俺の犬になれ4


「ほんと、かわいくねぇな」


呆れたように肩をすくめて出てきたアキラを、思いっきり睨みつける。


「アキラに可愛く思われなくて結構!」

「ああ?そういう態度すんなら入れてやんねぇから」

そんな偉そうな事を見下ろし言われてイラっとする。


「ごめんなさいね!どう?これで満足!?」

そう怒り混じりに言ってズカズカと玄関の中に入ろうとすると、お腹に何かが当たった。


視線を下げると、そこには行く手を塞ぐアキラの手があった。


「何?」

睨んで見上げる。


「違うだろ?『ごめんなさい』、だろ?」

綺麗な顔の眉間にシワを入れたアキラが偉そうに、顎を突き出し言う。


そんな言葉に目を逸らしてグッと奥歯を噛んで、声を殺すように嫌々言った。

「ごめん……なさい」


そんな私の様子を見たアキラは呆れたように言って手を避ける。

「前から思ってたんだけど、いつからそんなのになってしまったんだよ」


中に入ると、ふわりとアキラの匂いが鼻をついた。



アキラの事は大っ嫌い。

でも、昔っから不思議とアキラの匂いは嫌いではない。

これが何なのかは、今でも分からない。


小さい頃から知ってるからか、懐かしい香りとかそういったものなんだろうか?

お婆ちゃんの家みたいな?けどそんなたぐいではないような⋯⋯。


もっと、心がかき乱されるような……。



「なにボーッと玄関に突っ立ってんだよ。早く入れよ」

「わっ、分かってるわよ!!」


再会してから私達はずっとこの調子。


大学で逃げ切れなかった時は毎回こんな感じで、いがみ合いのような、喧嘩腰けんかごしのような感じ。


小さい頃は全然違う。

でも内心怖いのは変わらない。


アキラは昔っからこんな調子だけど、表面上だけだけど変わったのは私。



「先行ってる」


ヒールのベルトが上手く外れなくて上手く靴が脱げずにいると、アキラは私を玄関に置いていこうとする。


「え、待ってよ!」

「一番奥の部屋で待ってる」


振り向きもせず背中越しにそう言うと、本当に私を置いて行った。


そんな状況に、一人残された広い玄関で呟いた。

「はぁ!?こっから見るだけでもドアが何個も見えるのに、一番奥ってどこよ」



ああーー!!なんて無愛想な男!!


みんなアキラ君アキラ君って騒ぐけど、

こんな男のどこがいいのよ!!

優しさの欠片かけらさえ無いじゃない!


普通の男なら、

私という人間が家に来てくれた事に感謝感激かんしゃかんげきするものでしょ!?


そしてペコペコと頭を下げて、おろしたてのピカピカのスリッパの1つや2つや、最高のワインでも持ってくるものでしょ!?



でもまぁ、これは『 普通のゴミくず 』の人の話。


アキラを普通枠に当てはめて考える事がおかしいのは分かってる。


生まれた瞬間から名誉や美貌とかを、全て持って生まれて来たからか、アキラは普通なんかじゃないんだから。


でも、分かっててもムカツク!!


「ああーー!!

ピッカピカの床だけど、アキラがスリッパありで私が無しなんて許せない!!

きぃーー!!」

頭を抱えた後にスリッパ無しの私は生足でズンズンと足音を立て廊下を歩く。

無駄に長い通路を奥に進むと、突き当りに唯一ゆいいつ明かりのもれるりガラスのドアが目に入った。


淡い記憶で見た事のあるドア。


「ここかな?」


恐る恐るドアを開けた瞬間ーー

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