第108話 梶山琴美





 春木君と愛花ちゃんがウエディングベルのロープに手を掛けた時、目の前にいる界人さんが押し殺した声で笑った。


(失礼よ、界人さん)

 わたしが軽く睨むと、界人さんは右手でゴメンナサイポーズをした。

 

 春木君と愛花ちゃんはお互いに見つめ合いながら、一回目のウエディングベルを鳴らした。

 一回目の鐘は、自分たちを祝福するために鳴らすものだ。


 そして二つ目の鐘を鳴らし、愛花ちゃんは桃子さんを、春木君はご両親に目線を向けた。

 二回目の鐘は、今まで大切に育ててくれたご両親への感謝の気持ちを込めたものだ。


 最後に鳴らした三回目の鐘は、今日来てくれたゲストの方々への感謝と未来への祝福を祈るものだ。


 ウエディングベルが三度ならされると、チャペルの前に集まったゲストたちは歓声を上げた。


「おめでとう! 愛花ちゃん! 春木君!」

 わたしは精一杯の声を張り上げずにはいられなかった。

「絶対に幸せになるのよ!」


「ありがとう、琴美さん」

「今までありがとう。これからもよろしくな」

 愛花ちゃんと春木君はわたしに笑顔を向けた後、ゲストのみんなに手を振って応えた。


(そうだよ。これからもよろしくだよ)

 そう心に呟きながら、わたしは自分のお腹をさすった。

 まだ誰も気づいていないけど、わたしのお腹の中には新たなる命が宿っていた。

 妊娠二ヶ月だった。出産予定日は信一郎の誕生日の二日後。もしかしたら信一郎と同じ誕生日になるかもしれない。


 春木君と愛花ちゃんの子供も早く出来たらいいと思った。

 来年の四月一日までに生まれてくれば、信一郎と美宙ちゃんのように、同級生になるのだ。

(がんばれ、春木君、愛花ちゃん)

 わたしはちょっとエッチな想像をしながら二人を見ていると、愛花ちゃんが持っていたブーケを宙に投げた。

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