バスの営業所

とある20代の女性から聞いた話です。

私にはA子という同い年の女友達がいます。A子とは高校時代の同級生でとても仲良くしていました。

大学は別々でしたが頻繁に連絡を取っていましたし、会って遊ぶこともありました。

A子はバスの運転手になるのが夢で、大学在学中にバスの運転手の免許を取る程でした。

就職もうまく行き路線バスの会社で仕事をすることになりました。

就職してすぐのことだったそうなのですが、研修のためにお客様を乗せずに先輩の指導の下で運転することがあったそうです。

昼過ぎにスタートし一通りコースを回り夕方頃に営業所に戻ると先輩が

「駐車は一人で大丈夫だよね?書類仕事あるから先降りるね。」

と言い降りて事務所へと戻っていきました。

少し緊張しましたが、駐車一つできないでどうする、と鼓舞し最初に停めてあった場所と同じ場所に駐車をし始めました。

左右のミラーを何度も見ながらゆっくり駐車をしていると、ふとルームミラーが目に入りました。

えっ?誰かいる。

そこには車内の真ん中辺りの通路に立つ四十代くらいの女性が写っていました。

でも今は駐車中です。驚きましたが落ち着いて駐車を終え、すぐにエンジンを切り女性がいた辺りを見に行きましたが誰もいません。

念のため一番後ろの席まで確認しましたが、人は一人もいませんでした。

きっと気のせいだったのだろうと無理やり納得し、持ち物をまとめ事務所へと戻りました。


次の日にも昼過ぎから夕方まで研修で運転をし営業所に戻ると先輩は先に降りていき、駐車は一人でやることになりました。

昨日うまくいったけどやっぱりまだ緊張する。

そう思いながらバック駐車を始めると、また昨日と同じように車内の真ん中辺りの通路に四十代くらいの女性が立っていたんです。

やっぱり昨日のは見間違いじゃなかったんだ。

驚きとともにそんなことを思いながらも駐車を続け無事駐車を終え、車内の通路や客席を一通り確認しましたがやはり何もいませんでした。

正直怖かったですが、就職して間もない会社の人に幽霊的な話をすると気味悪がられたり、怖がらせたりと良いことないなと思い相談できませんでした。

それから次の日もその次の日も一人で駐車をするときに同じ場所に同じ四十代の女性が立っているということが続きました。

慣れてはきたもののこれが毎日続くのかと思うと少し憂鬱になり、担当の指導係をしてくれている先輩に話してみることにしました。

先輩は事務所で書類作業をしていたので完了の報告をしつつ

「先輩ちょっといいですか?」

「うん?どうした?」

「駐車のことでちょっとお聞きしたいことが…」

先輩の作業する机の周りには他の職員がいたので少し離れた場所に促し小声で聞いてみました。

「ここ何日か駐車の時に変なことがあって…」

先輩は少し曇った表情で

「変なことって?」

と聞いてきました。

「実は1人で駐車してるとルームミラーに通路に立っているおばさんが映るんです。」

すると先輩は気まずそうに

「あぁー、それ気にしないでいいから。」

「え?どういうことですか?」

「うーん… とにかく気にしないでいいから。」

正直納得はできませんでしたが、あまりしつこくするのはあれだと思い

「… わかりました。」

そう答えてその話をするのをやめました。


それからは先輩の言うとおりに気にするのをやめたそうです。

勿論今でも毎日のように見るみたいですよ。


バスの営業所 完

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