八神蒼は戸惑い、悟る
第5話
僕の朝は憂鬱だ。
目覚ましの機械的な音に起こされて。一人でご飯を作って食べ、髪を整えて。
「いってらっしゃーい」というお見送りの声が聞こえてくるわけじゃない。
一人で誰もいない空間に「行ってきます」というのだ。辛いったらありゃしない。
なら親と同居すればよかったじゃないかって? いや、僕の希望だから。あんな奴らと一緒の高校には行きたくなかったしね。
そして、こんな生活を送っているとふと思うこともある。
『なんで僕は――あのときいじめられたんだろうか。いじめられてなかったらこうはなってなかったのに』
って。考えても結論は出ない。あのときいじめられていた、そのことだけが真実だから。
いや。実際はわかってるんだよ。僕が耐えきれなかっただけなんだ。それであいつが……くそ。
そうなる前からわかってたはずなのにね。
けど、そのことは僕の心に大きな傷を残している。今だって。少しでも気を許せる相手ができたのなら、すぐに泣いてしまっているだろう。
だから僕は誰とも絡もうとしない。人が信じられないから。人を信じたくないから。
舞は、例外。舞なら――舞なら、心を許してもいいのかもな。
だってそうじゃなかったら今回の提案、いくらご飯がかかっているとはいえ断っていただろ。
僕から突っかけたっていう負い目があったことも否めないけど。
まぁそれにね。いじめは舞が潰すって言ってくれたし。僕一人だけなら耐えれるから。大丈夫でしょ――
_______
周りの人たちはわいわいがやがやと学校に向かっている中、僕は一人で学校に向か――
「ねぇ、なに彼女置いていってるの?」
訂正。“偽”彼女が僕のことを追いかけてきた。
まぁたしかに家となりだし。僕と今日から恋人っていう設定だし。恋人なら一緒に行くべきものなのか。
いいのか。いや、だめなのでは? ……いいのか。(自己解決)
「……一緒に行く約束をしてるわけじゃなかっただろ?」
「だからって彼女のことをおいていくような人なんだね? 蒼は。へぇ〜〜そうなんだぁ……ひどい人だねぇ……」
ヴッ。痛いところを的確についてくるなこの
というかそんなに大きな声で僕に構わないでくれないかなぁ……。公表するとはいえ広まるより広まらないほうがいいと思うんだけどなぁ。
僕の心臓的には。……視線的な意味でいうと広まってくれたほうがいいんだろうけど。
……そうか。なら広まるべきなのか。というか結局広まりそうだな!?
「ごめんって……。まだこの非日常に慣れてないんだよ」
「じゃあ――今から一緒に行ってくれるよね?」
「う、うん」
ということで。
クラスで一番可愛い女の子と、クラスで一番存在感が薄い男子が、一緒に手を繋ぐ――まではいかないけど、親密に登校することになりました。
そうなると、当然周りの人たちはボソボソと僕の悪口を言うわけで。
「え? なにあのカップルみたいなやつ。明らかに釣り合い取れてなくね?」
とか
「カップルじゃ無いだろ……せいぜい男が弱みでも握ったんじゃねぇの?笑」
とか。挙句の果てには
「女もバカなのかなぁ……? 私だったらあんな男、半径1メートル以内に入ってきただけで殺意沸くのに」
と言われる始末。耐性ついてて良かったね。これ初見で言われたら絶対精神病むよ。
「ねぇ……。こんなに言われるとは思ってなかったんだけど……? やっぱりこの設定やめる?」
あー。舞も気に病んじゃったか。まぁここまで言われてたらそうなるよね。
「大丈夫。それよりどう? 嫌な視線、減っただろ?」
事実、そういう目で見る視線はかなり減っている。なぜなら男どもの視線が僕の方に向いてるからな!
羨望――ではなく怒りと好奇の視線がな! 予想通りだね!
「うん……私の方にはね……。けど蒼がさ?」
「いや、僕は大丈夫だよ。ほら、慣れてるしさ?」
「……慣れてるとかいう問題じゃないと思うんだけどねぇ……」
と言って。僕の方を心配してみてくる舞。慣れてるものは慣れてるんだよね。
まぁ……こんな僕でも人の役に立つのなら……って感じだし。
「ま、とにかくいいんだよ? それともやめてまたあの視線にさらされたいか?」
「……嫌だねそれは」
「だろ? じゃあ別に続けてもいいんじゃないのか?」
「じゃあお言葉に甘えて」
僕としても役得かもだしね。あの頃には戻りたくないけど――高校生でそんなことをするようなバカはいないだろう。……いないよな。
ということで。丸く収まることができ――
「――ねぇ! 蒼! 手繋ご?」
どうしてこうも舞は爆弾を落として来るんだろうなぁ……。(諦め)
_______
爆弾魔舞。
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