第2話

「で? なに勝手に入ってきてるわけ? 僕入っていいよって言ったっけ?」


 隣に住んでるから夜ご飯を持ってきてくれた。これはありがたいことだ。


 そして、それで一緒に食べようというのもまだ、ギリ、なんとか理解ができる。


 けどさ。勝手に入ってくるのは違くない? ここ僕の家だよ? なんか見たら良くないものでも落ちてたらどうするのさ。ないけどね? ……ないよ?


「言ってないけど……。いつものことじゃない?」


 そう。この女。4月1日に引っ越してきてからというもの、今日までに一週間くらい経ったわけだが。


 毎日僕の家にご飯を持ってきてくれるのだ。そして、毎日僕の許可無く家に入ってくる。


 そのおかげで家をきれいにしておこうという気が起きているのは皮肉な話だが。


「いつものことで済ましちゃだめなんだよなぁ……」


「それ、毎日言ってない?」


「君が毎日入ってくるからだろ!」


 彼女のとぼけたような質問に、僕は反射的にツッコミをしてしまった。


 ふふっ。と笑っている彼女。ねぇ、君確信犯でしょ。


「それで? きょうは何を食べたい気分? 蒼くん?」


 彼女――いや、舞は小首をかしげて聞いてくる。ほんっと。いちいちその仕草が画になるのが良くないところだよなぁ。


「……うーん。お寿司で」


「ねぇ。これで7日連続7回目のお寿司の要望なんだけど。私が作れるやつにしてって言わなかった?」


 仕方がないだろう。お寿司が食べたいんだから。その欲はなくなることがない。


「言われた。けど食べたいのはお寿司」


「じゃあなしでもいいの? 私が帰ってもいい?」


 なに!? それはまずい。僕はもうここ3日、舞の料理を当てにしてる節があるんだ。


「……ごめんなさい。なんでもいいので作ってください」


「はーい、じゃあ今日はプルコギでも作るかなー!」


 ……( ゚д゚)ハッ!! またやられた……。いつもこうなんだ。


 僕がお寿司を食べたいって言ったら、舞に帰るよ? って言われて、んでそれは絶対に避けたい僕が結局折れるっていうね。


 どうなんだろうな。もし僕がそれでもお寿司が食べたい!!!! って言ったら。


 舞、ほんとに帰るのかな? ……いやほんとに帰られたら困るからそんなことできないんだけど。


 そうして、舞が料理を作って、僕が食器とかを並べたり、彼女の補佐をする。


 まだ一週間だけど、もう手慣れたものだね。


 大体何をしたらいいのかってのがわかってきたし。


 そのうちに夜ご飯が完成した。


 僕と舞は対面になって座る。こっちのほうがよく話せるからね。


 あとは、単純に横に並んだりすると狭いし。僕の部屋、そんな二人ならんで座れるほどに大きい机はないんだよ。


 まぁ最大の理由は、僕たちが健全な男女だからだよね。そんな、隣りに座って食べるなんてバカップルみたいなこと到底似合わない。


 そうして、ふたりで「「いただきまーす」」と言って食べ始める。


 いつもなら、世間話をしたり、僕らが通う学校ってどんなんだろうなー? っていう話をしていたんだけど、今日は入学式だった。


 ということはつまり、陰キャの僕と陽キャの彼女では感じ方が全く違うってことだろうから。


 舞は、クラスの何割くらいの人と仲良くなったんだろうなぁ……。僕なんかじゃ到底考えられないほどに多くの人と仲良くなってるんだろうなぁ……。


 と、思っていたのに。


「はぁ~!!!! ねぇ、蒼。高校ってあんなに疲れるの? 私苦手な人しかいなかったんだけど!!」


 舞、どうやら本性はコミュ障だったのかもしれません。


「仕方ないよ。だって舞は顔がいいから」


「えっ……いやまぁそうかも知れないけどさ? それにしてもみんなグイグイ来すぎじゃない? 初対面の人にそれってやばいと思うんだけど」


 いや、そこでナチュラルに肯定して来ないでくれる? 謙遜ってものを知らないの? 


「だから舞と仲良くなりたいんでしょ」


 僕だってそうだったから。舞が僕の家の隣に引っ越してきた、ただそれだけのことだったけど。


 舞がその日に僕のところに夜ご飯を持ってきてくれたのは嬉しかったよね。


 もしかしたら仲良くなれるかも、って。……友達を作りたくない、っていうのが本音だったけど舞さん顔が整ってるので別枠です?


 いやまぁそれにしても仲良くなり過ぎかもしれないけどさ?


「くっそぉ〜〜私の平穏な学校生活が……」


「よくその顔で言えたよね」


 本当に。フツメンの人がそれを言うなら全然わかるんだよね。なにか不慮の事故が起こって平穏な日々がなくなったってことだから。


 けど舞は違くないか? そんなに整った顔して……なんで平穏な日常がえられると思ってたんだろうか。


「あ? なんか言ったか?」


「いえ、なにも……」


 やっべ。今の発言は誤解を生む言い方だったかも。


「ただ、そんなに可愛いのに人気者にならないって思ってたほうが間違いだとは思うけどね」


「……ポッ」


 僕が心からの本音を言うと、舞は顔を赤くして効果音を自分でいって黙り込んでしまった。


 あ、これだったら告白してるみたいになっちゃうか。


「安心して。僕は舞のこと友達って思ってるからね」


「なんだよ!! くそっ!」


 舞。言葉遣いが汚いよ。








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明日からの更新は夜にします!


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