俺の犬になれ5


ゆったりとしたジャズが耳に飛び込んで来た。


ピアノの演奏が素敵で、とても私好みの綺麗なメロディが流れている。


そして肝心の無愛想なアキラはと言うと……、

満点の星空のような夜景を背景に、高そうな黒い革のソファにゆったりと腰掛けている。


やけに艶っぽく見えるのは、きっとこの間接照明のせい。


サラサラの黒髪からのぞく鋭い瞳をさらに細めて、お馴染なじみの馬鹿にしたような笑みを深める。


「おせー。その年になってもノロマ遥のままかよ」

くくっと笑われ、カチンと来たけど我慢をした。


だって、アキラの言葉に逐一ちくいち反応してたら、身も時間も足りないから。


「消してよ、あの写真」

「あぁ、さっき送った写真の事?それでわざわざ来たの?」

「それ以外に何があるのよ!」

ムキになって言うと、こっちは真剣なのに吹き出して茶化すアキラ。


「フハッ、必死。そんなに消して欲しいの?」

「当たり前でしょ?」

「どうしよっか?」

妙に楽しそうなアキラは、ゆったりと首をかしげると目を細めた。


その姿はまるで悪代官みたいだ。



「どうしよっか?

じゃないわよ!こっちは人生かかってるのよ!早く消してよ!」


「は?なんで人生かかってんの?」

少し驚いた様子のアキラに、私まで驚いた。


「えっ!?だってあれは……」

あれ?なんで驚いてるの?


まさかあの写真、ちゃんと見てない!?

じゃあなんで?どういう意図であんな写真を送ってきたの?


アキラが何を考えているのか全く予想できない。

もし、本当によく分かって無くてあの画像を送ったのなら、逆によく見られていない間に消してしまいたい。


もしあれをネタにされたら⋯⋯私の人生、本当に終わりだから。


「り、理由なんていいから!すぐ消してよ!」


すると「ふぅん?」と何を考えているのか分からない顔で、チョイチョイっと人差し指を曲げて私を呼んだ。


「なに?」

「来いよ」

無駄に綺麗な顔で命令してくる。この私に!



「な、なんなのよ」

その綺麗で長い指に呼ばれた私は、渋々しぶしぶ足を運ぶ。


そんな私は、まるで犬か召使いの様だ。


近付けば近付くほど嫌になる位に分かってしまう。

アキラが驚くほど綺麗な顔をしているって事が。


だから目をらした。

こんな事を思っているなんて、アキラには微塵みじんでも気付かれたくなくて。


するといきなり重心がグラついた。

何事かと思うと、手が引っ張られる感覚が伝わって……


「……えっ」

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