掘り起こして
とある50代の男性から聞いた話です。
私はある建設業の会社で働いています。
十数年前の秋頃だったと思います。その日の現場はある倉庫兼事務所になっているところでした。
我々の仕事はその事務所の照明の交換のみで大した量もなかったため、吉田君(仮名)という若い子を連れて二人で行きました。
現場は一階が倉庫になっており、二階に事務所がありました。
倉庫の広さは車を8台くらい停められるほどで、事務所はその三分の一程の広さでした。さらに外にも車を4台停められるアスファルトの駐車スペースがありました。
しかし、工事当日は駐車スペースの内2台は別の業者さんであろうトラックと小さめのユンボが停まっていて、残りの2台のスペースはカラーコーンで封鎖されている状態でした。
現場の前に停車させ、その日必要な資材や道具を下ろし近くのコインパーキングに駐車することにしました。
現場に到着すると監督さんや他の業者さんと挨拶し、黒く塗られた外階段を上がり事務所へ入り作業を開始しました。
事務所内は他の業者さんはいなかったので作業は順調に進み、最後の一台を取り付けるというときに電動ドライバーの電池が切れてしまいました。
吉田君にコインパーキングにある車の中に交換用バッテリーを取ってきてもらえるようにお願いをし、自分はゴミをまとめたり、使わないものを片付けていました。
ふと事務所にある窓から駐車スペースを見てみました。
駐車スペースの一番端の一台分を掘り起こしているようでしたが、何をするかはわかりませんでした。
片付けの続きを始めていると駐車スペースの方で
「……何だ…? どうする……?」
はっきりは聞こえないがなんとなくそんなことを言っているような声がしました。
なんかあったのかなぁ~くらいであまり気にしていなかったのですが、タンタンタンタンッという外階段を駆け上がる音がしました。
事務所のドアがガチャッと開きそこに吉田君が立っていました。
その音になんだか少しドキッとしましたが、吉田君は焦った様子で
「ヤバいです!めっちゃヤバいです!」
と捲し立てるように言うので
「落ち着けよ~、何がヤバいの?」
と少しおどけて言いました。
すると吉田君は
「今駐車スペースの端の一台分掘ってますよね?そこに墓石がいくつも埋まってるみたいなんです!」
私は驚きましたが
「まぁまぁ、俺らとは関係ないんだから早く終わらせちゃおうぜー。」
そう言い作業を再開しました。
平然を装っていましたが本当は私も怖かったですし、吉田君も怖かったのでしょう、残りの作業は二人とも黙ったままでした。
作業の完了を報告するために駐車スペースにいる監督さんに声をかけると
「終わった? 今あれだから、もしなんかあったら連絡する。今日はもういいよ。ありがとねー。」
と、口早でとても焦った様子でした。
一応OKが出たのでもう一度階段を上がり事務所に戻ると、吉田君と道具を持って下りていきました。
あまり気にしないようにしていたのですがやはりどうなっているか気になり、帰り際にチラッと掘り起こした箇所を見てみると、確かに幾つかの墓石のようなものが見えました。
そのまま立ち止まったりせず、コインパーキングへ向かいその日は会社へ帰りました。
結局仕事のやり直しは無かったので、その現場に行ったはその日だけでしたし、居たのも半日くらいでしたのでその後どうなったかわかりません。
さすがにそのまま埋め戻したりはしてないと思いますが…
何故そんなことになっていたのか、そのお墓に入っていた方々はどうなったのか、そんなことを考えていたら少し不気味というか不可思議というかやるせないというか…
掘り起こして 完
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