第15話 少年と創造の少女

 緋色と金色が疾走する──


 鰐型モンスターを倒し、転移陣からマキナの元へ辿り着いた時には既にリオンの命の灯火は消える直前だった。


「誰か、誰か……助けてっ!!」


 マキナの悲痛な叫び、間に合ったのか、はたまた遅かったのか……2人の英雄が飛び込んで来る。


「もちろんよっ!」


 部屋に飛び込んで来た勢いそのままに緋色の線を引きゴーレムへと斬りつける。


 キィィィィンッッ!!


 甲高い金属音が鳴り響く。

 リオンを握り潰さんとするゴーレムの腕に斬りつけるが聖剣レーヴァテインでも傷がつけられない。


「うそっ!? 硬すぎるでしょ!?」


 流石のミリアでも直接レーヴァテインで斬りつけて傷一つ付けれないのは初めてであった。


「応えろ、アンサラー」


 静かに金色の髪を揺らしメルトが腰の剣を抜き放つ。

 鰐型モンスターとの戦闘の時には激しい焔を吹き上げる神剣グラムとして抜き放たれた剣は、輝く銀の剣、魔剣アンサラーとして顕現する──


 メルトの持つ"勝利の剣"は幾つかの形態へと分岐する剣だ。

 ある時は神剣グラム、ある時は魔剣アンサラー、勇者の剣アスカロン、聖剣デュランダル、踊る剣クラウ・ソラス、妖刀ムラサメ、そして、世界剣エア。


 それぞれに抜く為のルールと同じ剣は続けて抜けない、というルールがあったりするが、全ての剣が最強レベルの伝説の剣だ。


 切れ味がいい──というのはもちろんだが、魔剣アンサラーの特徴は……


 メルトはスルリと抜いた輝く銀色の剣をゴーレムに向かって投擲する。


 狙い違わずゴーレムの腕に当たるが、またも甲高い金属音が鳴り弾かれる──

 しかし、弾かれた魔剣アンサラーは地面に落ちる事なく、空中で向きを変えると自動でゴーレムへと斬りつけ始める。


 少しずつ、徐々にゴーレムに攻撃が通り始め次第に大きな傷が出来始める。

 魔剣アンサラーを嫌ったゴーレムはリオンを放すと、腕を振り回して振り払う素振りを見せる


「リオンっ!」


 ミリアが駆け寄り、リオンを安全な場所まで移動させる。


 弱々しいが呼吸音が聞こえ少しだけ安堵する。

 後はあのゴーレムを何とかしなければと向き直る。


 するとゴーレムとメルトの戦闘が目に入る──

 自動で飛び回るアンサラーを空中でキャッチして斬りつけ、放し、背後に周り膝を蹴り体勢を崩す。魔剣と息のあった連携でゴーレムの攻撃を掻い潜り確実にダメージを与えていっている。


「凄い……それでもやっぱり硬すぎるわよね」




 リオンが投げ出され、安堵したマキナは【構築】を再開する──


 出力の設定──、範囲、対象の選定──、対象が不明瞭?──くっ、人体式の展開──第1から第4プロセス稼働──error


 くそっ! 補助魔方陣【構築】!! 稼働魔力量不足!? 外部から収集、吸収!! 陣展開………………



 いくつもの幾何学模様の複雑な魔方陣が中空に展開される。

 色とりどりな光を放ち、マキナ以外にも視認出来るほどの高密度の魔力で編み上げられた魔方陣が。


 そのほぼ全てが刻一刻と少しずつだが、確実に変化している。

 ミリアからすると一体何を意味する図形なのかもわからないのだが……


「凄い……綺麗……」


 思わず見惚れてしまうほど、複数の魔方陣を同時に展開し、その全てを制御しているのはまさに神業と言っていいだろう。



「メルトっ! ゴーレムを固定してっ!」


「わかりました!」


 体勢を崩し、膝を着かせてるとはいえ、斬撃が通用し難いゴーレムをその場に縫い留めるのは一苦労処の話ではない……しかし、メルトは二つ返事で了承すると魔剣アンサラーを手に持ち構える。



「護法の十一、光芒縛鎖こうぼうばくさ!!」


 魔剣アンサラーがメルトの手から飛び立つと中空で幾本にも枝分かれした光の筋になりゴーレムへと降り注ぐ。


 ゴーレムの駆動関節部を抑えるように光の鎖が絡め取りゴーレムの動きを封じる



「ありがとっ!! その神鋼頂くわっ!! 抽出魔方陣展開、稼働!」


 地面に縫いつけられ踠くゴーレムを上下から挟み込むように巨大な魔方陣が展開される。

 それと同時にリオンの上にも魔方陣が現れる。


 徐々に上下の魔方陣が差を縮め、最終的に一つに重なると、一度激しい光を放ち消えていく。


 リオンの上に留まっていた魔方陣がリオンを通過し、地面迄移動するとリオンの体内の骨という骨が神鋼と骨の化合物に作り変えられていく。


 ──絶対にっ、こんな所で死なせないっ!! 一緒に無能じゃないって見せつけてやるのよっ! アナタが英雄じゃないっていうならアタシが作り変えてあげる! もう2度と"折れない"ように!! もう2度とその夢が地に堕ちないようにっ!! アタシは英雄の創造主よ!!


 マキナは脳が焼かれる程の過負荷の中、涙と鼻血を出しながらも更に集中力を増し、リオンの身体を造り変えていく。




 そして、体表を覆う鎧の素材として使われていた神鋼を失ったゴーレムはその体の色が艶のある黒から、ただの石像の灰色へと変わっていく

 そこに──



「いくよ、レーヴァテイン。"滅ぼすぞヴィゾーヴニール、世界樹の光を持って! 明滅する世界、解き放て!" レーヴァテインッ!!」


 聖剣レーヴァテインの封印解除の詠唱が響き、光の奔流がゴーレムを飲み込んでいく。



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