第2話 かくれんぼ

 1ヶ月ぶりに休みをもらったジェインは母が暮らしている家に向かった。

フルポトルの主要の道を外れた先にある、レンガでできた小さな一軒家に母は住んでいた。

庭にある畑に水をあげていた所、ジェインに気づいたのか手を振りながら迎えてくれた。


「随分と顔がやつれてるじゃない、男前な顔が台無しよ!」


「よせよ母さん、連日続いてる魔物との戦いで少し疲れてるだけだよ。」


「だったらろくに休めて無いんじゃないの? さあ家へお入り、温かいジャガイモのスープがあるのよ、それを飲んで少し部屋で休みなさい」


 2日ほどの休暇をもらったので、今日は実家でゆっくりと休んで、明日は新しい装備などを調達しに行く予定だ。

リビングに行くと母がスープを出してくれた、疲れた身体に染み渡るこのスープは小さい頃からジェインや父のバルトロフのお気に入りだった。

バルトロフはジェインが7歳の頃、敵対国であるタルントッテとの戦争で命を落とした。


 マクドナーン王国は食料や鉱物等の資源が他の国に比べてかなり豊富で、タルントッテ側はそこに目をつけその資源や土地は本来我々の物だった、と突如主張しだして戦争が始まった。

あまりにも突然の事だったので、マクドナーンの軍事力では事足りず、困窮していた。

そこで元傭兵だったバルトロフは、身分は違えど幼い頃から親しかったマクドナーン王国の国王ベンリックに直談判に行き説得し、傭兵団を自ら立ち上げ戦争に加担した。


 という話を父が戦死した後に母から聞いている。

正直父と遊んだ記憶等はあまり無い、あるのは泥と涙に塗れた訓練の記憶だけだ、ただ運がいいのか悪いのか魔物が急増したおかげで休戦してるとはいえ、いつも父の墓の前で涙を流す母を見てきたジェインはいつしかタルントッテに対し憎しみや怒りの感情が強くなっていった。


「どうしたのジェイン、そんな怖い顔して。変な味がしたの?」


「いや、なんでもないよ母さん! とっても美味しいよ!」


 スープを堪能して、ご馳走様と元気よく言って部屋に行ったジェインの背中を見て、母は小声で呟いた。


「ボルトロフ、貴方の『息子』は逞しく育っているわ...私達が報われる日は近いかしらね...フフ」


 その女の笑みは、息子の成長を感じて感動している素振りなどではなく、どこか不穏な物を含んでいた。

そんな事などつゆ知らずにジェインは久しぶりのフカフカのベッドで横になった。


 気づけば朝になっていた、よほど疲れが溜まっていたのか爆睡していたようだ。

母が用意していた朝食を頬張り行ってきますと挨拶して家を出て、城下町にある武器屋へ向かった。

その途中近所に住む子ども達がジェインに気づき走って近づいてきた。


「ジェイン兄ちゃん! いつかえってきたのさ! あそぼうよ!」


「ジェイン兄ちゃんだ! あそぼうあそぼう!」


「あそびたーい!!」


「久しぶりだなお前ら! でもごめんよ、お兄ちゃんちょっと用事があって...」


「えー! ちょっとだけでもいいからあそぼうよ!」


「おねがーい! おねがいおねがい!」


「あそぶー!!」


 ここまで懇願されると流石のジェインもほっとけない、すこし遊んであげてからでも武器屋は閉まらないと思い子ども達に付き合う事にした。


「わかった! 兄ちゃん負けたよ...何して遊ぶ?」


「やったー! かくれんぼがいい!」


「かくれんぼ! かくれんぼ!」


「かくれんぼー!!」


 そう言って子ども達は城下町から少しだけ出た所の、小さな森に散って行った。

この森は冒険者ギルドが所有する森で、駆け出しの冒険者達が訓練する為の森であり、監視も行き届いているので全くと言っていいほど魔物は出ない。


「おーい! あまり遠くへは行くなよ!」


 そう言いながらジェインは耳を澄ませた、幼少期の訓練により少しだけ他の人より耳がいい、足音は4人までなら聴き分けられるほどだ。

足音で大体の位置を把握したので、軽く探すふりをしながら1番近い子どもに近づいた。


「1人目みーっけ!」


「うわー! ジェイン兄ちゃんはやっぱりはやいなみつけるのー...くやしー...」


「はっは! 上手いだろ! あと2人か...」


 2人目は途中で足音が消えた、おそらく木に登ったのだろうと考えたジェインは音が消えた場所に行き目を瞑り、気配を探した。

僅かだが少し荒い息遣いが聞こえたので、その木に近づきよじ登った。

確かにそこには、枝の上に座って顔を手で隠している子どもがいた。


「2人目みーっけ!」


「あーあ...みつかっちゃった...ぜったいだいじょうぶだとおもったのにー...」


「木に登るのはいいセンスだね! 見つけるのが少し難しかったよ!」


 あと1人は少し離れた湖の方向へ向かって行ったのが聞こえたので、先ほど見つけた子ども達を森の入り口まで見届けてからジェインは走り出した。

陽が落ちるにはまだ早いが、早めに見つけて帰さないと親が心配するので少し急ぎ目に向かう。

湖の辺りは静まり返っていた、目を瞑り気配を探ると此方に誰かが近付いてくるのがわかった。


「やっと会えた...」


 声が聞こえ、隠れたは良いがおっかなくなって泣きついてきたかのかと思い目を開けるとそこには、白いマントに身を包み、ジェインとそう歳も離れていなさそうな青い瞳で長い金髪をハーフアップにした少女が立っていた。

知らない少女に声をかけられ、面食らったジェインは身動きが取れずにいた。


「お兄様、元気そうで良かった...今はまだ無理だけど必ず迎えにくるからね...だから死なないで」


 そう言い残すと少女は泡になり消えた、状況の把握がまだできてないジェインだが、近くで泣き声が聞こえ即座に走り出した。

草むらで蹲り泣いている子どもをみつけた、どうやら隠れる場所を探している途中に転んで膝を擦りむいたらしい、なぜ湖に着いてすぐ泣き声に気づけなかったのか...反省は後にしよう、子どもを抱きかかえて急いで森の入り口へ戻った。


「一体、あの少女は...」


 考えてもしょうがないのだが、ジェインをお兄様と呼ぶ少女、そして迎えにくるとは、謎が謎を呼びこれ以上は混乱してしまうので一旦考えるのを辞めた...。

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