第3話 手に馴染む物

 ジェインにはこれと言って好みな武器がまだ無い、普段はショートソードとダガーを使っている。

これは父の影響が強かった、父であるバルトロフは魔法はからっきしだが武器に関してはどんな物でも扱うオールラウンダーだった、ただ小回りが利き縦横無尽に戦場を駆け巡れるこのショートソードとダガーという組み合わせはバルトロフのお気に入りだった。


 その組み合わせがジェインの体格にも合うので、幼少期の頃行っていた訓練ではよく使っていた、しかし実戦となるとジェインは思うように身体が動かない、それは彼の中に眠る『何か』が持つ抑えきれない衝動と、現在の実力のズレが引き起こすエラーのような物であった。


 いつものように朝の訓練をしていると、団長のガナンが話しかけてきた。

傭兵団バルフルーフの団長であるガナンは、まだジェインの父バルトロフが団長だった頃、若くして数多の功績を挙げた英雄の1人だった。


「ジェイン、俺が武器を適当に見繕ってやろうか? こないだ結局武器屋に行けなかったのだろう?」


「ガナンさん! おはようございます! そうですね...結局行けませんでした、何かお勧めでもありますか?」


「そうだな、やはり俺のようにポールアーム等はどうだ? 分厚い鎧をまとう騎兵をなぎ倒し、オークやトロールにだって対等に渡り合えるぞ!」


「ちょっとお父さん、ジェインを筋肉バカにしようとするの辞めてよ! あたしの魔法が一番なの、あたしの魔法があれば何が来たって蹂躙できるんだから! ジェインだって魔法で無双したいでしょ?!」


 そう言って魔法を激推しするのは、傭兵団バルフルーフきっての使い手、クルルである。

実はこの傭兵団唯一の女性であり、ガナンの娘である、かなりのおてんば娘でガナンも手を焼いている。


「そ、そうだね、クルルの魔法が一番だよ!」


「でしょー!? ほらお父さん、そんなでかいだけの武器を振り回すより華麗に魔法で片付けるのがジェインにピッタリなのよ!」


「あのなぁクルル、確かに魔法は強いがお前のようにマナが多い奴はまだ少ないし、魔法の対抗手段なんて幾らでもある。 ジェインだってまだマナの鍛錬を始めて浅い、だからまず色々な武器を扱えるようになっといたほうが身の為なんだ、わかるか?」


 そう言われたクルルはムスッと膨れて訓練場から飛び出した。


「悪いなジェイン、あいつは魔法の事になるとムキになるからな、どこの誰に似たのか...少し様子を見てくる。 おいカイル、しょうがないからジェインを武器屋に連れてってやってくれ! 一万ペグ(※1)をやるから一つ気になった物を買って使ってみろ、新しい出会いがあるかもしれんな!」


 そう言ってガナンはクルルを渋々追いかけて行った、彼の背中はとても大きく、数多の修羅場を駆け巡った戦士のオーラを纏っている、だが今は子育てに悩める親の哀愁さえ感じる。


「ダンナも太っ腹だな、1万ペグまでくれるなんて...よし、早速武器屋へ行くぜジェイン。 昼前に良い武器が見つかると良いな。」


「うん、良い武器があったらガナンさんに見せに行くよ!」


 城下町フルポトルには幾つか武器屋がある、その中でも傭兵団バルフルーフ行きつけの場所があり、初代団長のバルトロフにショートソードとダガーの組み合わせを指南したのはその武器屋の店主だ。


 武器屋に着くと、店主のビビンが突然声をかけてきた。


「ジェインとカイル、今日お前達がくるのは分かっていた。 さあ中に入れ2人とも、見せたいものがあるのじゃ。」


 そう言ってビビンは2人を客間に通した、店の中は炉の熱気や油の匂いが充満している。

咳き込みながら工房で何かを漁っているビビンが、武器を抱えながら客間に戻ってきた。

机の上に抱え込んでいた武器をドカッと置き、一息ついてから汗を拭った。

机にはしっかりと研かれたバジリスクの刻印が入ったクレイモアと、刀身が見る者全てを引き込むような漆黒のダガー2本が置かれていた。


「どうじゃ、どちらも良い顔をしとるじゃろう。 ワシの予感が当たっておったわ、主らが来るのを見越してこの数ヶ月間店を閉めて没頭して作っとったわい。」


「ほーん、だから最近ずっと音沙汰無かったのか。 にしてもじっちゃんの予感凄すぎだろ、天からのお告げでもあったってかい。」


 カイルは冗談で言ったつもりだったが、ビビンはそれを聞いて大きく目を見開きながら話し出した。


「お告げか、あながち間違いでは無い。 数ヶ月前、仕事を終えてしょんべんをしてから寝床についたんじゃ。 その日は確か綺麗な満月じゃった、そして夢を見たんじゃよ...白いマントに包まれた、青い瞳の少女が絹のような柔らかい声でワシに喋りかけてきよったんじゃ。」 


『三つの月光が大地に沈む時、因果を超越した存在が顕現し、その存在は世界を混沌と絶望に染め、幽々たる時代へと変貌します。 それを止められるのは私の兄しかいません、これを授けます。 この鉱石で武器を作り、渡してあげて下さい。 そして彼の良き師である者にもお作り下さい、きっと兄の手助けになるでしょう。』


「そう言って泡になって消えていったのじゃ...そして目が覚めると工房に謎の鉱石があったのじゃ、ワシは何十年もこの仕事をしとるがこんな物は見たことがない、よく分からんがきっと異界の物なんじゃろう。 ほれ、クレイモアはカイルに、2本のダガーはジェインにじゃ、手にしてみれ、きっと馴染むじゃろうて」


 ジェインとカイルはそれぞれの武器を手にした、ズッシリと、はたまた羽毛のように軽く、よく手に馴染む不思議な感覚であった。


「なにやら訳がわからねーが、こんな大層なもんもらって良いのか? そしてこの先何が起きるってんだよ...なあジェイン。」


「見たんだ、その少女。 子どもと遊んでいる時に湖の辺りで...必ず迎えに来るって言って泡になって消えたんだ。 僕にも何が何だか分からない、けど何かが起こるんだ、この武器を使って何か強大な物に立ち向かわないといけないのかもしれない...」


「見ただって? おいおい、兄って言ってたよな...それに泡になって消えたって...あーっ、考えてもわからねーっ! 事が大きくなり過ぎだぜ...」


「彼女はきっと異界の女神なのじゃ、なぜジェインを兄と呼ぶのかは分からぬが...お前達、この事はまだワシら3人の中で秘めておいた方が無難かもしれん、いきなり言うても王でさえ理解してくれぬ」


「そうですね、今何かしようと焦っても多分空回りしてしまいます。 三つの月光がなんなのか...そしてその少女の事も少し調べてみます。 ビビンさん、こんなに良い物を作ってくださり感謝します...」


「良いのじゃよ、お代はいらん。 そして三つの月光についてはワシの倅が調べておる、主らはもっと修行して、強くなってワシらの世界を守っとくれ。」


 そう言ってビビンは暫く休むと行って店を閉めた、ジェイン達はビッシリとこびり付き拭いきれない謎と、形容し難い不安を胸に帰路についた...。




(※1)ペグはこの物語共通の通貨です。通貨に関しての凝った設定はおいおい考えていこうと思ってます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る