会社の寮

20代の女性から聞いた体験談です。


以前北関東のT市で働いていたときのことです。

もともと都内で働いているのですが、一時的にT市の系列のお店で働くことになりました。

そこには会社の寮がありそこで住まわせてもらうことになりました。

寮は平凡な2DKのアパートで同じ職場のSさんと共同で住むことになりました。

Sさんも私とは別の都内の系列店で働いていて、同じように一時的にT市のお店で働くことになったそうです。


仕事終わりに部屋に案内されたので、疲れからか割り当てられた部屋に荷物を置いてすぐに眠りにつきました。

次の日に起床しスマホを見ると電波が悪いことに気づきました。

夜は動画やSNSを見たい私にとってはとても鬱陶しかったのですが、一時的に住むだけだからと自分に言い聞かせ準備をしてSさんと職場へ向かいました。

1日の仕事を終えてへとへとになりながら寮へと帰りました。

スマホをいじりながら帰っていたのですが、アパートの敷地に入り自分の部屋の前まできて気づきました。

自分の部屋の前に来ると電波がめちゃくちゃ悪くなるのです。

隣の部屋の前に戻ると電波がマックスになり、また自分の部屋の前にいくとめちゃくちゃ悪くなってしまいます。

運悪すぎ、最悪。

イライラしましたが仕方ないので部屋へと戻り買ってきた夕食を食べたりお風呂を済ませベッドに入りました。

いつもと違う職場での仕事に疲れていたのかベッドに入ってすぐ寝てしまいました。


バタン!!


ダイニングの方で何かが床に落ちるような音がして目が覚めました。

時間は覚えていませんが、外はまだ真っ暗で当然部屋も真っ暗だったので恐る恐るダイニングを見に行きました。

ダイニングはシンと静まり返っており、床には何も落ちていませんでした。

じゃああの音はなんだったんだろうとその場に立ちすくしていると


コンコン


玄関のドアをノックする音が聞こえました。

ヒッ!

声にならない悲鳴をあげ玄関ドアを凝視しました。

とても怖いですが同時に音の正体が気になって仕方がありませんでした。

恐る恐るドアへと近づきドアスコープを覗くと、そこには部屋の前の外廊下が見えるだけで何もいませんでした。

物音で起きたSさんと朝まで起きて一緒に過ごしていました。


朝になりSさんと仕事に向かいました。

寝れなかったこともあり仕事には全く集中できずイライラしながらその日の仕事を終えました。

2人で帰るのは怖かったのでSさんとファミレスで夜ご飯を食べアパートへと帰りました。

お風呂に入りリラックスしたのか眠気がピークを迎えました。

ベッドに入ると間もなく気絶したように眠ってしまいました。


ガシャーーン!!


食器が床に落ちて割れるような音で目が覚めました。


昨日のこともあり恐ろしくて仕方ありません。

すぐにSさんの部屋へ行くと彼女もこの音で目を覚ましていたようで恐怖の表情を浮かべていました。


Sさんと話し合った結果もうここには居られないということになり荷物をまとめて寮を飛び出しました。

行く宛てもなく飛び出したので、どこに行こうか相談し駅前のビジネスホテルに2人で泊まることにしました。

空き部屋はいくつかあったようですが、先程の出来事が恐ろしくて同じ部屋に泊まることになりました。

少し時間が経ってきたことと2人でいる安心感からかぐっすり眠ることができました。


朝になり目を覚ますとなんだか頭がボーッとしていました。

自分のおでこを触ってみるとなんだか熱っぽかったのでフロントに電話をして体温計をお借りしたい旨を伝えるとスタッフさんが部屋まで持ってきてくれました。

そんなやり取りをしているとSさんも目を覚ましました。

「おはよう。」

そう声をかけながら体温計を脇に挟みました。

「うーん…おはよう…」

寝起きだからかしゃがれた声でSさんが答えました。


ピピピッ


体温計を脇から取り出し見てみると『38.2℃』と表示されていました。

「熱あるの?」

とSさんが心配そうに聞いてくれました。

「ちょっとだけ」

するとSさんが少し気まずそうに

「実は私も熱っぽくて…体温計借りてもいい?」

と言うので体温計を渡しました。


ピピピッ


「Sさんどうだった?」

「やっぱり熱あるみたい…」

体温計の表示は『38.0℃』でした。


職場に休みの電話をすると2人でこんな状態になっていることが変だと思ったのか上司から連絡がありました。

これまでの経緯を説明すると

「寮として借りてる別のアパートがあるからそこに移動するといい。ホテルだとお金もかかるから。」

と言ってもらいその手配もしてもらいそのアパートへと移動しました。


それから数日2人とも寝込んでしまい、ただの風邪ではないかもしれないということで2人で大きめの病院へ行きました。

診察を受けただの風邪だと思うけどとのことでしたが、念のためと採血もお願いししてもらいました。

ベテランっぽいおじいさん先生から

「もし来週までに変化がなければまた来て下さい。血液検査の結果出てるはずですから。」

そう言われ帰宅しました。


結局2人とも1週間熱は下がることなく寝込んだままだったので再度2人で病院へ行きました。

診察と前回の血液検査からは原因はわからず、今回いくつか検査をし、また回復しなければ来週来るようにと言われました。

Sさんも同様の結果で原因はなんなんだろうね、と会話しながら帰りました。


それから1週間経ちましたがそれでも回復しませんでした。

前回行った検査でも異常は見当たらず困った先生から

「もうお祓いでも行きなさい。」

と冗談交じりで言われました。


Sさんの診察も同様だったようで、最初の寮のアパートでの出来事のこともあったので本当に2人でお祓いに行こうかということになりました。

3週間も休んでしまったのでT市のお店には代わりの方が来たらしく、私たちは都内のお店に戻ることになり自分の家に帰って休むことになりました。


お祓いと言っても2人ともそういったことに詳しくなく、とりあえず有名な大きい神社にお願いしてみようということで問い合わせてみると数日後にご祈祷できますとのお返事だったのでお願いをしました。

当日2人で神社に行くと本堂のような場所へと案内され椅子に座り神主さんへこれまでのことを簡単に説明すると

「わかりました。解決できるかわかりませんがご祈祷をさせて頂きます。」

とおっしゃってご祈祷が始まりました。

最中に何か不思議なことが起きたりということはなく、無事ご祈祷を終え2人でお礼をし帰ることになりました。

帰る道中の時点で、頭がボーッとするような重い感覚が薄れてきました。

そのことをSさんに伝えると

「私も!効果あったのかも!」

と共感してもらえて、気のせいではないのかもしれないと喜びました。

その後解散し帰宅したのですが、家に着く頃にはどんどん重い感覚が薄くなっているのがわかりました。

でも油断はできないとそのままベッドへ行きゆっくり過ごすことにしました。

次の日の朝に目を覚ますと重い感覚は全くなく、熱を計ると平熱に戻っていました。

Sさんに連絡するとSさんも回復していたようで2人で大喜びしました。

大事をとってもう2,3日休みましたがぶり返すことなく仕事に復帰することができましたし、その後も霊的な現象に遭遇することもありませんでした。


結局あの時寮に現れたモノの正体はわかりませんし、体調が崩れた理由がそいつのせいなのかもわかりません。

ただ都内のお店で一緒に働く先輩から聞いた噂によると、そのお店では働き始める前にお祓いをするというのが恒例になっているらしいのです。

もしかしたら私たちは短期間だけの勤務だったのでやらなかったのかもしれません。


会社の寮 完

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