第107話 梶山界人





 とてもいい披露宴だった。

 おれ・梶山界人は、レッドカーペットを歩く大輔と園宮さん―――おっと、もとい、愛花ちゃんを目の前に見ていた。

 これからチャペルに向かってゆっくりと歩んでいた。


 良かったな大輔。

 おめでとう愛花ちゃん。

 最愛なる人を失い、その中で励まし、いつくしみ合い、悲しみも喜びも、ともに味わって来た二人だった。

 誰よりもこの二人には幸せになって欲しいと思う。


 愛花ちゃんが着ている長いウエディングドレスの後ろには、ベルボーイとベルガールが一人ずつ、ドレスのすそを握ってサポートしていた。

 言わずと知れた美宙みそらちゃんと信一郎だ。

 二人ともとても可愛い。

 美宙ちゃんは、まだ三才と言うのに、小学一年生と見間違われる身長と、誰もが認める美貌びぼうを持ち合わせている。


 信一郎だって、イケメン……いや、ややイケメンってとこか。

 まあ、男は顔じゃない。信一郎には才覚があるんだ。

 まあ、息子自慢はここまでにしておこう。


 大輔とは中学の時からの付き合いだったな。

 そう。あいつが彩香に片思いしていた時から、よくおれに相談を持ち掛けていたもんな。

 あいつは本当に生真面目なヤツだよ。

 彩香とすれ違った頃、オレは何度か、夜の店に大輔を連れて行こうと誘っていたけど、アイツは無駄遣いはしたくないと断っていたよな。

 でもそれだけじゃなかっただろ? 

 おれの家はそこそこ裕福で、大輔のように学費を稼ぐ必要もなく、バイトのお金はすべて小遣いにしていたので「おごってやるよ」と言っても断っていたじゃないか。

 おれだって浮気はしないけど、フリーの時くらい遊んでもいいと思うんだが、おまえはそうじゃなかった。

 ほんと、生真面目なやつだよ、おまえは。

 でもさ、それがおまえなんだよな。

 学業は優秀なのに、それ以外では身体能力も含めて色々と不器用で、対人スキルは低いのに、困っている人には敏感に反応する。

 そんなおまえだから、目が離せなかったんだ。

 幸せになれよ、大輔。

 そして幸せにしてやるんだぞ、愛花ちゃんのこと。


 チャペルの前に立つと大輔と愛花ちゃんがこちらを振り返った。

 そして二人は、ウエディングベルの前に立った。

 美宙ちゃんと信一郎は、一度退席となり、桃子さんと琴美にそれぞれ引き取られた。

 愛花ちゃんが大輔をうながす形で、二人はウエディングベルのロープをともに握った。

 その二人の様子を見てオレは確信した。

(大輔のヤツ、絶対に愛花ちゃんの尻に敷かれよな)

 そう思うと笑ってしまった。

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