東部前線異常なし
—また撃ち抜いた
—これで何人だ?
—いやもう数えてないわ
—芋砂キッモ
—いやこの距離当てられるの素直に脱帽だわ
—このゲームの砂は難しいすぎるのよ
・
・
・
目の端の方にコメントが流れるのを流し見しながら体に染みついた動きでボルトを引いて弾を込める。
「次、1時方向。距離400。数3。」
「了解」
いつもペアを組んでいるメンバーから次の目標の指示がくる。
「進捗どんな感じ?」
スコープを覗きながら相方にそう聞く
「8割終わったくらいですね。やっぱりNPC相手では楽勝ですね」
「死ぬ時は死ぬがな」
引き金を引きながら応答する。
——まあいつものに比べたら気が楽だがな
命中を確認しながらまたボルトを引いて弾を込める。
今回のは東大陸ではよくあるNPCの敵エネミーとの攻防戦である。
施設開放の為に敵エネミーの基地に攻めて制圧・獲得し拠点にするか、獲得した拠点に定期的に敵エネミー又は他プレイヤーが攻めて来るのを防衛・撃退をするのが主である。
今行われているには敵エネミーからの拠点防衛であり、ガチガチに固めてある為そうそう落ちる事はない。
それに今この攻防戦に参加してるパーティを思い浮かべると余程のことがない限りあり得ないとすら思う。
『こちら鯖ガンマニア。もう少しでこっちは終わりそうだ。一番遅い所は何処だ?』
無線から報告が入って来た。
『こちらジャガーノート。こっちももう終わる。そう言えば今日特攻バカの所がメンバー少ないって言ってたな。そっちじゃないか?』
『誰が特攻バカだゴラァ!今日人数少ないから慎重に行けよって言ったのに聞かずに逝きやがった彼奴らが悪りぃ!俺のせいじゃねぇ!』
今無線から聞こえるのは同盟を組んで一緒に拠点を運営をしているギルドのマスター達の声である。
今この拠点には4つのギルドと同盟を組んでいる。
しかも東大陸では上位の位置にいるギルドだったりするためNPC相手では遅れをとる事は無かったりする。
「こちらサジタリウス。こっちは終わったから後よろしく。」
最後の敵エネミーを倒し相方に他のメンバーの進捗を聞き無線にそう報告する。
『おい芋砂野郎!終わったなら手伝いに来いや!』
「協定で各方面それぞれのギルドが担当するって決めてたろ」
『仕方ないんじゃないか?特攻するしか脳がないんだから、そんなの覚えてねぇぜきっと。こっちも終わったぜ。』
『こっちも終わった。ジャガーノートは手伝いに行っても良いぞ?貸し1だがな』
——どうやら他の二つのギルドも終わったみたいだな。
ギルド【鯖ガンマニア】は山岳・森林・砂漠などでのサバイバル戦闘が得意である。
と言うのもサバイバル好きで銃好きが集まって出来たギルドであるからだが。
その為自然環境での戦闘がとても厄介なギルドである。突然の奇襲。自然に同化されたトラップ。簡易的な拠点の設営。野営も得意と言う事で自然環境のフィールドでは実に厄介なギルドだったりする。
逆に【ジャガーノート】は市街地戦が得意なギルドで、堅実に確実に一つ一つポイントを潰していき動きに無駄が無い。それとギルドマスターがこのゲーム全体で上位12人に位置する通称ゾディアックと呼ばれるメンバーの一人であったりする。
ありとあらゆる銃を使いこなし、近接戦闘も得意。ジェミナイを冠する二つ名「ガンマスター」と呼ばれている。
【特攻野郎Gチーム】は名前の通り特攻が十八番のギルドであり、初動の特攻で潰されなきゃ制圧しきる破壊力を要しているが、何でもかんでも特攻する為防衛側には向かない。
そしてうちは【サジタリウス】というスナイパーを主として使っているギルドである。
ゾディアックにサジタリウスはあるがそれとは関係は無い。
だがスナイパーギルドとしては最上位に位置しており、他のギルドに比べても遜色がない程ではある。
『もういい!お前らには頼らん!残りの奴らで蹴散らしてやるわ!』
そう言って無線から反応が無くなった。
—誰も助けなくて草
—草
—これは残りのメンバーで特攻して来ますね
—まあ助けに行くとしても今からだと時間掛かるしな
—それでもいつもどうにかして来た特攻野郎だから今回もいけるやろ。多分
少しした後防衛成功のメッセージが出て来た。
なんとか少ない人数でやり切ったみたいだ。
「それじゃうちは先に抜けるから」
『おう、乙』
『お疲れ様』
「お疲れ様、今度はランク戦で」
他のギルマス達に挨拶をして無線を切る。
「それじゃ防衛戦も終わったから配信も終わるわ。次は多分ランク戦の時に配信するからよろしく」
—乙
—次も楽しみにしてるわ
—見てるだけで楽しかったわ
—お疲れ様
—お疲れ様でした
—おつおつ
最後に挨拶をして配信を切る。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様。とりあえずギルドホームに戻るか」
銃をインベントリに仕舞って歩き出す。
「この後どうしましょうね」
「どうすっかなぁ。今は特にやる事ないんだよな」
何かあったかなと考えてるとメッセージが届いた。
フレンドからのメッセージでは無かったが珍しい所からだった。
—どうも〜浪漫機構の者っす!—
—突然ですが我らが所長がとある試作品が出来たそうで、それのテスターとしてスナイパーギルドのマスターであるアサギリさんに是非試して欲しいというお誘いっす。
もし受けてくれるなら都合の良い日と時間を送ってくださいっす。
それと出来れば他言無用でお願いします...怒られるっす......
ではでは色良い返事を待ってまーっす!—
「アサギリさんどうかしましたか?」
急に立ち止まってしまってたから不思議に思った相方のミワが声をかけてきた。
「この後って何もなかったよな?」
「他のメンバーに聞いてみないとわからないですが、特に無かったはずですよ。誰かからのお誘いですか?」
『私と言う者がいながら?』と言いたげな口調で聞いてくる。
「ちょっと待ってくれ」とミワに一言断りを入れてからメッセージを打つ。
—アサギリ—
—俺にテスターを頼むと言う事はスナイパーの試射という事で良いんだよな?
それなら受けても良いが一つだけ条件付けさせてくれ。
うちの観測手でもある副ギルドマスターも同行させて貰いたい。
それでも良いなら今からでも大丈夫だ。—
とメッセージを送り歩き出す。
「で、誰からのお誘いだったんですか?女性からですか?」
不機嫌な声でミワがまた聞いてくる。
「先方から他言無用というからまだ言えない。とりあえず女性からとかじゃないから機嫌直せ」
未だに頬を膨らませ“私、怒ってます“と言いたげな表情をしているが無視して歩く。
「ちなみにミワはこの後何か用事あるのか?」
「私も特に何もありませんよ。強いて言うならアサギリさんといつでもデート出来るように空けてます」
「あっそ.....」
その後もくだらない会話をしてるとギルドに着いた。
「あ、遅いじゃないですかアサギリさん!ミワさんと何処で油売ってたんですか?」
「うるせぇぞトーワ。それと何処にも行ってねぇ」
「お散歩デートして来ました。何処にも寄り道してくれませんでしたが......」
またミワが余計な事を言い出す。
「かぁ〜、俺ならしっかりエスコートしてあげるのに。と言う事でこれから俺とデートしませんか?」
キメ顔で言うトーワ
「アサギリさんとチェンジで」
キッパリと断るミワだった。
その言葉に机に突っ伏すトーワ。
人となりが分からなければ普通にイケメンなトーワなのだが、好みの女性を見かければすぐにナンパや口説いたりと軽薄だったりする。それを知ってる人はトーワからのお誘いや口説きには基本スルーするか相手にしなかったりする。
「他のメンバーはどうしたんだ?」
ギルドに帰って来ていつもよりやけに静かだなと思いトーワに聞く
「今日他にやる事無かったはずだからってそれぞれ好きな所に行きましたよ。ちなみに俺はアサギリさんとバトロワに行こうとお誘いする為残ってただけです。」
顔を上げてけろっとした顔で答えるトーワ。
ミワに振られるはいつもの事だからそこまでダメージは無い。
「すまんがこの後用事出来るかも知れないから無理だ」
「そんな!アサギリさん誘えればミワさんも一緒に来てくれると言う完璧な計画が.....」
トーワの言葉に白い目を向けるミワ。
そこまで嫌なのかと思っているとメッセージが来た。
—浪漫機構—
—所長に確認した所、観測手の同行者なら大丈夫そうっす。
但しその他のメンバーやフレンドには秘密でお願いしたいそうっす。
それとアサギリさんにお願いしたいのはスナイパーの様な物?ですかね。
分類的にはスナイパーライフルなんですが、うちの所長の作品なので他のスナイパーとは違う所があるっす。後は見るまでお楽しみということで。
この後南大陸にあるうちのギルドまで来てくださいっす。
ではでは待ってまーっす!—
メッセージを読んでこの後の予定が決まった。
「じゃあミワさんだけでも一緒にどうですか!」
まだ諦めていなかったトーワがミワに聞く。
「ミワはこれから俺と一緒の用事だから無理だ」
俺の言葉にミワはパァと明るい表情になりニコニコしだす。
「用事ってミワさんとデートなんすか!?アサギリさんだけズルい!何処に行くんですか!?」
「デートでは無いし、お前には教えん。他のメンバーには俺とミワは用事で今いないと言っといてくれ」
そう言って戻ってきたばっかりだがギルドから出る。
「アサギリさん何処にデート連れて行ってくれるんですか?」
一緒に出て来たミワが隣に並んで聞いてくる。
「デートじゃ無いって言ってるだろ...詳細は向こうに着いてからだ」
「向こうって他大陸に行くんですか?」
「ああ、行き先は南大陸だ」
そう言って大陸間ワープポイントがある所に二人並んで歩いて向かうのであった。
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