第4話 少年と少女の願い


 迷宮都市メルキドには日々、迷宮に潜っては怪我をしてくる冒険者が後を絶たないため、迷宮周辺には治療院や入院まで出来る施設が林立している


 多くある治療院の中でも、控えめに言って古めかしい治療院の一室


 赤髪の少女はベッドから上半身を起こして窓の外を眺めていると──


 コンコン


 古めかしい外観にくらべ清潔にしてある病室のドアをノックする音が聞こえる


「どう……」


 ガラガラガラッ


 ミリアがどうぞと言い終わる前にドアが大きく開けられる。多少建て付けが悪いのか、滑りが悪く大きな音がする


「おっ? 起きてたのか? 体調は?」


「ふぅ……アナタねぇ、ちゃんと許可を得てから入って来なさいよ。着替えとかしてたらどうするのよ!」


 入ってきていきなり悪びれなく声をかけるのは白髪の少年ーーリオンだ。

 ミリアが無作法なリオンにこめかみを押さえて注意する──


「ははっ、悪い。起きてると思わなくてさ。それじゃあ、もう一度入る所からやり直すから、着替え始めといて」


「なんでよ!?」


 もう一度入り直すため、出て行こうとするリオンにミリアがツッコむ


「ふざけてないで、こっちきて座りなさい。アンタに話しがあるのよ──」


「あぁ、俺も……話しがある。……椅子とか無いけど何処に座ればいい?」


 リオンは病室を見渡してみたがミリアが寝ているベッドの他には備え付けの棚と質素な化粧台くらいしか見当たらなかった


「……床?」



 立っていたらいいものを、リオンは律儀に床に座り込む。

 

「アンタが助けてくれた……のよね?」


「ん、まぁ、一応そうなるかな」


「どうやって? アイツ化け物みたいな魔力量をしてたのよ? どうやって倒したの!?」


 ミリアは真剣な表情で疑問をぶつける。

 【剣聖】を持つ自分でも敵わなかったのだ、この何もスキルを持たない少年があの魔人に敵うはずがない──と


「実はさ……その事なんだけどよぉ……」


 リオンは言いづらそうな申し訳なさそうな顔で自分のユニークタレントの事、ガルヴァリオとの戦いの事、その戦いで【剣聖】を共有してレーヴァテインで撃破した事を伝えた


「そんな……」


「ごめんっ!! 勝手に自分のスキル使われたりして気持ち悪いよな? でも、あん時は仕方なく……」


「凄いわ! 何そのタレント!? めちゃくちゃ凄い能力じゃないっ!!」


「えっ?」


 話を聞いて唖然とするミリアを勝手にスキルを使われてショックを受けていると思ったリオンは両手を合わせて頭を下げるが──


 ミリアは興奮した様にリオンの【共有】を褒め称える、そして真面目な声色で──


「あのね……私はね、目標って言うか、目的って言うか……とにかく、やらなきゃいけない事があってね。その……出来れば、手伝ってもらえないかなって……」


「やらなきゃいけない事? 夢とは違うのか?」


「夢なんて……そんな大層なモノじゃないの。私がやらなきゃいけない事は……ただの復讐だから」


 俯いてシーツを強く握り締めるミリアの横顔は今にも泣き出しそうに見える


「エンダル」


「エンダル?」


 復讐なんて単語を聞いて、何も言葉を返せないリオン。するとミリアから聞きなれない単語が出てくる


「魔族の名前よ。──そいつに、父が殺されたの──」


「その……復讐? でも復讐ってなら1人でやった方がいいんじゃないのか?」


「もちろん。エンダルは私が倒すわ! アナタには別でやって欲しい事があるのよ……」


「いいぜ!」


「まだ、何をして欲しいか言ってないわ」


「何でもいい。どんな願いだって手伝ってやるさ。……だからミリアも俺を手伝ってくれないか?」


 どんな願いだって手伝うと、そう嘯くリオンに一瞬ドキリとしたが、それが交換条件の為だと判るとミリアは静かに自嘲する


「……何を手伝えばいいのかしら?」


「俺には夢があってさ、千年迷宮を踏破する事!! その為には俺のタレントを1番有効に使える仲間が必要なんだよね……つまりさ、俺と一緒に千年迷宮をクリアしようっ!!」


 リオンは漸く自分のユニークタレント【共有】が有効に使える能力を持ち、更に【共有】を凄いと言ってくれたミリアに出会えた事で千年迷宮の攻略に現実味が出てきたと興奮している。


「ふふっ、いいわ。エンダルの情報が入ったら其方を優先させてもらうけど、それ以外なら迷宮の攻略を手伝うわ」


「おっしゃーー!! やっと底辺冒険者の卒業だぜっ!!」


 ミリアの返事を聞いてリオンは思わず立ち上がって喜びを表現する


「ただ……あの迷宮は何層まであるのかまだまだわからないのよ。踏破できる保証はしないわ」


 ミリアの言う事は尤もで、現在の迷宮の最大進度は第41層である。

 第50層で終わりかもしれないし、第1000層まであるかも知れない。

 誰も底に着いた者が居ないから踏破できる保証は誰にも出来ない。ミリアは「それに」と付け加えながらベッドから降りる


「リオンの冒険者ランクを早く上げないと転移陣が使えなくて効率が悪いわ。さっそく……」


 そこまで言ったところでミリアはリオンが顔を両手で覆っているのが見える、指の間から眼はしっかりと見えていたが……


「一体、何を見て……きゃあっ!?」


 ミリアがリオンの視線の先を見ると……


 布団から出た下半身は純白の下着以外何も着けていなかった──


「でっ、出てって〜!!」


 顔を真っ赤に染めてミリアは叫んだ──


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