第4話 夢騒がし
8年前、マクドナーン王国とタルントッテ王国との戦争が本格的に激化していた。
「団長! 斬っても斬っても敵が減らねぇ、一旦引くか?!」
「ガナン、焦るな。 マクドナーン城の騎士どもなんざ眼中にねぇが、俺がいる限り団員の命だけは必ず保証する...。 耳かっぽじってよく聞けテメェら!! 動ける奴は怪我した奴らを担いで一旦引け!! そしてガナン、バッカス、メイ、俺と一緒にあとひと押しだ、行けるか?!」
「あたぼうよ!!」
「まかせろ。」
「まだまだマナは尽きないわよ...!」
(ヒュンッ)
「ガァーハッハッハ!! それでこそ俺が認めた英雄共だ、気合いをいれ...カハッ...な、んだ...」
「なッッ!!?」
「団長...? おい、団長! バルトロフ団長!!」
「一体どこから?! これは...針? しかも猛毒が付与されているわ...バッカス、全方位集中型の気配探知をお願い、付与時の僅かなマナを探って!!」
「くっ...やってみる...」
「おい団長!! しっかりしろ!!」
「ガナン...頼む、ジェインを...何故か知らんが...この毒は俺によく効く...早く、気付くべきだった...いや、気付いて、いた...ハハッ、俺も男だった訳だ...ジェインに伝えろ、『お前は強くなって、俺の代わりに仇である憎きタルントッテを打ち倒せ』とな...ああ...あと一つ、お前に伝えておく、ベンリック王は...信じる...な...。」
「おい、団長...団長ぉぉおお!!」
「ッッ!!!」
ガバッと起き上がり、汗を拭ったガナンは拳を握りしめながら目線を落とした。
「何度目だ、この夢は。」
身体が疲れている時、必ずこの夢をガナンは見る、もう何度見たか分からない...頭の片隅にこびり付いた記憶が鮮明に浮き上がり、睡眠という唯一の安息を妨げる。
その時、項垂れているガナンの部屋のドアが勢いよく開いた。
「ガナンさん!! 突然すみません、ベンリック王直々に任務を頼みたいとの事です、使いの者がこれを!!」
「お、おう」
「それでは!!」
手紙を受け取り封を切ると、そこにはマクドナーン王国の領土にあるテンテ村で多数報告されている魔物の被害の調査、及び討伐に赴いてほしいという趣旨が記されていた。
そして最後に、『ジェインを必ず同行させるように』と。
「ったく、周辺警備の次は討伐...か。 ベンリックの野郎は何を企んでやがるんだ...」
ベンリック王直々の任務には必ず最後に、ジェインを同行させるようにと綴られている。
バルトロフの息子だからか、はたまた何か別の理由があるのか...今考えても答えが出てくるはずもない事は分かっていたので、一旦考えるのを辞めて任務の事を伝える為にジェインの元へ向かった。
「ジェイン、ちょっといいか」
「おはようございますガナンさん! どうしましたか?」
「ああ、ちょっとな...仕事があるんだが、頼めるか?」
「はい! 自分で良ければやります! またどこかの警備ですか?」
「いや、フルポトルから南に下って行くとテンテという村がある、そこで魔物の被害が増えているらしいんだ。 その調査と同時に発端になってる魔物の討伐をお願いしたい。」
「なるほど...分かりました! えっと、僕だけですか...?」
「ふむ、そうだな...クルルを連れてってやってくれないか? こないだから機嫌を損ねてしまって口も聞いてくれないんだ、ハハッ、親失格かもなこんなんじゃ...あいつも良い気分転換にはなると思う、どうだ?」
「ガナンさんは良い父親だと思います! 僕はたまにクルルが羨ましいです...分かりました、伝えてきます!」
「お、おう、頼むなジェイン。 くれぐれも気をつけてくれ、魔物の詳細も何も無い、何かきな臭いんだ。」
「分かりました、十分気をつけます。 無理そうでしたら一旦引き返してきます!」
「頼む。」
胸騒ぎがする、何かよからぬ事が起きるかもしれないとガナンが今までの人生で培った野生の感が語りかけてくる。
「何事も、無ければいいがな...。」
べっとり纏わりつく不安に駆られながら、それを洗い流しに行くかのようにガナンは顔を洗いに向かった。
時を同じくして、ジェインはクルルの元へ向かっていた、食堂にいたクルルと同じ魔法使いのヤンに彼女の居場所を聞くと、書斎にいるとの事だった。
書斎に着くと、彼女は分厚い魔法薬学の本を読んでいた。
「やあクルル、勉強かい?」
「ジェイン! ここへ来たってことは、ようやく魔法に精を出す気が起きたのね?」
「それも良いかもしれないね、でも今日は別の事で来たんだ。」
「なーんだ、せっかく魔法の偉大さを共有できると思ったのに...それで、別の事って?」
「うん、ガナンさんから仕事の話が来てね、なんでもテンテ村って所で魔物の被害があるらしくて、原因の調査と魔物の討伐の仕事らしいよ、僕と君で行ってこいって」
「ふーん、あの筋肉バカ親父がね...いよいよあたしの魔法が頼りになるって気付いたのかしら」
「筋肉バカって...とにかく情報が少なすぎるからまず村に行って聞き込みから始めてみようよ」
「そうね...いつ、何処で、誰を、どんな風に襲っているかわかれば少しは見当付くんじゃ無いかしら」
「よし、自室に戻って準備をしてくる。 出発はお昼で良いかい?」
「ええ、いいわ。 準備ができたら入り口で待ち合わせて出発するわよ、テンテ村なら身体強化を使えば2時間程で着くわ」
「身体強化ね...苦手なんだよな...頑張るよ」
「はぁ、基本中の基本よ? 頼りないわねぇ...」
「ははっ...」
2人は自室へ戻り、これから起こりうる様々な事に対処できるよう、ある程度の備えをする。
一体2人に何が待ち構えているのか、はたしてクルルを同行させたガナンの選択は正しかったのか。
刻一刻と時間は過ぎ、ジェイン達は意を決してテンテ村へ歩みを進めた。
リグレット・ヘイトリッド ももんちょ・がぶが @KochirA
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