第11話

「はい、じゃあ――口開けて?」


 予想通りだ! 美少女からあーんをしてもらう! こんな幸福があっていいのか!? いや、いいんだ。僕はこの子の彼氏だからね。素晴らしいなこの関係。


 ということで言われたとおりに口を開ける。


「えっあっ……ほんとにやるの? いつもみたいに恥ずかしがると思ってたんだけど?」


「ほくはほつひょうひはんはよ。そうやっへはすがひがふの。(僕は卒業したんだよ。そうやって恥ずかしがるの)」


「あっ……やっぱり肉じゃがなしって言ったら!?」


 やめない? 今更恥ずかしがるの。どうせぼくがヘタレって思ってたんでしょ?


 わかってるわかってる。まぁまぁさ。僕だって勇気――欲望を出すことだってあるんだから。


「くれるんだよね?(圧」


「あっはい」


 そういうと舞はにやりと笑って、肉じゃがをお箸で掴み。


「ほら、あーん」


 僕の予想通り、あーんと言ってきた。まぁ。今までの僕なら照れて『あっ……え……』って言ってたんだろうけど? まぁ成長したぼくだし?


「ん。ありがと」


 そう言って僕の方こそ口を開ける。すると舞は驚いたような表情をして。少し悩んでいる。


 ふっ。そんなに僕の反応が意外だったか。まぁ今日はマウントをとってみたくなったからね。


 あと単純にカップルらしくしないと。みんなから見られてるわけだし。


「むむっ。はい、あーん」


 肉じゃがを掴んだお箸が僕の口にだんだん近づいてきて――入った。


「やっぱり美味しいね。ありがと」


「まぁそりゃね? この舞様が作った料理ですから? まずいなんて言った暁にはもうそりゃあ――夜ご飯がどうなるかはご存知でしょ?」


 こうして脅迫を入れてくるのも忘れない、そこが舞の魅力――もとい性格なんだよね。


「ね。ほんとに美味しいんだけど。夜だけじゃなくて昼も朝も食べたいくらいだなぁ……」


 まじで。ほんとに。コンビニ弁当より、――いや美味しいんだけどね?――舞の料理のほうが何百倍も美味しいんだ。


 胃袋掴まれてます。舞の負担がおっきいからただの願望なんだけどね。


 もちろん通るなんて思ってないし、オッケーされたら逆に困――


「いいよ? お弁当作るの。朝ご飯はちょっと流石にあれだけど」


 ――困りません。


「いっいっいっい、いいんですか!?」


「いやそっちから言い出したことでしょ……? それに1人も二人も対して変わらないしね」


「な……なら」


 なんということか。僕の煩悩にまみれた欲望が通るなんて。こんなに素晴らしい世の中ってあるんだね。


 最高じゃん。もう僕死んでもいいや。心残りなんてないね。


「ん。じゃあ明日からってことで」


「はーい!」


 めっちゃ楽しみだな。美味しい美味しい舞様のご飯がお昼も食べられるなんて。





 ところで。めちゃめちゃ人から見られてる感じがするんですが。


「あのさ、舞――」


「見られてるよね。ま、多分あそこじゃないかな……」


 そう言って舞が指を指したのは――教室。


 やめろ。俺達のことを見てるのクラスメイトじゃねぇか。帰りづらいんだが!?


「まぁさ。蒼」


「うん?」


「見せつけちゃえばいいんじゃない……?」


 というと同時に僕のほうにご飯を差し出してくる。これは。またあーんってことか。


 ……そうだね。見られてることを気にしちゃ仕方ない。そういうことだってあるよ。


「そうだね。だって僕は――舞の彼氏だから」


「ね、私達は――付き合ってるんだから」


 付き合うっていうのは、こういうことなんだよね。


 けど――こういう視線に晒されるのも、悪くはないかな。







_____






第一部第一章第二節、八神蒼は戸惑い悟る 完




いやー。相変わらず章立て長いっすね。


さぁ。次節予告。


『八神蒼は裏切られる』


NTRは……ネタバレになるので言えませんねっ!


どうなるんでしょうか??


3日後より投稿スタートです。

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