26 美少年、拾いました

 梅雨が明けた。

 レンくんがいなくなっても、わたしの日常は大して変わらなかったし、喪失感もあまりなかった。

 わたしは相変わらず、休み時間には一人で本を読んでいる。

 変わったのは、友達が増えたこと。

 莉央と朝陽くんは、自分のグループの人たちと絡んでいる時間が多いけれど、それでも一日どこかで必ずわたしと会話をしてくれる。

 村上さんと佐藤さんとも、莉央を挟んで話してみた。何を話していいかわからないわたしに、佐藤さんがほんわかと話題を振ってくれた。

「趣味ってほどじゃないけど、わたしも本読むよ〜」

 そう言う佐藤さんと、好きな作家さんが一緒だった。好きな作家がいるって、十分趣味だよ。

 あっという間に意気投合して、盛り上がるわたしたち。

「え、ウチもその本読んでみたい! 今度貸して!」

「いいよ〜」

 莉央が佐藤さんにお願いする。三人だけの共通点ができた途端に、村上さんに肩をつかまれた。

「あたしにも、貸してよ……!」

 グループに入ったわけではないけれど、授業で班を作るとき、彼女たちの輪に入れてもらえるようになって、嬉しかった。

 朝陽くんと喋っていると、橋本くんと田中くんが混ざってくることも増えた。たまにだけど。

 わたしの日常は大して変わらなかった。

 変わったのは、友達が増えたことと──自分を影だと思わなくなったこと。

 世の中に、二種類の人間なんていない。

 二種類の人間がいると思い込んでいただけ。

 わたしは今日も、自信を持って、晴れた帰り道を一人で歩く。

「……あれ?」

 我が家の前に、白猫がちょこんと座っている。

 ちょうど日陰になっているから、涼んでいるのだろうか。

「にゃあん」

 目が合った途端に、あいさつされる。

 賢い猫だ。

 ……賢い猫?

 ……白猫?

 ……まさか。

「……レンくん? 何してるの?」

 見覚えのある白猫に、そんなはずないと思いつつも話しかけてみる。

 白猫は、一瞬で美少年に変化した。

 肩まである金髪。透き通った青い瞳。

 見覚えのある美少年だった。

「レンくん!? どうしてここにいるの!?」

 閑静な住宅街に、わたしの声が響いてしまう。

 レンくんは「えへへ」と頭を掻いた。

「もっと人間界で修行してこいって、女神様に戻されちゃった」

 戻されちゃった!?

 そんなことあるの!?

 確かにあのとき「合格」って言われたの、聞いたんだけどなぁ……。

「レンくんはいいの? せっかく、合格したのに……」

「ん〜? まぁ、人間界にいる理由ができたからね」

 つん、と人差し指で鼻を突かれた。

 ふふっと、笑いが込み上げてくるのを、わたしは堪えられなかった。

「しょうがないなぁ、わたしが拾ってあげる!」

 満面の笑みで、わたしはレンくんの手を取る。

「うん、よろしくお願いします」

 レンくんもとびっきりの笑顔で、わたしの手を握り返してくれた。


 そうして、わたしはまた、天使を拾うのでした。

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天使、拾いました。 よこすかなみ @45suka73

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