『般若』とはなんぞや?

般若はんにゃ


皆さんも割と耳にする言葉だと思いますが、何を想像するかは人それぞれでしょう。


例えば、凄まじい形相の鬼女のお面である“般若面”。


お酒の隠語である“般若湯”。


仏教の代表的な経典である“般若心経”。


ぱっと思いつく限りでも、色々と出てきます。


では、その『般若』とはなんであるのか?


『般若』とは、パーリ語の“パンニャー”に由来し、その意味は“全ての事物や道理を明らかに見抜く深い智慧の事”を指して言います。


瞑想において、無常、苦、無我の、三学を理解する事です。


すなわち『般若』とは、悟りを開くための“智慧”そのものと言えるでしょう。


実際、悟りを開くには六波羅蜜の習得が不可欠であり、そのもっとも重要なものが“般若波羅蜜”であるとも説かれています。


では、なぜそれがお面の名前になったり、お酒になったりしたのかと言うと、色々と変遷があります。


鬼女の面のことを“般若面”と呼ぶのには、3つの説があります。


1つは、般若坊という能面師が作ったというものです。


般若坊は僧侶にして、非常に優れたお面の作り手でした。


特に評判が高かったのが“女の生霊の面”であり、それがいつしか作者の名前そのものが当てられ、鬼女の面=般若の面となったという説。


次の説は源氏物語を題材にした能『葵上』での、台詞が由来となります。


怨霊と化した六条御息所が葵上を呪い殺そうとしますが、その場面において“般若心経”を唱えて調伏する場面があります。


この際に六条御息所を演じる役者は鬼女の面を付けており、その面がいつしか“般若”と呼ばれるようになったという説。


最後の説は、面職人であった赤鶴が、神仏の智慧を得て新しいお面作りに取り組み、そして出来上がったのが鬼女の面でした。


その鬼女の面は神仏がインスピレーションを与えてくれた結果の産物であり、神仏の智慧=般若の面と名付けたという説。


どれもありそうな面白い説ですね。


さてもう1つ、“般若湯”にも触れておきましょう。


“般若湯”はお酒の隠語であると知っている方も多いとは思いますが、なぜこう呼ばれるようになったのか?


そもそも、僧侶の飲酒は本来ご法度です。


戒律の中に、不飲酒戒ふおんじゅかいが含まれていることからもそれは明らかです。


お酒、つまり、アルコールを摂取すればどうなるのかは、皆さんもよくご存じでしょう。


酔って気分が良くなる程度であればいいのですが、ついつい大言壮語な嘘をついたり、言い争いになって喧嘩をしたり、善悪の正しい判断が出来なくなって、暴れたり悪事を働いたりします。


お酒の飲み過ぎで判断力や記憶力を失って、自分のしたことを覚えていないとか、ふざけて物を壊したりした覚えのある方は少なくないと思います。


そんな物を飲んでは、修行の妨げにしかなりませんので、僧侶が飲むのはダメだというわけです。


飲酒によって得られる快楽はほんの一時の事であり、解脱によって得られる真なる素晴らしき世界への旅立ちに比べれば、まやかしに過ぎないのです。


酩酊による幸福感など、次の欲望を呼び起こす悪事であり、飲酒は慎むべきであるというのが不飲酒戒ふおんじゅかいです。


しかし、これを変えてしまったのが、空海上人(弘法大師)なのです。



空海

「冬の寒さをしのぐために温かい“”を一杯だけなら許す」



いいですか! “ゆ”ですからね! “しゅ”ではないですからね!


そんなわけで、冬の寒さ厳しき高野山においては、体を温めるためにちょっとだけならいいですよと、“般若湯”が解禁されたわけです。


般若湯とは言ってしまえば、“智慧の湯”ということになり、寒さで修行に打ち込めない僧侶のために、やむを得ない措置であったというわけです。


なんだか言い訳がましいけど。


智慧を得るための湯なら、罪の意識なく飲むことが出来るというわけです。


酒を飲みたい僧侶が“智慧”を絞って編み出した理論の先にあるのが、“般若湯”というわけです。


今少し別の方向に、智慧を絞ることはできなかったのだろうか。


読者の皆さんも、酒の力に頼らず、『般若』を体得してみましょう!



バーニャ!>( -ω-)人  (´・ω・` )<それ蒸し風呂の事や

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