とあるギルドの日常
「んふふ〜美味しい♪」
綺麗な庭園が一望できる東屋で一人美味しそうにケーキを食べてる彼女は顔をおころばせながらもう一口食べていた。
黄金色の狐の見た目をした彼女の耳と尻尾が忙しなく動いてる。彼女の種族は〈狐獣人〉である。
——おにぃのケーキはやっぱり美味しいなぁ
コーヒーを一口飲んでケーキの甘さとコーヒーの苦味と酸味を楽しんでもう一口ケーキを食べようとフォークをのばす。
彼女は兄の影響でコーヒーが好きになり紅茶よりもコーヒー派である。
他のギルメンはもっぱら紅茶派なのだが、ちょくちょくコーヒーを勧めて鞍替えさせようと画策しているのは秘密である。
今彼女は一人でティータイムをしてるが、他のメンバーはクエストや採取などに行ってる訳ではなく、とある喫茶店で新作が出ると言う事で全員行っているのである。
全員である。
プレイヤー間、特に女性プレイヤーの間で人気を博しており生産と供給が追いつかなく一人につき2個までと個数制限が設けられたためである。
彼女のギルドはみんな女性プレイヤーだけで構成されているためみんな出払っている。
「次何食べよっかなぁ♪」
そんな中彼女だけはもう一個ケーキを食べようとしていた。
「奏センパーイ!戻ってきました〜ってズルい!なにもう食べてるんですか!?」
「ただいまです。奏先輩」
もう一個ケーキを取り出して食べようとしたら声が掛かった。
「おかえり〜ひーちゃん、ちーちゃん。他のメンバーは?」
「奏先輩コーヒーしか用意して無いだろうからって宙先輩とノインさんは紅茶の用意しに行きました」
「ミアセンパイとモチちゃんとルカちゃんは『今日はケーキパーティ!』って他にケーキ買いに行きました!」
この二人は奏の後輩で双子の姉妹。
小柄な体にショートヘアの金髪で瞳は碧く背中には翅がキラキラ光ってるのが姉の陽奈ちゃんで種族は〈ティンカーベル〉で。逆に妹の千紗ちゃんはスラッと高すぎず低すぎない程の背に黒髪のボブで褐色の肌と耳が長いのが特徴の〈ダークエルフ〉である。
「そんなことよりなんで先に一人で食べてるんですか!」
「ひーちゃんは目の前に美味しいケーキがあるのに我慢できるのかい?」
悪怯れる様子もなく、寧ろ胸を張って言い張る奏。
「っで、出来ますよ!?ちゃんとセンパイたちを待てますよ!」
「陽奈は絶対食べてる」
「私も陽奈ちゃんは我慢できないで食べてる気がするな」
「ひーちゃんは先に全部食べ切ってる気がするかな」
千紗ちゃんの言葉に同意する新たな声が二つ、ティーポットとマグカップを持って東屋にやってきた。
「宙センパイにノインセンパイまで!?信用がないんですか、私!?」
「あははは....」
「ひーちゃんは食いしん坊だからね」
「今までの行いだよ、陽奈」
ガックリと項垂れる陽奈ちゃん、苦笑いの宙さんに、ノインは楽しそうに言い、追い討ちをかける千紗ちゃん。
「宙さんにノインもおかえり〜♪紅茶の準備早かったね」
「ただいま、奏ちゃん。もう慣れたからね。」
「ただいま、奏」
平均的な身長にオレンジブラウンの腰まで届くロングをストレートに、眼鏡を掛けてTHE清楚な雰囲気の〈ヒューマン〉宙さんが笑顔で答え
高身長にシルバーに毛先が青味がかってるウルフカットに狼の耳と尻尾とモデル体型で格好良い〈狼獣人〉のノインも微笑んで言う
「紅茶準備出来たなら先に食べてよ♪」
「奏先輩はもう食べていますけどね」
「さっきミアちゃんから『ケーキいっぱい買えたから今帰る』ってメッセージ来てたよ」
「どれだけ買って来るのか想像できないね」
「ゲームの中だからどれだけ食べても問題無いですよ!」
奏の言葉に呆れながら答える千紗ちゃんだけどインベントリからケーキを取り出して準備をし始めている。
他の面々もケーキを準備して食べる気満々である。
「今回の新作はモンブランだから楽しみだよ」
「ノインはモンブラン好きだもんね」
「そういえばなんで奏センパイはマロンの新作が今日からって知ってたんですか?」
「お店も準備中だったのに入れましたしね」
宙とノインはいつも事だったが、陽奈ちゃんと千紗ちゃんにとっては今回の事は初めての事だったから疑問に思っていた。
「そういえばひーちゃんとちーちゃんは初めてだったね。奏のお兄さんが喫茶マロンのオーナーで何か新しいのが出る時は奏に教えてるんだよ」
奏が既に2個目のケーキを半分まで食べ終わってコーヒーを飲んでるなかノインが答える。
「だから毎日奏先輩はケーキ食べてるんですね」
「奏センパイズルい!」
千紗ちゃんがジト目で奏を見つめ、陽奈ちゃんはズルいズルいと奏に連呼している。
「妹特権だもーん♪」
奏がもう一口食べながらそう答える。
「まあお兄さんも奏ちゃんに喜んで欲しくてって言ってたし、お店も趣味と息抜きにやってるからね」
「二人ともこの事はうち以外の人には内緒だからね?喋らないように。もし喋ったりしたら酷いことになるから」
宙とノインがそう言ってケーキを食べ始め、陽奈ちゃんと千紗ちゃんも席に座ってケーキを取り出した。
「「「「美味しい!!!」」」」
4人の声がハモる。
「すっごく甘いのに芋独特のほっこり感も残ってて拗すぎないから次々と食べれますよ!」
「優しい味ですね」
陽奈ちゃんは満面の笑みでそう言い、千紗ちゃんも瞳をキラキラさせながらもう一口食べる。
「これはミルクティーが合うかもね」
「やっぱりマロンのモンブランは美味しいね」
宙は自分の紅茶にミルクを注ぎながらそう言い、ノインは一口ずつゆっくり味わいながら食べる。
「おにぃはケーキの中でモンブランとチーズケーキがお気に入りだから、特に拘ってるね♪」
奏は3個目のケーキを食べ始めながらそう言う。
「チーズケーキですか?喫茶マロンに置いてましたっけ?」
「お店には置いて無いね。特別な時か、祝い事がある時に作ってくれるんだよ。まあそれも奏が居るからだけどね」
「今年は陽奈ちゃんも千紗ちゃんも1周年と誕生日あるから食べれるかもね」
「おにぃにお願いしとくよ♪」
奏がそう言いUIを操作する。
「そういえばひーちゃんとちーちゃん、育成結構進んだよね。そろそろ他のメンバーと組んでコラボ配信始める?」
「二人ともそれぞれのプレイスタイル大体決まってきたから良いかもね」
「私奏センパイと組みたいです!」
「私はノインさんと組んでみたいです」
実はこのギルドはバーチャルライバーとして配信活動しているグループのメンバーで構成されていて、このメンバーだけでも配信チャンネルの登録者数が800万を超えている大人気グループだったりする。
「じゃあその四人でパーティ組むとして、何しようか?」
「私とノインが居れば何処でも大抵どうにかなるよ♪」
ケーキを食べながら配信の企画をどうするか話始める。
「装備の素材を採取しに行くか、新しいスキルとステータス用にダンジョンに行くかだね。二人はどうしたい?」
「ダンジョンに行きたいです!」
「私もダンジョンが良いです」
このゲームではフィールドのモンスターや鉱脈から取れるレアアイテムは多く取れるが、出現数やリポップがそこまで多く無いのでSP(ステータスポイント)を貯めるには向いて無い。逆にダンジョンではSPの獲得数が多く獲得できるが、ドロップアイテムは少ない。
だから素材採取にはフィールドを巡り、スキルやステータスをあげる時はダンジョン巡りをするのが主流である。
「今回の主役は二人で、私と奏は基本サポートに徹しようか」
「それなら魔郎ダンジョンか森林ダンジョンが良いかもね♪」
そう話し合ってる時に奏の所にメッセージが来た。
差出人は兄でさっきのメッセージの返答かなと思い見てみたらURLとほっぺを膨らませて怒ってるスタンプが貼ってあった。
何かなとURLを開いてみると怒ってる理由がわかった。
——何回も口酸っぱく言ってるのに...わざとなのか学ばないのかもうわからないよ.......
「奏ちゃんどうかした?」
顔を顰めて立ち上がった奏に気づいてそう聞く宙。
「あの3人帰ってきたらお説教しといて...私はおにぃの所行って謝って来るから...」
そう言って奏は宙に開いたURLを宙に見せてきた。
どうしたのか、他のメンバーもそのウインドウを覗いて見ると理由がわかった。
そこにはSNSサイトが映っており、戻ってきていないメンバーの一人の投稿があった。
—この後Re LIVEメンバーでケーキパーティ!!!新作のモンブランめっちゃ楽しみ!—
と言うコメントといっぱいあるケーキが入ってるであろう箱がいっぱい映った写真があった。
そこには喫茶マロンのロゴが入ってる箱も映っていたのである。
「もしかしてお兄さんからのメッセージ?」
「うん...おにぃからこのURLと怒ってるスタンプが送られてきたよ...」
ノインがそう聞いてきて奏がしょんぼりしながら返す。
「じゃあおにぃの所に行くからよろしくね...」
「わかったよ。こっちもちゃんと言っとくから」
奏はそう言ってギルドから一人出ていった。
「今回はどうなるだろうね...」
「前回は2週間お店閉じてたよね...」
「2週間もマロンのケーキ食べれなくなったんですか!?」
ノインと宙も憂鬱な雰囲気でそう言い、びっくりする陽奈ちゃんと千紗ちゃん。
「とりあえずあの3人が帰って来たらお説教とケーキ没収かな」
「そうだね」
そのあとSNSに正座させられた3人の写真が上げられており、それを見たフォロワーは何があったんだと思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます