仏陀と悪口男

今回は仏陀とそれを妬む男にまつわるお話です。



               ***



あるところに仏陀を妬む男がいました。


仏陀の下には数多の弟子がやって来てその法を学び、あるいは在家の信者からも慕われて、その数は日増しに増えていくばかり。


男には仏陀がなぜ皆から慕われるのか、それを理解できませんでした。



「ええい、忌々しい奴だ。なんであんな男が皆から尊敬を集めるのか。今に化けの皮を剥いでやるからな」



そう考えた男は、仏陀に対して一計を案じました。



「あの野郎を、群衆の前で口汚く罵ってやる。俺に悪口を言われたら、汚い言葉で言い返してくるだろう。聖人尊者の仮面なんぞ、あっと言う間に剥がれ落ちる。その様子を人々が見たら、あいつの人気なんて一気に地の底だ」



こう考えた男はある日、仏陀の説法の法座に聴衆として紛れ込みました。


そして、機を見て仏陀の前に進み出て、これを口汚く罵りました。


男の口から出てくる言葉は、この世の誹謗を寄せ集めたかと思うほどに酷い言葉の数々であり、弟子も他の聴衆も眉をしかめる程でした。


いくらなんでも酷過ぎると思った弟子の一人が、悪口を言い続ける男を法座から摘まみ出そうとしますが、寸前でそれを止めました。


仏陀が弟子に何もしないようにと、無言で制したのだ。



「仏陀様、あんなひどい事を言わせておいていいのですか!?」



弟子が思わず仏陀にそう尋ねた。


弟子にしても敬愛する仏陀がこうも口汚く罵られている事に対して、我が身の事のように悔しがりますが、仏陀は微動だにせず、ただ静かに悪口を聞き続けました。


そして、とうとう男は一方的に仏陀への悪口を言い続けて疲れたのか、その場にへたりこんでしまいました。


どんなに悪口を言っても、仏陀は一言も言い返さず、ただ黙って聞いているだけなので、なんとも言い表せない虚しさが男を襲ったのだ。


へたり込んだ男に、仏陀は静かに尋ねた。



「あなたが誰かに贈り物をしたとしよう。しかし、相手はそれを受け取らなかった。さて、その贈り物は誰のものになるのか?」



「そりゃあ、受け取らなかったってぇんなら、贈り主である俺のものになるに決まっている」



そう答えた途端、男はハッとなった。


今まさに自分がそうしていたのだと、気付かされたのだ。


狼狽する男に、仏陀は優しく微笑みかけた。



「その通りだよ。今、あなたが感じた通りだ。あなたは私の事をひどく罵った。でも、私はその謗りを少しも受け取らなかった。だから、あなたが言った事はすべて、あなた自身が受け取ることになったのだよ」



男は言い返す事も出来ず、ただ仏陀の慈愛と智慧の深さに感じ入り、その場で拝礼してその教えに帰依する事を誓うのでした。



                ***



因果応報。良いも悪いも、すべて自分の下に帰ってきます。


例え、濁流のごとき罵詈雑言であろうとも、流れの先に岩や壁がなければ、飛沫や渦が生じず、ただ流れていくだけです。


いずれ海に到達し、再び雨となって循環していきます。


何もムキになる必要はありません。


そう、「バカと言う方がバカ」なのです。


それを理解していたからこそ、仏陀は聞くだけ聞いて流したのです。


反発があれば、またそこから別の悪口が生じ、また反発しては罵り合う。


世の中の争いごとや対立なんて、だいたいはこんなものです。


智慧と慈愛によって相手を諭した仏陀の深さに、悪口男のみならず、弟子達や聴衆も感じ入った事でしょう。


皆さんも些末な事で反発せず、それを流せるだけの余裕と智慧を身に付け、穏やかな日々を過ごしていきましょう。



因果応報やな>( -ω-)人  (´・ω・` )<すべては自分に返ってくる

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