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「それより先生、なんでまた急に帰ってきたんすか? さっきは所用って言ってましたけど」
「ああ。そのことで君に会いに来たんだ。実は一つ、作ってほしいものがあってね」
「作ってほしいもの? アクセサリーですか?」
「まぁそんなところだ。君はもう自分でアクセサリーを作っているのか?」
「うーん。作るのは作るっすけど、店には出してないですね。親方からまだその段階じゃないって言われて」
「そうか……。もし可能なら、指輪を作ってほしいと思ったんだが……」
「指輪? 先生そんなの付けてましたっけ?」
「いや……僕のものではないんだ。その、贈りたい女性がいて……」
「え……。あ、もしかして先生、プロポーズするんすか!?」
興奮気味に声を上げたルークが顔をくっつけんばかりにして尋ねてくる。レイクは何と返事をしたものか迷ったが、ここは正直に答えることにした。
「……実はそうなんだ。ある人から、きちんとしたものを用意した方がいいと言われて、それでこの店のことを思い出したんだ」
「うわーそうだったんすか! え、どんな人っすか!? 美人っすか!?」
「美人かどうかはわからないが……芯の強い女性ではあるよ。他人に依存せず、常に人の役に立とうと奔走している……。僕は彼女のことを尊敬しているよ」
「うわーめちゃくちゃ興味あるっす! ねぇ先生! 今度連れてきてくださいよ!」
「それは……またの機会にしよう。彼女がプロポーズを受け入れてくれるかどうかもわからないからね」
「受け入れるに決まってるっすよ! 先生のプロポーズ断る女なんかいるわけねえっす!」
確信を持って言われると少しだけ安心感が芽生える。レイク自身、リビラは受け入れてくれるだろうとは思っていたが、それでも万一のことを考えると不安は拭えなかった。
「先生、その指輪、俺に作らせてもらえませんか!?」
「え、しかし……」
「お願いします! 先生の彼女さんのために、世界で一番綺麗なやつを作りますんで!」
ルークが直立してから勢いよく頭を下げる。レイクはどうしたものかと考えた。彼はまだ見習いで、自身の作品を出店するには至っていない。婚約指輪のような大事なものを作らせるには早いのではないだろうか。
だけど一方で、レイクはこの青年に託してみたいという気持ちもあった。実直なルークであれば、相手を喜ばせるためにあらゆる労を惜しまないに違いない。そしてリビラも、見た目だけが美しい指輪よりも、そうした真心の込められた指輪の方を喜ぶのではないだろうか。
しばし顎に手を当てて思案した後、レイクは決心して頷いた。
「わかった。ルーク、それでは今回は、君に指輪の制作を任せよう」
「ホントッすか!?」ルークが弾かれたように顔を上げる。
「ああ。君ならきっと、いい指輪を作ってくれるだろう。時間はかかっても構わないから、君にできる最高の作品に仕上げてくれ」
「任せてください! 絶対世界で一番綺麗な指輪を作ってみせますんで!」
ルークが自信の程を見せるように胸を叩く。感情をそのままに表す仕草はプロの彫金師としては頼りないようにも見えたが、それでもレイクは自分の判断を後悔しなかった。
ルークは見習いだが、レイクの役に立ちたいという気持ちは誰にも負けない。彼ならば、きっとリビラに似合う指輪を作ってくれることだろう。
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