20 美少年の行く末
「ようやく、返事をする気になったの?」
わたしは呼び出した朝陽くんより、ひと足さきに中庭にいた。校舎の柱の影に隠れたレンくんが、姿を現さないまま、話しかけてくる。
今までわたしを避けていた彼だったけれど、わたしが告白の返事をすると聞いて、ついてきたのだ。
わたしの恋の行方こそ、レンくんの存在理由だから。
恋のキューピッドとして、さすがに見届けないといけないらしい。
「……うん、まあね」
「じゃあ、ボクも天界に帰れるってわけか〜」
レンくんの言葉に、胸がずきりと痛む。
やっぱり、レンくんは天界に帰りたいのかな。
わたしが「ここにずっといて」って言ったら、嫌な顔をされてしまうのかな。
「レンくん、一つ聞いていい?」
「ん? なぁに?」
「わたしが告白を断ったら、レンくんはどうするの?」
「は…………」
顔は見えないけれど、明らかに動揺しているのがわかる。
「ま、待って。希、朝陽くんの告白、断る気……?」
「……うん、そのつもり」
わたしが言うと、レンくんがどこからか出てきた。正面から、わたしの両肩をつかむ。
「な、なんでっ!? せっかく、自力で両思いになれたんだよ!?」
「なんでって……好きじゃなかったから」
「はぁ!?」
レンくんは大きな瞳をさらに大きくした。わたしの肩から手を離して、今度は自身の頭を抱えて、しゃがみ込んだ。
「じゃあ、ボクのこの気持ちはいったいどうしたらいいんだよ……! 踏ん切りがつくと思ったのに……!」
ぶつぶつと何か呟いているが、くぐもっていてはっきりとは聞き取れない。
ぐしゃぐしゃと、綺麗な金髪をかきむしるレンくんの様子は、はっきり言って異様だった。
怒ってる……? 悲しんでる……?
心配になって、声をかけようとすると、
「はぁーっ!!」
レンくんは盛大なため息を吐き出した。もはや大声。
立ち上がって、大きく深呼吸をした後、レンくんはわたしに向き直った。
髪の毛がぐしゃぐしゃでも、美少年だった。
「えっと、希が朝陽くんの告白を断ったら、ボクはどうするのか、だったよね?」
「う、うん……」
「最初に会ったときも説明したけど、ボクはまた、おまじないでボクを呼び出した人間のところへ行って、その人間の恋を叶えるよ。希が朝陽くんの告白になんて応えようが、ボクはここからいなくなる」
「……そっか」
今回は朝陽くんが告白してくれる形になったけれど、逆に、わたしが朝陽くんに告白して振られていても、レンくんはいなくなってしまうのか……。
──どうにかしてレンくんをまた呼び出す方法はないのだろうか。
わたしは思考を巡らせる。
考えろ、考えろ。
レンくんはおまじないで呼び出されたところへ行く、と言っていた。
そうだ、またわたしがおまじないをすれば、もしかしたら……!
──いや、呼び出すためには好きな人が必要だ。レンくんはその人の恋を叶えに行くんだから。
好きな人がいないわたしじゃあ、レンくんを呼び出せない。
「ボクだって、暇なわけじゃないんだよ」
冷たい言い方に傷つく。傷つく資格なんて、わたしにはないのに。
レンくんを裏切ったのは、わたしのほう。
朝陽くんを好きだと呼び出して、魔法を使ってもらって、やっぱり魔法はいらないなんて言い出して、挙げ句の果てに告白を断る。
我ながら自分勝手で、ヒドい人間。
それでも、そんな自分を自覚してもなお、レンくんにそばにいてほしいなんて。
虫が良すぎる、あまりにも。
「多田、お待たせ」
朝陽くんがやってくるより少し早く、レンくんは再び物陰に身を隠した。
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