24 美少年と卑屈
雨はまだ降っている。
朝の会が始まるチャイムはとっくに鳴り終わったけれど、わたしは教室にはいなかった。
屋上に続く階段に立、わたしは立っていた。
ここは、レンくんが転校してきた初日に、彼が恋のキューピッドだと正体を明かしてくれた場所。
「この窓から、空に飛んだんだっけ……」
雨のため、閉められている窓に手を置く。
レンくんと空を一緒に飛んで、道路に飛び出しそうな男の子を助けた。
「あのときから、レンくんはわたしのこと「すごい」って言ってくれてたな」
レンくんは最初から気づいていたのかもしれない。
わたしが自分を認めてあげられていないだけだって。
片思いをどうにかしたところで、わたしの望みは叶わないって。
そういえば、莉央と友達になったときも、レンくんは褒めてくれた。
「……なんだ」
わたしだけだ。
自分の問題に目を逸らし続けて、ややこしくしていたのは。
レンくんが教えてくれた。
気づかせてくれた。
そんなレンくんを──好きになった。
わたしはスマホを取り出す。
ロック画面は、初期設定。
設定アプリを開いて、ロック画面を変更するため、天使と白猫の画像を探す。
──どうか。
「どうか、レンくんが来ますように……!」
わたしは設定ボタンをタップした。
ロック画面が、天使と白猫の画像に変わる。
途端に、窓の向こうが光り輝いた。
「まぶし……っ!」
光るわけがない。かなりの雨が降っていて、太陽は分厚い雲が覆っているのだから。
思わず閉じてしまった目を恐る恐る開くと──翼を広げたレンくんが、雨の中、浮いていた。
「レンくん!」
来てくれた!
レンくんに、また会えた!
わたしは窓を勢いよく開ける。雨が入ってくることなんて、レンくんに会えた興奮が勝って、まったく気にならない。
「……希……」
「レンくん、入りなよ! 風邪ひいちゃうよ!」
レンくんは、ふるふると力なく首を横に振った。
あれ……?
再会を喜んでるの、わたしだけ……?
浮かれまくっていたわたしは、ようやくレンくんの元気がないことに気づいた。
「いつもならさ……」
レンくんが口を開く。
「いつもなら、おまじないすると同時に、おまじないをした人が好きな相手もわかるんだけど、今回はわからなかった。ただおまじないをされたから来た。希は前に合格したから、テストもなし」
つらつらと。
感情も抑揚もなく、連ねられる言葉たちに、わたしは圧倒されてしまう。
雨が地面を叩く音にかき消されそうなくらい、か細い声量だった。
「ま、待ってレンくん。あのね……」
「ねぇなんでまたボクを呼んだの? また別に好きな人ができたの? 朝陽くんの告白を断ったのは、他に好きな人がいたから? だったらなんでボクに教えてくれなかったの? ボクってそんなに頼りない? 信用ない?」
だんだんと語気が強くなっていくのと比例して、レンくんの表情もどんどん悲しげなものに変わっていく。
そんな顔させたくて呼んだわけじゃない。
そんな痛々しい思いをさせたいわけじゃない。
…………レンくんがそうなっているのは、わたしのせい?
いつでも自信満々で、ひょうひょうとしていて、陰口を言ってきた相手にも面と向かって言い返せるレンくんが卑屈になってしまっているのは、わたしのせいじゃないか?
わたしだって、自分に対して否定ばかりしていた。自分なんて、と卑屈になって不安になって──でも、それをレンくんが変えてくれた。
かわいいねって。すごいねって。たくさん褒めてくれて、話し合う大切さを教えてくれて、行動する勇気も教えてくれて、どんどんわたしは変わっていった。
けれど、今は、レンくんが自分を認めてあげられなくなっている。
わたしが、レンくんを不安にさせている──中途半端な態度ばかりとっていたから。
今度は、わたしがレンくんを助ける番だ。
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