入院中に

30代の都内の接客業お店で働く女性から聞いた話です。


ある日お店に一度だけいらっしゃった男性のお客様が体験した話です。

そのお客様はGさんといい、30代後半くらいで数年前まで東北に住んでいたそうです。


私が数年前の東北に住んでいた頃に体調を崩してしまい、病気で数週間ほど入院することになりました。

その地域では一番と言っていいほどの規模の大きさの病院でした。

四人部屋の入り口側のベッドがあてがわれ入院生活を始めました。

体調が悪かったりで一日中ベッドにいるのでやたら暇ではあるものの特別何かがあるわけでもなく落ち着いて過ごしていました。


入院から数日したある日の夜中のことです。

仰向けで寝ていたのですが、ふと目が覚めると目の前に私に覆い被さるようにして、こちらをじっと見ている初老の男の姿がありました。

男の顔はもはや青いと言っていいほどに青白く、眉間に皺を寄せ睨み付けるかのような強い眼光でこちらを見ていました。

その男と合った目すらも動かすことができず、恐怖の中で私はこの男が何者かを考えていました。

しかし全く検討がつきません。家族、親戚、知人友人に思い当たる人物はいません。

目が覚めてから数分経った頃その男に違和感を覚えました。

その男は瞬きを一切せず、身体も一切動くこともなくじっとそこに居たんです。

男のそんな様子にも不気味さを覚えました。

ただひたすらに睨み続けています。

そんな状態がまた数分経ちました。

なんだか不思議と恐怖心が薄れてきたのです。

一切動かないということが、私に危害を加える気がないように思えて来たからです。

夜中でしたので次第に眠くなり結局寝てしまいました。


治療が進み退院することになったのですが、あれ以来あの男が現れることはありませんでした。


退院後に友人にこの話をすると、彼の知り合いに霊能者の方がいるので一度見てもらおうということになり紹介して頂きました。

指定された住所に向かうとそこにはごく普通のマンションがあり、部屋に伺うと中から50代から60代くらいの女性が出て来て

「はじめまして、こちらへどうぞ」

とリビングへと招き入れてもらいました。

マンションもそうでしたが女性もお部屋の中もいたって普通で、胡散臭い謎の仏像的なものや御札的なものなんかがあるのではと想像していたので少し安心しました。

テーブルにつくとこちらをまじまじと見て

「あなたに憑いてるのは病院で亡くなった男性ですね。病院に居着いていたのが、自分に気付いてくれたことで憑いてきちゃったのね。」

私は体験した内容をまだ話していなかったので、そんなこともわかるのかと驚きました。続けて

「もしかしたら悪さするかもしれないからお祓いしておくわね。」

と言い目を閉じ何かお経のようなものを唱えてもらいました。

しばらくすると女性はお経をやめて目を開けると

「これで大丈夫だから。」

そう言われ、お礼を言いその部屋を後にしました。


それ以降怖い体験はなく、あの男がどんな人で何故憑いていたのか詳しいことは教えてもらえませんでした。

これが私が唯一体験した話です。


入院中に 完

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