18 美少年に避けられる
結局、眠れないまま朝を迎えた。登校する時間、インターホンが鳴ならないか、家の前に美少年が待っていないかと期待したけれど、現実には起こらなかった。
レンくんは、迎えにこなかった──どころか、学校でも話しかけてくれなくなった。
──避けられている。
その事実が、わたしの胸を強く痛めつけた。心臓が、雑巾しぼりされているみたい。
レンくんに避けられているのがわかった上で、彼に話しかける勇気は持ち合わせていなかった。
そもそも、話すって言ったって……何を?
わたしは朝陽くんと付き合うけど、レンくんが天界に帰らないような方法ない?
とか?
我ながら自分勝手すぎて、鼻で笑ってしまう。
朝陽くんへの恋心と、レンくんと離れたくない気持ち──どちらがわたしにとって大切で重要なのか、まだ判断できずにいた。
朝陽くんは、相変わらず男女問わずクラスメイトに囲まれていて、その中には、橋本くんと田中くんの姿もあった。約束通り、三人で遊びに行く計画を練っているみたいだ。
「希、どうしたの? 元気なくない?」
昼休み。莉央がわたしの席までやってきた。
莉央は本当によく気が付く女子だ。
なんで、村上さんと佐藤さんには「何も考えてない人」扱いされていたんだろう?
休み時間によく窓際に集まってヒソヒソ話をしている村上さんと佐藤さんは、今日も窓枠に腰を預けていた。こっちを見ていたようで、わたしが顔を向けると、あからさまに視線を逸らされた。
「…………?」
でも、なんだか、前みたいな嫌な感じはしない気がする……?
「あぁ、あの二人とはね、この前ちょっと話したんだ」
わたしの疑問に答えるように、莉央が説明し始めた。
「ウチの恋とか、希と泣きながら話したこととか辛かったこととか……ウチがバカなだけじゃないこととか、ね」
「えっ」
「ちゃんと話したら、二人とも、分かってくれたの」
莉央は嬉々として語った。
一番アタリがきつかった村上さんとは、一悶着あったようで「そんな弱っちいから、朝陽にも振り向いてもらえないんじゃないの?」と言われたらしい。
「すごいこと言うね、村上さん……」
「きっとさー、何かに怯えてるんだよね、あの子。強くなきゃいけないとか教えられたのかな? だから、ウチは「弱いところがあったって、ずっと友達だよ」って言ったの」
さすが。傷つけられても、相手の気持ちを慮れるのは、莉央の長所だ。
結果、村上さんとは仲直りできたらしい。
もう一人の佐藤さんは、村上さんと莉央の和解に合わせて「そうだったんだ〜」と何事もなかったかのようにうなずいていたんだとか。
「やっぱ、いい友達だわ。そりゃ傷つけられたこともあったけど、悪気があったわけじゃないんだなって、スッキリした。二人、希とも話してみたいって言ってたよ」
わたしとも話してみたい……?
村上さんと佐藤さんのほうをもう一度見ると、二人は遠慮がちに手を振ってくれた。
これって、もしかして、友達が増えたってこと……!?
いやいや、まだ話してないから!
話した後に「やっぱり合わなかった」もあり得るから!
と、浮かれすぎないよう自分に言い聞かせてはみるものの、どうしたってにやけてしまう。
嬉しい……!
入学してからずっとクラスに馴染めないまま、休み時間に読書をする女子、という立ち位置を獲得してしまっていたけれど、わたしだって、本当は友達が欲しかった。
莉央が話しかけてくれるようになって嬉しかった。でも、だからと言って、莉央がクラスの女子からハブられるのを歓迎するわけにはいかなかった。
それを莉央は自分だけの力で解決した上に、わたしが友達を作る機会まで作ってくれた。
わたしたちを腫れ物扱いする女子の筆頭が、村上さんと佐藤さんだったから、その二人のアタリが和らげば、自然とクラス全体の空気も軽くなる。
莉央は本当にすごい女の子だ。
そんな女の子が──朝陽くんを好きなんだ。
莉央に相談したら、何かつかめるかもしれない。
わたしは、どうしたらいいのか──わたしが、何をしたいのかを。
「莉央、聞きたいことがあるの……」
「うん? どうしたの?」
友達であるわたしを助けようとしてくれる純粋な莉央を、わたしは中庭に連れ出した。
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