俺の犬になれ6


一瞬で私とアキラの距離が縮まって、あっという間にアキラの胸板に頬が当たった。


「なにすんの……よ……?」


思いっきり見上げた先には、息もかかりそうな程の距離にひどく綺麗な顔があったから、不覚にも頬に熱がともってしまった。



これだけは分かってほしい。


顔が赤くなったのはただの自然現象で、決して『好き』とか、そういった感情じゃない事を!



何度も言うが、アキラは外見だけはめちゃくちゃいい。


今、人気の芸能人を寄せ集めてもダントツでアキラが勝つんじゃないか、ってくらいに良い。


でも良いのは本当に外見だけ。


いくら外見がよくても、中身は『究極のゴミくず』だし。

口もめちゃくちゃ悪いし。


それに私の人生の半分を台無しにしたのは他の誰でもない、こいつなんだから!!



「離して!」


掴まれた手を大きく振りほどいたのに、眉ひとつ動かさないアキラは、何故かあごに手を添えて品定めするような目でジッと私を見た。


「なっ、何よ……!?」

今のは一体何!?

なんであんな事したの!?

分からないけどヤバイくらいに心臓がうるさい。


解放された手首にまだアキラの余韻よいんが残る中、警戒から後ずさりする。


どこか楽しげに見えるアキラは、長い足をゆったりと組み直したあと、優雅に首を傾げた。

「消すの嫌だって言ったら、お前どうすんの?」

「何それ。どうすんのも何も、何としてでも消してもらうつもりだけど!?」

キッと睨んで言う私の言葉を聞いたアキラは、肩を震わす。


そして前髪を揺らして隙間から皮肉な笑みを見せた。


「分かった。じゃあ、俺の犬になったら消してやるよ」



「……………………は?」


アキラの突拍子とっぴょうしもない言葉に、思わず口が歪む。



犬になれ⋯⋯だって?


この私が??

アキラの??


はぁーーーー!?


マジで……

マジでこの私を玩具おもちゃにするのも、いい加減にして欲しい!!


昔にやっと解放されて自由になったのに、またあの時みたいにアキラの暇つぶしになれって!?


あんな舎弟みたいなのには絶対に戻らない。

もう私は、言いたい事も満足に言えなかった昔の私じゃないんだから!


親の圧だってないし、

男なんて怖くないし、

アキラも怖くなんてないんだから!


「私を馬鹿にするのもいい加減にし⋯⋯」

アキラと距離を取っていたはずなのに、いつの間にか私の頭に影が落ちて来てギョッとして見上げる。


すると私の視界には不必要に整った顔がすぐこそまで迫っていてーー


「えっ……なっ」


嫌な予感に咄嗟とっさに顔を背けようとする私。

でも先手を打つようにあごつかまれてグイッと強制的に見上げさせられる。


「アキ……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る