第6話

 前回のあらすじ……

 美少女が超絶モブキモキモ陰キャである僕に手を繋ごうと提案してきた――




 ――とかそんなことを考えてる場合じゃなくて。今なんて言った? 手を……繋ぐ?


 んなバカな。僕たちは“偽”カップルだろ?


 そんな本当のカップルがすることしたらだめなんじゃないですかねぇ。というか必要ないんじゃないですかねぇ。


 ……役得だけど。もしできるなら。


「ね、蒼。私たち、んでしょ? ほら、手繋ご?」


 あえて付き合ってる、の部分を強調して周りに聞こえるように言う舞。やめてくれ。せめて教室に入ってからだと思ってたんだよ。


 こんな……こんな公共の場でそんなことを言わないでくれ。頼むから。僕のこと、実はボコボコにされてほしいとか思ってるタイプのやつだよね!? 


 とはいえ。手を繋がないという選択肢が僕の中にないことも事実。


 周りのやつからしたら今までの“クソ陰キャモブキモ根暗メガネ野郎”にプラスして“ヘタレ”までつくことになるからね。


 そんなのは嫌だ。……もうなってる気がしなくもないけど。ないけど!!


「う、うん。いいよ」


 と言って右手を差し出す僕。そこに舞の手が近づいてきて――


 触れた。指が少し触れた。それに合わせて僕の手は震え始める。


 けど。そんなことにはお構いなしに舞の手は僕の手を掴もうとしてきて。手のひらが触れ、手が重なり――


「ねぇ、蒼。手繋いだね?」


 なんて上目遣いで言ってくるから僕の心はもう耐えられない。見事にノックアウトされて、何も返事ができないまま学校まで歩いていくのであった。





 _______







 ところで。僕たちの関係は偽が付くカップルなのだが。こんな僕らでもひとたび手を繋いでしまえばそれなりにカップルには見えるみたいで。


 学校に着くまでの間にも、道行く大人に白い目で見られたり。ちびっこがキャーって言いながら横を通り過ぎたり。


 同じ学校に通っているであろう人たちの中でも、彼氏、彼女がいる勝ち組の皆様は僕に対して特別変な目を向けることもなくいてくれた。


 そして、僕は今、最大の関門であり、一番警戒しているボス部屋、教室へと入っていく道を歩いている。


「……ねぇ蒼。手痛いんだけど」


 教室に入っていこうとした時、舞からの苦情を受けた。……あれ、無意識に手を強く握りすぎてたってこと、?


「あっ! ごめん……」


 そう言って、僕は一旦舞と手を離す。申し訳ないことをしてしまったな。


「ねぇ。離してとは一言も言ってないんだけど??」


「……へっ!?」


 何を言ってるんですかこの子は。手が痛い=僕が強く握りすぎた=舞に痛い思いをさせている=手を離すべき! ……ってことなんじゃなくて?


「いや……だってさ……私たち付き合ってるんでしょ? というか。私はもう少し弱く握ってほしいなって意味だったんだけど?」


「ご、ごめん……」


 するすると、さっきよりも素早く舞は僕の手を握ってくる。流石に2回目となると緊張は――少ししてるけど、初回ほどじゃない。


 ちゃんと強く握りすぎないように気をつけて、眼前に迫った教室までの道を歩きだす。


「そっか、僕たち付き合ってるんだもんね。手を離したらだめだったか」


 僕は独り言のようにぼそっと呟く。これは、今日散々“付き合ってる”ってことを盾に色々言ってきた舞に対してのささやかな抗議。


「まぁ――」


 それを聞いた舞は口を僕の耳の近くに近づけてきて――


「――偽、っていう枕詞は付くけどね?」


 いや、今日散々それを使って僕に色々言ってきたのはそっちじゃないか!?!? と思ったり。やっぱり抗議の意、バレてましたか。






______






手を繋ぐイベントこんなに早く消化しても良かったのか……


いや、再利用するか(


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