1-3 儀式の前準備
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。しかし目の前の現実は変わらない。両腕でバツを作ったリーラが、早く呪いを解こうとはやる義弟を制止する。
「
「なんで?」
「
「わ、わかった」
「今日は
「ああ、あそこ」
アリウスは、なだらかな坂道を下った先にある小さな御堂の姿を思い浮かべた。歴史あるこの街でも、特に古い時代に起源をもつ地区の中心だ。
あまりにも古い土地なので、その御堂以外に往時を
(あの独特な雰囲気の中でなら、
心の内で自分なりに考察していると、リーラが力の籠った口調で言った。
「それじゃ、行こう」
「え?」
「ん?」
「来てくれるの? 寝てる途中で起こしちゃったの俺なんだし、もう一度ベッドに戻ってくれても……」
睡眠の邪魔をした手前、アリウスもそこまでしてもらうのには気が引けた。しかし義弟の保護者を自任する彼女は、真剣な表情で告げる。
「かわいい弟の一大事。のんきに二度寝してる場合じゃない」
「リーラ姉……! あ、ありがと」
思わずじんときて礼を言う。だがその時すでに、彼女はくるりと背を向けていた。
「すぐに支度するから、ちょっと待って」
「分かった……って、待って待って」
「?」
寝間着代わりのシャツを脱ぎながら部屋をうろつき始めた美女を、少年は必死の思いで止めにかかった。
「着替えるの待って! 一緒に来てくれるのは嬉しいけど、その……」
「この格好のままがいい、と?」
「そうじゃなくて――ああ! 俺、外で待ってるからっ!」
アリウスは半裸になったリーラの姿を極力視界に入れないようにしながら、大慌てで部屋を後にした。そして玄関を出ると、足から崩れ落ちるようにしてアパートの通路に座り込む。入れ替わるように、水路の欄干上で身を丸めていた子猫が上体を起こした。
「ニャ!?」
「あ、ごめん」
驚かせてしまったことを謝りながら、アリウスは玄関のドアに背を預けた。ここのところ途切れることなく続く
「なんか……どっと疲れた」
「ニャー」
少年の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます