ゴブリンひよこ

 夏祭りの夜店を物色していると、カラーひよこと描かれたのぼりを見つけた。


 赤、青、緑———。


 カラフルに着色されたひよこたちが、箱の中をちょこちょこと歩いていた。


「買わなくてもいい。見ていってくれ」


 屋台のおっさんが言う。


 私はしゃがみ込んで、ひよこたちを眺めた。


「ゴブ?」


 ふと、かわいいものに紛れ込んでいた、かわいくないものと目が合ってしまった。


 ゴブリンひよことは、ゴブリンニワトリのひな鳥のことである。


 大抵、気づいたヒトに処分される。


 稀に生き残った個体がゴブリンニワトリとなり、全国のニワトリ小屋に不法侵入を繰り返す。


「おっちゃん、ゴブリンひよこが混じってる」


「いつの間に……」


 屋台のおっさんはため息をつくと、掃除機でゴブリンひよこを吸い込んだ。


「ギョブッ!?」


 笑える声を残して、ゴブリンひよこが消えた。


 どれだけのゴブリンひよこを吸い込んだのか。


 その掃除機は「ゴブゴブ」とうるさかった。

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