、のでしょうか?」
おおおおおおっ! 超レアスキルじゃないか!
伝説のシーフやアサシンが有したつよつよ能力!
弓士である彼女のスタイルともバッチリ合う。いっそのこと弓じゃなくライフルを武器にして貰おうかな。それとも弓にスコープを付けるとか?
忽然と夕花の姿が消える。
「どこ!? どこに行ったの夕花!?」
「ぽよぉ、ぽよよよっ!?」
「ここにいますよ」
再び彼女は姿を現す。
一部始終を目撃していたおっさんが驚愕した。
「き、君も覚醒者だったのか。逆らわないから殺さないでほしい」
「殺しませんよ。私は大切な人が傷つけられない限り何もしませんから」
ほんの一瞬、夕花の目からハイライトが失われた。
「ひぃ、肝に銘じておきますぅ」
「か弱い中年を脅すな」
「そんなつもりはなかったんですが」
しかし、彼女には逆らわない方がいいのは正解だ。
たぶん怒らせると俺より怖いから。
◇
――都立柳坂高等学校。
毎年優秀な卒業生を輩出し、一部では芸能人も通っていると噂されている有名な進学校である。近年はスポーツにおいても力を入れているそうだ。そのような背景もあって校舎は近代的かつ設備も整っておりスポーツ関連の施設も充実している。
そして、柳坂高校はこの地域の避難場所としても指定されていた。
「前に来た時はこんな感じじゃなかったと思うけど」
「物々しいわね。守りを固めるって意味では正解だけど景観はぶち壊しだわ」
「さしずめ要塞でしょうか。通っている学校の変化にまだ戸惑いが」
「ぽよぉお」
木の板や金属板が貼り付けられた物々しい門。
上部からの侵入を防ぐ為なのか、鋭く尖った木製の杭が外側に飛び出している。さらに学校を取り囲む柵にも板が張られ有刺鉄線がびっしり張り巡らされていた。
背中にいる山崎が声を張り上げる。
「山崎茂則です! 戻ってきました、開けてください!」
内側から足音が聞こえ、門の上からひょこっと男性の顔が出る。
「生きてたのか山崎さん! 無事で良かった。待っててくれ、すぐ開けるから」
「待ちなさい。身分の確認と身体検査が先です。敵対組織が送り込んできたスパイの可能性があります」
「まだ高校生くらいですよ?」
「覚醒者に年齢は関係ありません。何かあってからでは取り返しが付かないんですよ? 年齢や外見に惑わされずきちんと調べる、鉄則です。いいですね?」
門の内側から女性のよく通る声が響く。
雰囲気からしてスーさんがこの場にいるのはまずそうだ。
マジックボックスに収納すべきか悩んでいる間に、夕花がリュックの中へスーさんを押し込んだ。
「この中でじっとしててね」
「ぽよ」
門が開かれ迷彩服を着た綺麗な女性が出てくる。
その腕には20式5,56㎜小銃が握られ鈍く光を反射していた。
「私は『
俺は日向と夕花に目で問いかける。
二人ともこくりと頷き検査を受ける意思を示す。
「身体検査を受けるよ。武器は外した方が良いのかな」
「そのままで結構ですよ。こちらも所持したままですから――って、剣!?」
腰に帯びた剣を見て中条は目を点にする。
さらに槍、弓、と視線を移し、口をぽかーんと開けたまま固まってしまった。
こっちじゃ骨董品みたいなものだし、そんなのを使おうって人間は珍しいだろうな。にしても驚きすぎじゃないか。自衛隊だってナイフくらい使うだろ。
「中条さん。中条さん、戻ってきて」
「え? あ、失礼しました」
山崎の声で正気に戻った中条は身体検査を始める。
正確には持ち物検査のようだが。
「これは何?」
「オークのベーコン。豚みたいな奴の肉だよ」
「嘘でしょ。貴方、アレを食べてるの? 人型よ?」
「そういうの気にしないタイプなんで」
リュックから出てきたオークのベーコンに中条はびびりながらも興味津々だ。
他にもくさやや干物なども多数入っている。川で釣ったサハギンを干した奴も入ってた。
俺の荷物を確認にした後、彼女はしばらく疲れた様子で額を押さえていた。
なんすか、俺の荷物は問題なんすか?
どこに出しても恥ずかしくない垂涎確実の食糧なんすけど。
「佐藤浩平君だっけ? 中に入って良いわ。ただし、おかしな物は食べないように」
「サハギンの干物のことか! こいつは美味いんだぞ!」
「それ、近づけないで。なんか臭いのよ」
日向の荷物検査は短時間で終わり、最後に夕花の確認が始まる。
「・・・・・・これは?」
「水枕です。最近は夜も暑くてなってきてなかなか寝付けないので」
リュックの中には動かないスーさんがいた。
スライムだと分からないよう、白い布までかぶせてある。
中条は指でぷにぷに押すと、はっとした様子で再び指で押した。
「この枕どこにあったの? ニ○リ?」
「どこだったでしょう。あまりよく覚えてなくて。ごめんなさい」
「欲しいわ。一体どこに売ってたのかしら」
検査そっちのけで中条は枕のありかについて考えを巡らせる。
よほどスーさんの感触が気に入ったのだろう。
当然だ。スーさんは至高のスライム。その弾力は神の域に達している。
「あの、もういいでしょうか?」
「あ、ああ、そうね。オーケーよ」
許可が下り、俺達は門の内側へと入る。
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