第11話 少年と3人の有名人


「よっしゃぁぁぁああああッ!!!」


 朝方の冒険者ギルドに喜びの雄叫びがこだまする。

 叫んだのは白髪の目つきの悪い少年、リオンだ。


「これで銀級だっ! こんな簡単に上がるなんて今までは一体何だったんだ……」


 迷宮都市メルキドに来てからのおよそ一年、ずっと鉄級で薬草摘みばかりしていたリオンがここにきてあっという間に銀級だ。

 リオンがしみじみと喜びを噛み締めていると……


「もうっ、試験が免除になったのは私のおかげなんだからね」


「はいはい、ありがとうございます、ミリア様!!」


「まったく、適当なんだからっ」


 今まで鉄級だったリオンが急にハイオークどころかミノタウロスの魔核まで持ってきたら、ギルド側も流石に疑いの目を向けたが、緋金級のミリアが実力を保証すると言った為、銀級昇格の為の実力確認試験は免除された形だ。


「でもよ、試験て何すんだ?」


「ギルドの試験官と模擬戦よ。このギルドでは大体マグドネルさんかミルザさんね。金級と聖銀級の冒険者よ」


「へー、なんなら一回戦ってみたかったなぁ、俺がどれだけ出来るのか試してみたい」


「ふっ〜、やめといた方がいいわ」


 2人はギルドに併設されているカフェで休憩している。

 コーヒーを飲みながらミリアは、短く嘆息し、説明を続ける。


「リオンの能力……説明が難しいのよ。ここでリオンが強いのがギルドに知られたらどうなると思う?」


「んんー? モテる? それっていい事なんじゃ!? 早く俺の強さ見せつけないとっ!」


「はぁ〜。アナタの【魔狼の王】は本来魔人のガルヴァリオのものよ。【共有】してから相手を殺せば能力を奪える……こんな奴いたらどう思う?」


 喜んでいるリオンに分かるように、今度はハッキリと大きくため息を吐いたミリアがリオンのユニークタレント【共有】の危うさを説くと


「そりゃあ……やべー奴だな……マジだ、確かにそんな奴いたら有用なスキル持ちは殺されるんじゃ無いかってみんなビビるぞ!?」


「そうよ。それも既に【魔狼の王】なんていう一級のユニークタレントを奪い取ってるんだから……」


「やべー! じゃあ俺ってば側からみたらめっちゃ危険人物って事!? やべー!」


「落ち着きなさい。まだリオンの能力は私以外には知られてないでしょ? だからちゃんと能力の事は隠して。私の弟子になったまだまだ無能の男の子って事にしなさい」


「なーっ!? 弟子ってなんだ!? それに、やっぱり俺は周りから無能って思われたままなのかよっ!?」


「まぁ、これからはギルドに知られてもいいような一般的なスキルもモンスターから奪っていけばいいわ」



 リオンとミリアが話しをしているとギルドの受け付けの方が若干騒がしくなる


「なんで誰も引き受けてくれないの!?」


「落ち着いて下さい。マキナさん、失踪されたご友人の捜索ですが、既に銀級冒険者パーティ"ストレイキャッツ"が依頼を完了されてます」


「違うわよっ! 遺品の一つも見つけられないで死亡って言われても納得出来ないわっ! だからアタシも連れて行ってって言ってるのよ!」


「すいません、僕からもお願いします。彼女はマキナさんの大事な友人だったのです」


 長い黒髪で学生らしき服をきた少女がギルドの受け付け嬢に激しく詰め寄る。

 同じく学生らしき隣の金髪の少年も受け付け嬢に頭を下げて頼んでいる。


「いえ、再度の捜索願いなら承りますが、一般の方を護衛しながらになりますとなかなか受けてくれるパーティが見つからないのです」


「それなら、僕もマキナさんも学院の生徒です。冒険者の登録はまだしていませんが、自衛するだけの力はあります」


「いえ……そうは言っても……18層に咲く仙鏡花を取りに行ったという情報だけでは捜索範囲が広すぎますから……」


「──ッ!! もういいっ!!」


「マキナさんっ!」


 黒髪の少女が受け付けの机を強く叩くと出入り口へ向かってツカツカと行ってしまう。

 金髪の少年が受け付けに頭を下げると、少女を追って行った。


「なんだありゃ?」


「あの子……見た事あるわ。同じ学院の子よ。それにあの金髪の子……」


「なんだ、知り合いか? ってかミリアって学院に通ってたのかよ?」


「あまり出席してないけれどね。緋金級って事で大抵の事は免除されてるのよ」


 リオンが騒いでいた少女達を見ていると、どうやらミリアは見知った少女達だったようだ。


「少し……気になるわね。話を聞いてきていいかしら?」


「オッケー」


 ミリアはリオンに確認をとっているが既に席を立っている。

 リオンも興味無さげながらもミリアの行動に異を唱える気は無いようだ。




☆★☆★☆



「ちょっといいかしら」


 ミリアが黒髪の少女と金髪の少年に話しかける。

 黒髪の少女が大きな瞳を開いて訝しげにミリアと少し後ろを歩くリオンを見やる。


「なんでしょうか?」


 返事をしたのは金髪の少年だった。よく見るととても整った顔をしており、金眼もあいまりどこぞの王子様然とした佇まいだ。


「ギルドでの話しが聞こえたんだけれど、貴女達学院の生徒よね? 良かったら話しを聞くわ」


「緋色の髪……緋色のミリアっ!?」


「!? 貴女が学院に1人だけ居るって言う有名な緋金級冒険者ですか?」


 黒髪の少女がミリアが緋金級冒険者のミリアだと気づいたらしく、大きな瞳を更に見開いている。


「ははっ、有名かどうかはわからないけど……ミリアよ。よろしくね」


 少し苦笑いしながらミリアは自己紹介を済ませる。


「失礼しました。僕はメルト。メルト・ブレイクです。こちらの彼女は……」


「マキナよ。マキナ・E・テセウス。高名な緋金級冒険者様はご存知ないかしら」


「あっ、名前は……聞いたことあるわ。その……2人とも」


 ミリアの通う王立学院、メルキドの迷宮を攻略する為に若い内から冒険者としての英才教育を受けさせる為に王国が建てた教育機関。

 その中にあって、この3人はある意味で有名人だった──



 1人はユニークタレント【剣聖】を持ち若干16歳で緋金級冒険者にまで登り詰めた英傑の少女。ミリア・バートラム


 1人は勇者を生み出した名家ブレイク家の嫡男。神童と呼ばれた少年。メルト・ブレイク


 そして、もう1人。魔術師の大家、テセウス家に在りながら、天才の呼び声を欲しいままにした少女。その双子の片割れ──魔術の才を一切持たず。一つの魔法も扱えない凡愚。搾りかす、出涸らし、無能、出来損ない、残骸、役立たず……彼女に囁かれる不名誉な二つ名は枚挙にいとまがない。

 その中で彼女を表すにピッタリな二つ名を選ぶとしたら"期待外れ"これだろう。


 天才と呼ばれた姉はユニークタレント【大魔導】を持ち、マキナもユニークタレント【構築】を持って生まれた。


 双子の2人共がユニークタレントを所持して生まれる事は前代未聞であり、魔術の大家であるテセウス家も大いに沸いた。


 しかし、育ってみると姉の【大魔導】はわかりやすく魔術の才を凝縮したようなタレントだったのだが……

マキナの【構築】は使い方が一切不明。更にマキナ本人は魔力はあるが魔法が一切使えなかった。

 周囲の大人達は期待していた分あからさまに落胆した。

 それからは腫れ物に触るように、なんの期待もされずに育てられて来た。


 少しでも魔法を使える様にと自ら志願して学院へ入学したはいいものの、未だに魔法は使えず。学院の生徒達からは遠巻きに嘲笑される的になっていた。


 それが3人目の学院の有名人。

 黒髪の少女、マキナ・E・テセウスだった。



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