5-6

 それから三週間後、レイクは再び休みを利用して王都を訪れた。今度はまっすぐにルークの店に向かう。ルークも待っていたのか、通りにレイクの姿が見えるとすぐに扉を開けてくれた。


「先生! 待ってましたよ! 指輪、ちゃーんとできましたよ!」


「それはよかった。見せてもらえるかい?」


「もちろんです!」


 店の奥へ駆けていったルークがすぐに小さな箱を持って戻ってくる。レイクはそれを受け取って開けた。銀色の細いリングに、小さな水晶をあしらった指輪が収められている。水晶は雫型で、透明なフォルムが綺麗にカットされている。


「親方にも何回も見てもらったんで、出来は間違いねぇと思うっす! まぁ、細かい装飾とかはあんまり上手くないかもしれないですけど……」


「いや、期待以上だよ、ルーク。これなら彼女も喜んでくれるだろう」


「ホントッすか!? うわーでも先生これでプロポーズするんすよね! 俺なんか緊張してきたっす!」


「君が緊張することはないだろう」レイクは苦笑した。「むしろ僕の方が緊張している。彼女に何と言って切り出せばいいものか……」


「そこはやっぱり直球っすよ! 好きです! 結婚してください! これに尽きるっす!」


 確かにリビラが相手なら、歯の浮くような台詞を並べるよりも、純粋に思いを伝えた方がいいだろう。君を心から愛している。どうかこれからも、僕の傍にいてほしいと。いざその場面になれば、そんな簡単な台詞さえも口にできなくなるかもしれないが、リビラならその不格好さを受け止めた上で、言葉にできない本心を汲み取ってくれるのではないだろうか。


「とにかく、いいものを作ってくれてありがとう。それで、代金だが……」


「あっ、いらないっすよそんなの! これは売りもんじゃないっすから!」


「そういうわけにはいかないよ。君はこの指輪を作るのに相当な労力をかけたはず。労働に対する対価は払わなければね」


「うーん、でも、これは俺のお礼みたいなもんですし……」


「では、出世払いということでどうだろう? 君が一人前の彫金師になるための投資金として僕は代金を払う。払った分は、君が作品を店に出せるようになった頃にでも返してくれればいい」


「……ホントにいいんすか?」


「ああ。自分が益を受けるばかりでは僕としても申し訳ないからね」


「……わかりました。じゃ、今回は受け取っときます! でもいつか絶対返しますからね!」


「ああ。楽しみにしているよ」


 交渉が成立したところで代金と指輪を交換する。改めて持つと指輪はずっしりと重みがあった。箱が頑丈に作られているのか、それとも自分の緊張感ゆえか。


「では、僕はこれで失礼するよ。また顔を見に来たいところだが、僕もなかなか時間が取れなくてね。しばらくは難しいかもしれない」


「いいっすよそんな! 気を遣わなくても! あ、でも、もし来る機会あったら彼女さん連れてきてくださいね! ……あ、いや、その時は奥さんになってるかも!?」


「だといいけどね」


 苦笑しつつ店を後にする。ルークは外まで見送りに出てきてくれた。通りの真ん中に立ち、身体ごと振り動かすように大きく手を振ってくる。


 眩しい笑顔を湛えたその姿は最後まで少年らしく、温かな祝福と応援に満ちていた。

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