2-4
「ところで……リビラ、前から気になっていたんだが、どうして君は僕との関係を周りに隠そうとするんだい?」
三つ編みを結い直しているリビラに向かって、レイクがふと思いついて尋ねた。
「僕達が交際を始めてからもう一年にもなる。そろそろ関係を公言してもいい頃合いだと思うんだ。そうすればこんな風に人目を忍んで会うこともなくなる」
それはとりもなおさず、彼女と会う時間を増やしたいという意味だったのだが、意外にもリビラはかぶりを振った。
「ううん……。そのうち知らせようとは思ってるけど、今はまだ黙っててくれない? あたし、自分が調子に乗ってるって思われたくないのよ」
「調子に乗る?」
「そう。
「誰もそんなことで怒りはしないと思うが……。もしかして実際に何か言われたのか?」
「今は何も。でもそのうち言われるかもしれないわ。だって相手があんただもの」
「どういう意味だ?」
「あら、知らない? あんたは女の人から人気があるのよ。街じゃみんな噂してるわ。レイク先生はカッコよくて優しくて素敵だって。あんた目当てでここに来てる子がいるくらいなんだから」
レイクは咄嗟に言葉を返せなかった。だが心当たりはある。
実際、診療所を開設した当初は、老人や怪我人よりも若い女性の患者の方が多かった。彼女達は大した病気にかかっているようには見えないのに、なぜか毎週のようにやってきては、聴診器を当てているレイクの顔をうっとりと眺めていた。中には恋の病だと公言して大胆にもしなだれかかってくる患者もいたが、そういう時には騒ぎを聞きつけた待合室の男性患者が引き離してくれた。
この事態は長老に報告され、本来の診察の妨げとなるから二度とするなと女性患者達は手厳しく注意された。
以来、そうした浮ついた患者が来ることはなくなったが、それでも時々、彼女達と似たような眼差しを向けてくる患者はいた。
「そう、なのか……。僕の方は全く意識していなかったが……」
「でしょうね。あんたは基本的に病気しか見てないもの」リビラが呆れ顔で笑った。
「でもあたしがみんなに話したくないって言うのもわかるでしょう? あんたみたいな人気者と付き合ってるなんて知られたら、どんな悪口言われるかわからないもの。相手が美人なら納得してもらえるかもしれないけど、あたしはそうじゃないしね」
確かにリビラは誰もが認める美人ではない。顔立ちはいたって平均的で、人目を惹くような容貌ではない。吊り上がった目元は勝気な印象を与え、苦手とする男性も多いだろう。
だがレイクは、単に美人でないというだけで、彼女に自分が魅力のない人間だと思ってほしくなかった。だから言った。
「人の魅力は外見だけで決まるものではないだろう。君の魅力は何よりもそのひたむきさだ。人の役に立てることを至上の喜びとし、常に人のために奔走する……。そんな君の姿を知っていれば、君が誰と付き合おうと悪し様に言おうなどとは思わないさ」
「……そうかしら。でも、あたしとあんたじゃ全然釣り合わないと思うけど……」
「そんなことはないさ。君のその精神は、何よりも君の美しさを引き出してくれている。僕は君ほど魅力的な女性に出会ったことがないよ、リビラ」
レイクは何のためらいもなくそう言ったが、リビラは目を見開いて息を吞んだ。レイクの顔をしばし凝視した後、顔を赤くして目を逸らす。
「……もう、そういうことを真顔で言うから、あんたは患者を増やすのよ」
リビラが動揺した理由がわからずにレイクは首を傾げた。思っていることをそのまま伝えただけなのに、どうして彼女はそんなに恥ずかしがっているのだろう。
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