④ぐずぐずサーシャ ~悩める吸血鬼をたっぷり甘やかしお世話

//環境音 森

リスや鳥の声


//SE 足音

土や草を踏む


//SE 木の扉をノック


//SE 再びノック

返事がなかったので、しばらく間をおいてから


//SE 蝶番が小さく軋む

鍵がかかっておらず、扉を軽く押すと開く


//SE 扉を開けきる


//SE ガラスの破片を踏む

一歩踏み出すと、床には割れたフラスコが転がっている


//SE 鍋が沸き立ち、吹きこぼれる音


//SE 布ずれ音

部屋の隅で誰かが身じろぎする


小屋の中は様々な物が散乱し、爆発でもあったかのような有様。辺りを見渡すと、部屋の隅にうずくまるシーツの塊がある


//SE 足音

時々ガラスを踏みながら、シーツの塊に近づいていく


「……」//小さく泣く声

近づくにつれて声も近くなる


//SE 布ずれ音

主人公、屈みこむ


//SE 布ずれ音

シーツをめくる


「ハヒッ……」//息を呑んで固まる

頭一つ分の距離感


「……」//話しかけられ、返事をしようとするが、肺から息を吐くばかりで言葉が出ない


「はーっ……はーっ……はーっ……」//過呼吸気味に


//SE 優しく背中を叩く音

主人公、サーシャを落ち着かせようとする


「う……うう"う"う"……」//自分の情けなさと主人公の優しさに涙


「……」//なんとか息を整える


「あ……あの……あの……あの……」


「ぽぽぽ、ポーションの実験で……失敗……しちゃって……」


「鍋が爆発して……私、ポーション、浴びちゃって……」


「お部屋も、滅茶苦茶になっちゃって……」


「フーッ……フーッ……」//頑張って言葉を絞り出そうとする


「ま、間違えて……暗い気持ちになるポーションを作っちゃったみたいで……」


「う……つ、辛いことばっかり考えちゃってェ……」//さらに泣き声に


「ぽ、ポーションの効果だってわかってるのに……」


「ふ、不安で……独りで……寂しくて……」


「わ、私……私……」


//SE 優しく背中を叩く音


「う……うううう……」//顔を布に押し当てて泣く

主人公の胸に顔をうずめる






//SE 窓を開ける音


//SE ガラスの破片を箒で掃く


//SE 散乱した鍋を拾い上げて棚に戻す


//SE 湯が沸く


//SE お茶を淹れる


//SE カップの乗った盆を運ぶ


//SE 盆を置く


//SE ベッドに腰掛ける

サーシャの左隣に座る


//SE カップを手に取る

お茶を差し出す


//SE カップを受け取る音

熱い。恐る恐る受け取る


「ありがとう……」//泣きつかれたような声


「……」//しばらくお茶に映った自分を見つめる


「ふーっ……ふーっ……」//お茶冷まし


「ずず……」//お茶を啜る


「あひゅい……」


「ご、ごめん。私……猫舌で……」


「でも、この香り……落ち着く……」


//SE カップを置く音


「……」//どう切り出そう……


「ご、ごめん……ね……お部屋の掃除、してもらっちゃって……」


「う、うん……大分落ち着いた……よ……」


「……」


「ごごご、ごめん……ね……情けない所……見せちゃって……」


「困らせちゃった……よね……」


「……」


「へ……」


「わ、私の話……聞いて、くれるの……?」


「……」


「うん……」


「わ……私、ここから遠く離れた、西の森に住んでたの……お母さんと二人で……」


「お、お母さんはこの学校の卒業生で、すごい魔女……なんだ……よ……」


「沢山のポーションのレシピを考えて……今のポーション術の教科書も、お母さんが書いたんだ……よ……」


「こ、この小屋はね……お母さんが生徒だった頃に使ってた場所……なの……」


「だ、だから……私もお母さんみたいなポーション術師になれたらって……この学校に入学したの……」


「で、でも……」


「わ、私……小さい頃から、人前に出るのが苦手で……」//ゆっくりと、一歩ずつ確かめるように


「わ、私どうしても駄目なの……自分に自信がなくって……」


「け、結局……一学期の間も、授業、一つも出れなくて……」


「わ、悪いことはしてないのに……私、ちゃんとできてないんじゃないかって……だ、誰かに笑われてるんじゃないかって……思っちゃって……」


「お、お母さんは……才能のある、自慢の娘だ……って……言ってくれるけど……」


「お、お母さんは私を大切にしてくれてるのに……私は自分のこと、好きに……なれなくて……」


「お母さんを裏切ってるみたいで……そんな自分が、余計に嫌になって……」


「う……」


「ふぅっ……ふぅっ……」//嗚咽をなんとか抑え込もうとする


//SE 背中をさする音


「う……うううう……」


「さ……サーシャね……君が友達になろう、って……言ってくれて……」


「すごく……すごく……嬉しかった……」


「つ、つがいの話も……私、急に変なこと言ったのに……」


「真剣に、考えて返事してくれて……」


「優しい人なんだって……」


「つ、次はいつ来てくれるんだろう……って、ずっと、楽しみに……してて……」


「で、でも……だ、段々不安になってきて……」


「な、何気ない言葉を、本気にして……」


「わ、私が勝手に……期待してるだけなんじゃないかって……」


「もしかしたら、サーシャのことなんて忘れちゃってて……」


「もう……会いに来てくれないのかも……って……」//涙声


「き、君がそんな人じゃないって、わかってたはずなのに……」


「そんなことばっかり考えちゃう自分が嫌で……」


「わ、私、君みたいに明るくなれたらって……思って……」


「……」


「明るい気持ちになれるポーションを作ろうとしたの……!」


「……で、でもどこかで調合を間違えちゃったみたいで……」


「効果が反転して、暗い気持ちになるポーションを作っちゃったの……」


「……」//全部話してしまった、と黙り込む。主人公の反応が怖い


「へ……?」


「ど、どうすれば元気になるか……?」


「……」//申し訳なさそうに黙り込む


「……」//思いつく。自分で自分の考えに恥ずかしくなる


「……」//主人公の視線を感じてしどろもどろ


「あのね……」//消え入りそうな小さな声で


「さっき、背中とんとんって、してくれて……すごく安心した……」


「だ、だから……」


「ききき、君が……嫌じゃなかったらで……いい、から……」


「……」//息を整える


「ぎゅー、って……して……」


「……」//一瞬だが耐え難い沈黙


「……う、嘘嘘嘘!ごめんっ……わわわわ、私何言ってるんだろ……!へ、変だよね!エ、エヒ……ぽ、ポーションのせいかな……ごめんね……忘れて……!忘れ……」


//SE 服のすれる音

主人公、サーシャをそっとハグ


「……」//感激の溜息

声が近くなる


「う……うううう……」//思わず涙が零れる


「ど……どうして……」


「どうしてこんなに優しいの……」


「わ、私……?」


「……」


「うん……うん……」


「……」//まだ少し緊張していて、体が硬い


「……ハヒ……?」


「目……?」


「ハワ……」//焦る


「あ……あの……どうしても人の目が見れなくて……」


「ご、ごめん……君が嫌で逸らしてたわけじゃない……よ……」


「……」


「……れ、練習……?」


「き、君の目を見つめるの……?」


「じゅ……十秒……!?」


「で、できないよ……ハヒッ……!?」//と言っている間に数え始める主人公


「う……」//律儀に見つめ返す


「……」//思わず息を殺す


「……」//十秒経過


「う……ううう……」//顔が真っ赤に


「い、息、止めてた……?」


「ふふ……エヒ……」


「……」//徐々に緊張が解け、次第に主人公に体重を預ける


「……体……冷たい……?」


「うん……」


「ハヒ……?」


「血……くれるの……?」


「た、たた確かに……血を貰えたら、良くなる……けど……」


「そそそ、そこまでしてもらうのは……」


「……」


「い、いらないなんてこと……ない……」


「ほ、欲しい……」


「君の血が……欲しい……よ……」


「いいの……?」


「いいの……?サーシャ、君に甘えても……」


「うん……」


//SE 服のすれる音

主人公、腕まくり


「……」//興奮を抑えた息遣い


「じゃあ……する……よ……」


「ちゅ……」//前腕にそっと唇が触れる


「あむ……」


「ちゅ……ちゅ……」//ミルクをもらう赤ん坊のような心地


「ちゅ……」


「ん……」//飲み終える


//SE 服のこすれる音

主人公、ハンカチを取り出す


「ん……」//何だろう?


「んっ……んふふ……エヒ……」//口元を拭かれる。くすぐったい


「ふふ……」


「……」//リラックスした息遣い


「あ……あのね……」


「私、ずっとこうしてほしかったんだと、思う……」


「生まれたところから遠く離れて、知らないところで……独りで……」


「寂しかった……」


「だから……」


「……」


「ありがとう……」


「……」//安心して、疲れと眠気が押し寄せる


「……」//やがてすうすうと寝息を立て始める

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