第20話 少年と港町ヨーカス
「いつまで寝て、ん、の、よっ!!」
「ぐぁっ!?」
前夜、眠れずに徘徊したせいでリオンは朝起きれずにいた。
今日は3人でヨーカスの冒険者ギルドや商人ギルド、酒場などの情報が集まりやすい場所へ聴き込みに行く予定だったのだが、いつまで経っても起きて来ないリオンに痺れを切らしたマキナがエルボードロップをお見舞いした所だった。
「いってぇ! 何すんだよ!?」
「アンタが全っ然起きて来ないからでしょ! 今何時だと思ってんのよ!」
「えっ? 何時?」
「11時……」
マキナの剣幕にリオンはドア付近にいるミリアに時間をかくにするが、ミリアも若干呆れ気味に答える
「わ、悪かったよ。あんまりやわらけぇベッドだったからよ、寝付けなくてよ……まぁ次からはもっと優しくしてくれよ」
「硬いのがいいなら床ででも寝てなさいよ! さぁ、さっさと行くわよ!」
ミリアがリオンにこの仕事へ同行しないか話をしたところにマキナがタイミングよく現れた為、一緒に行く事になったのだが、マキナは一刻も早く仕事を終わらせてバカンスを楽しみたいようだ。
マキナに尻を叩かれる形で急いで街へ繰り出したリオン達だったが、冒険者ギルドでも商人ギルドでも有力な情報は得られなかった。
3人別々に酒場や商店などへ聴き込みに回り、夕方になりカフェで落ち合う時間になった。
「こっちは全然駄目だったわ。そっちは?」
ミリアがカフェラテを手に肩を竦める。
「んにゃ、ダメだね」
リオンが短く答えると、マキナが自慢げに話し始める──
「フフン! アタシの方は収穫があったわよ! なんとあの事件の時に現場に居た人を見つけたのよ! 作業員の人だったんだけど、港湾施設をめちゃくちゃにしたのは巨大な化け物だったらしいわ。なんでも風を操るらしいわ。
それと、小柄な剣士が居たそうよ。2本の短剣を使って恐ろしい速さで動いてたって」
「犯人は1人? 化け物って言うのはモンスターとかかしら?」
「モンスターって、テイムされた奴とかなのか?」
「知らないわよ。私が見た訳じゃないんだから。それと……黒い雲から現れる海賊船を見たって話もあるのよね」
ミリアとリオンの素朴な疑問はマキナによって一蹴される。
「なんだよ。海賊船がいたんなら絶対犯人海賊じゃんか?」
「ふふ、何言ってるのよ。このヨーカスを海賊が襲う筈ないじゃない」
「なんでだよ? 海賊ってのは船襲ったり略奪したりする奴らだろ?」
「そうだけど、そうじゃないのよ。襲うのは基本的に他国の船よ。それにこの辺の海賊は禁制品の密輸が主らしいわ。あとは……あれよ、補給したりなんなりする必要があるから港は襲われないのよ……」
「あん? よくわかんねぇけど、なんで詳しいんだ?」
「フフン。アタシが博識なだけよ!」
実はマキナも聴き込みの際、酒場で出会った事情通らしき男性にリオンと同じ質問をしていたのだ。なので実はマキナも説明は聞き齧りであり詳しい事は良くわかっていなかった。
こと魔術理論や術式構築は専門家顔負けの知識を持つがそれ以外はリオンと同レベルだったりする。
「そうね、ヨーカス周辺を拠点にしている海賊も多いし、ここの領主と提携している海賊がいるから海側の防衛はその海賊が担っているのよ。陸側の防衛は領主の私兵団と冒険者、街の自治兵団で国から完全に自治を任されるぐらい優秀なのよ。貿易と経済の拠点でもあるヨーカスを狙うなんて、それこそ他所の国と戦争でもなきゃありえないわ」
ミリアがマキナの説明の補足をするが、ミリアはナチュラルに優等生な為、マキナと違って説明も板についていた。
「というか……そもそもなんだけど……2人とも仕事の内容分かってる?」
「あん? 犯人捕まえてぶっとばすんだろ?」
「違うわよ。黒い雲と共に現れる海賊船の謎とモンスターと少女を追うのよ!」
「少女? そんな話しあったか?」
「化け物と小柄な襲撃者よ。小柄。小柄って言ったらきっと少女じゃないかしら」
「適当に言ってるだけかよ。しかも追うってなんだよ? 追ってどうすんだ?」
「な、何よ? 謎を追うって言うじゃない」
「だから追ってその後どうすんだよ? 見つけてぶっ飛ばして解決だろ? やっぱり俺が合ってんじゃねーか」
「はぁ? なんでもぶっ飛ばせばいい訳じゃないわ! きっとこれは少女の悲しい……」
「待って!! 待って、2人共……」
リオンとマキナの諍いが激しくなりそうな所でミリアが待ったをかける。
そして嘆息まじりに話を続ける。
「犯人はこの際どっちでもいいのよ。見つかっても見つからなくても。これだけの被害を出したのだからヨーカス側も本気で犯人を探しているのよ。提携している海賊達や高ランクの冒険者達もね。大きな化け物と小柄な剣士ってのは初めて聞いたけど、海賊船が絡んでいるのは最初から情報があったわ。2人は話を聞いてなかったかもだけど……」
「うっ」
話を聞いてなかったと言われマキナとリオンは気まずそうに呻く。
「だからね。私達が探すのはカイン兄さんの……バートラム商会の消えた積荷だけよ」
「でも、それって……」
「そう。結果的には犯人を探す事になる訳だけど、聴き込みするのは事件の顛末じゃなくて、大量の積荷を隠せそうな場所や怪しい人物、市場に流れてないか、それと……バートラム商会に対立、もしくは害意をもつ組織や商会を探るのよ」
☆☆☆☆☆
「いよう。今日は飛び込まないのか?」
深夜、リオンが気安く声をかけるのは前夜に身投げを試み、助けた少女。
短い青髪を風に靡かせながら海辺に座って星を眺めていた。
「もう、飛び込んだ後よ……」
「ハッ、の割には元気そうだな」
「……何か用?」
振り向いた少女の瞳は潤んでいる様に見えたがリオンはそれに気付いても気にする素振りはない
「いんや、せっかく助けたのによ死んでたら寝覚めが悪いからよ」
リオンは頭をかきながら少女の横に腰を下ろすと、益体もない話を始める──
それを少女は無表情に黙って聞いていた。
水平線から朝日が昇り始めるまで──
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